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ミシガンから来た男 # 3

Jazz Me Blues : Bix Beiderbecke/'24、'27

ビックスのデビュー作にして早くも"凄いソロイストがいる"と評判を取った記念碑的レコードがこれである。
当時ニューヨークではジャズセンスの乏しいレッドニコルスやその盟友ミフモール(tb)らがスタープレイヤーとして我が世を謳歌していた。
が、このジェネット盤は瞬く間にシカゴやニューヨークのジャズ信望家から歓迎された。
ビックスとニコルスの邂逅は記録にはないがニコルスは自分の精神の拠り所をビックスと公言して止まなかったし、少なくとも1924年にフレッチャーヘンダーソン楽団に在籍していたルイアームストロングと親交を結んでいたのは確かである。
ビックスが1924年大正13年2月18日に♫フィジティーフィート ♫レイジーダディ ♫センセイションラグ ♫ジャズミーブルース の4曲を線路沿いにあったジェネットスタジオで録音した時のエピソードは1992年のイタリア映画「BIX 」で忠実に再現された。
♫ジャズミーブルース 録音中に定期外の貨物列車が通過して録音がオミットになると言う場面だったが、笑いのセンスに事欠いた映画の中で唯一ニヤリとさせられた場面だった。
史実かどうかは判然とはしないが、当時の牧歌的な録音風景を描いた点では逆にリアルでもあった。
結局4曲中真ん中の二曲は廃棄処分になり、最初と最後の曲が一枚のレコードにパッケージされ売出される。
ビックスのソロは当時の彼のアイドルだったニューオーリンズリズムキングスのクラリネット奏者リオンラポロからの影響色濃く、世界史上初のジャズレコードを1917年にリリースしたオリジナルディキシーランドジャズバンドのラリーシールズと言う木管奏者にインスパイアされた端正なソロをものしている。
メロディーの流れを作る上で和音変化に寄せたビックスの初期の関心は、鍵盤楽器で即興したいと言う熱望の現れに他ならないが(事実ビックスには♫インナミスト と言うピアノ演奏録音が残されている)、原メロディーの単純なリズム主体の変奏に留まるニックラロッカ(オリジナルディキシーランドジャズバンドのコルネット奏者)ら多くのコルネット奏者よりは、和声的にも旋律的にも内声部を編み上げるクラリネット奏者の方に強く惹かれていたことをあわせて示すものと思われる。
♫ジャズミーブルース は、ビックスが高度な和音を使って、軽快に、優雅に、精妙に運ぶ数多い演奏のうち、最初の録音にあたる。
それは本来なら金管奏者ではなく、むしろ一部の木管奏者の演奏に聞かれるものだ。

ビックスは時を経て再びこの曲を録音する。
1927年10月5日 オーケーレコードだが再びこの日の録音は後世に残る名演となる。
ビックスは常々1924年のデビュー盤当時の録音技術の未熟さを嘆いていたから、或る種のリベンジだったのかもしれない。
この頃のビックスは直前まで在籍していたジャンゴールドケット楽団との契約を満了してポールホワイトマン楽団と新たに専属契約を結ぶ直前のタイミングだったが、録音のメンバーは短命だったエイドリアンロリーニ(bs)のバンドから選ばれたが、大半はゴールドケット楽団出身者が占めていた。
演奏自体はビックスにつきまとう矛盾したジャズ観を改めて立証するものである。
ビックスは本能の命じるまま、音楽的にほとんど同世代の先をいきながら、しかも20年代の有力な演奏家仲間がつぎつぎとディキシーランドスタイルを離れていると言うのに、自分自身の吹き込みでは時代の流れに逆らう表現法を取って吹いた。
だが、そうしながらも彼は、この日を通して、新しい方法でディキシーランドジャズを演奏するための基本原理を打ち立てる。
高度な和声と四分の四拍子のスウィングリズムの化粧を施し寛いだ、気ままとさえ言えるコルネットリードを前面に押し出し、独奏部で参加者の一人一人に見せ場を与えて、今日のディキシーランド形態の原型をつくり、玉石とりまぜた無数のバンドを輩出するのである。
1927年の♫ジャズミーブルース は寛いだ雰囲気こそ1924年のデビュー盤と変わりはないが、耳に新しい楽句や和声があり、見違えるほど格調が高い。
更には和音の上部構造を執拗に探求して、もっともいいときのビックスを特徴づける。
それはごくさり気ないので、聞くと言うより感じると言った方がいいだろう。
此れらのセッションで、ロリーニの手腕は賞讃に値する。
扱いの厄介なベースサキソフォンでスウィングする能力だけでもびっくりさせるのに、彼は類まれな才能と見識を備えたジャズ演奏家であり、自分を見失わずに、おそらくはピーウィーラッセル以外の誰よりもバイダベックの音楽を理解し、吸収して吹いたのである。

参考文献
・リチャードハドロック著「ジャズ1920年代」諸岡敏行訳 草思社刊
・リアルジャズミーブルース/ビックスバイダベック ソニーレコード 解説内ディスコグラフィック

https://youtu.be/lJoPidmFtZA

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https://youtu.be/MpHmPV9SLTM

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