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ミシガンから来た男 # 1

☆白人ジャズトランペッターの誕生

アメリカントラッドジャズの新連載が続いているが、昨日の紅井良男さんに続いて是非この人にも光を当てたいと思い、今回より新しく連載をスタートさせるビックスバイダーベック(1903-1931)。
僅か28歳で此の世を去ってしまった天才トランペット(コルネット)奏者だ。
白人にして史上初のモダニストと言われ1977年には彼の残した名盤♫Singin' The Blues が初めてグラミー賞の殿堂入りを果たして以来1980年には彼のピアノ曲♫In a Mist 、2014年には盟友ホーギーカーマイクルの楽団で吹き込まれた名曲♫Giorgia On My Mind が同賞殿堂入りし続けている。
ジャズトランペットの巨人と言えばその圧倒的な存在感があるルイアームストロングが黒人の雄ならほぼ同時期に白人ミュージシャン達にジャズの活路を見出したのは、他でもないこのビックスが長年に渡り心棒されている。
アメリカ本国では彼の功績を称える数々の試みやメモリアル施設の開設が、相次いでいるものの一般的な認知度は低いようだ。
ジャズの先進国と言われて久しい我が国でも幾つかの研究は散見できるものの、充実した著作もなく、中々彼についてのめり込みたくても前進しづらい環境ではある。
1993年にイタリア🇮🇹で一度「BIX」と言う劇映画が封切られ日本では「ジャズミーブルース」と言う邦題で公開され、小生もそれを機に目覚めた。
その辺から本格的に神田 神保町のTONYレコードへ出入りするようになっていった。
ビックスの唯一の伝記で日本語訳されている本としては「ジャズ1920年代」の中の第三章がビックスに関するまとまった文章と言える。
21頁に渡り1頁2段組表記だから実質的には倍とまでは行かないまでも、40頁近く書かれた内容で、著者のリチャードハドロック渾身の作品である。
何よりジャズの視点に立った解説で一切の妥協はない。
イコールかなりな辛口評論なのだが、手放しで褒めない迄も、ビックスの残したレコードにお墨付を与えている。
例えば、第一回目のコラムにしてこういうのを取り上げるのもどうかと思うのだが、1928年にビックス&ヒズ ギャング名義の録音で♫Rythm King という作品がある。
ユーチューブでウォルトディズニーのミッキーマウスが歴史上初めて登場した「蒸気船ウィリー」の映像に乗せた動画で聴けるのだが、動画がこれに合わせて作られたのではないか?と言う位に見事にマッチングした傑作動画に仕立てられているが、ハドロックのこのレコードに関する評価は暗澹たるものである。

…ビックスはさらにいくつか自分名義の録音を行なった。しかしながら、これらはもうエイドリアンロリーニと持った先のセッション(1927年秋に吹き込まれた♫アット ザ ジャズバンドボール ♫ロイヤル ガーデン ブルース ♫ジャズミーブルース の録音のこと)には及ばない。リーダーは必死にホワイトマン楽団の同僚をスウィングさせようとするが、彼らはギクシャクとしたままで、まったく生気がない(彼らとだけで吹き込むときは、さすがのホワイトマンも気に病んでいた)。
おかげでビックスまでが堅苦しく、意気込みを殺がれながら吹くのである。
皮肉なことに、正規のホワイトマンオーケストラと入れた短いソロは、同じ時期に作られながら、自分で率いた小バンドの最終録音ほど不自然には聞こえない。…

この本を読んでいるとジャズに忠実だったビックスと彼を信奉する白人ジャズの創始者たち、或いはルイアームストロングやアールハインズら黒人ジャズメンらのどのレコードが良くてどれがジャズ的感興に欠けるかが、手に取るように分かる

だが、それらの意味を履き違えるととんでもない誤認を犯すことにもなる。
ビックスのコラム第一回目にして添付した動画はその黒白をはっきりとさせる為に敢えて添えた。
つまり、ジャズとして優秀な作品とノベルティとしてどれだけハドロックが蔑もうが、楽しいものは楽しい。
音楽を楽しむ人の嗜好に正規なジャズ論ほど邪魔なものはない、と言うべきである。

https://youtu.be/pob7zgAWeMI

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