芸術家コンプレックス

小学3年、書道の授業で「君は誰にも真似できない書き方をするね」と言われた時から、私は他の人とは違う職業に就き、特別な人生を送っていく気でいた。
趣味は絵を描くことと音楽を聴くこと。小学二年からブログを書いた。書き物を褒められたりもした。将来の夢はずっと漫画家だった。
私は人と違うと思っていた。誰とも違う特別な自分という自意識だけが自分の取り柄だった。

私は物心ついた時から漠然と、自分だけは周りと違うと思いたかった。
でも大学生のころ、自分は周りとは何ら変わらないことを実感した。
そんなコンプレックスを持つ人々が職業適性診断テストをすると皆「芸術家」と呼ばれる。
だからこの一連の現象を、芸術家コンプレックスと名付けたい。
何の生産性もないユニークで独創的な個性ある人々を、芸術家だなんて呼ぶのはあまりにも皮肉で、そう呼ばれることに嬉しがっていることもさらに皮肉なことだ。
自分の顔よりも学力よりも、自分の感性だけを唯一と信じながらただ大切に守っている、個性的な人々がポピュラーカルチャーが大好きな社会に認められたから芸術家と呼ばれるだけで、ただ個性的で何の生産性もないような人々は芸術家でもなんでもない、植木鉢をひっくりかえしたら五、六匹いるダンゴムシのようなものなのだ。
何十年も前の洋楽や、最近のインディーロックや、色褪せた昔の映画、言葉紡ぎと芸術的センスを生きがいとして好む世界中の、私を含めたダンゴムシたちへ。

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