ひとり

もともと、あるべき場所に用意されていたのか。
前が真っ暗で手探りでないと進んでいけなかった、私が選んだ道にドアはあった。
鍵なんていらなかった。私が手を伸ばす前に内側から彼らがもう開けてくれていたから。
そこにいた13人がくれる温もりから、抜け出す意味もなかった。
抜け出させて、くれなかった。


歯車は私が気づかないところで静かに狂っていった
目の前にある壁に興味だけで近づいていったら、どんどんそれが迫ってきて
乗り越える方法もわからないまま、足はすくんで進めなくなった
周りを見渡すと反対方向に軽々と歩を進める人ばかり
私が何日も立ち止まっている横で、一言残して走り去っていく人もいる
彼らが口にする言葉は空中をふわふわと漂うだけで、私には届かない
上を見てみても、私を照らすのは均等に他の誰かを救っている月だけで、私のものだけにすることのできる光ではなかった
泣くことすらできなかった。ただただ自分の無力さが、壁の高さを増やしていくだけ。
どれくらい経った頃かな。自分には無理だと自覚して、元の道を引き返そうと後ろを向こうとしたそのときにはもう、あった。


そこには、ありふれたにぎやかな雰囲気があった。
日常で何度も目にする光景だった。
でも、なぜか私の嫌いな感じじゃなくて。
たくさんの柔らかくてあったかいものを体で感じた。
13人が思い思いに手を伸ばしてくれた。
私は戸惑いながら、でも薄々、もうひとりじゃないんだってことに気がつきはじめながら、思うままにはしゃいだ。
今までの寂しさと無力さを、その瞬間だけは忘れてもいいやって、本気で思いながら。
彼らの作った音楽も聴いた。耳から自分の心臓にじわじわと何かが広がっていく感覚を覚えた。鼓動が自然と早くなって、泣きながら聴いた曲もあった。
アイドルは、提供された曲をいかに自分のものにするかが全てだと思っていた。たとえ自分にそんな固定概念を持った私が、作詞作曲を彼ら自身で行っていることを知った時、本当に驚いた。なんて率直で愛に溢れた人たちなんだろう、と。
一緒にたくさん踊って、たくさん歌った。
愛の形を13個分受け取った。返すことは、まだできなかったけれど。
遊んでいる間、なんでこんなに素敵な人たちが私の目の前に現れてくれたんだろうという疑問がずっと頭の片隅にあった。


すこし疲れてしまって、部屋の端っこにいたとき、声をかけてくれたひとがいた。
びっくりしたことに、私は彼に全てのことを話してもいいやと咄嗟に思った。
いままで歩いてきた道が真っ暗だったこと。
自分の道の外側で軽やかに個々の目標に向かっている人たちからかけられる言葉がどうしても自分のものにならなかったこと。
気持ちを貫くより、少し形を変えて周りに溶け込む方が楽なことに気づいたこと。
壁が高くて、怖くて、諦めようとしたときにここを見つけたこと。
全部全部、うそじゃなかった。
私の心の中に溜まった、黒いもやもやしたものを告白することを終えて、彼の言葉を待っているとき、何ももう心配することはないのかもしれないと勝手に感じはじめていた。
心の中の負担がなくなって悩みがどこかへ消えていったわけじゃない。ちゃんとまだ、自分の中で葛藤はしている。
けれど、なぜかほんの少しだけ、軽くなったんだ
彼は私に、長い長い時間をかけて愛の形を教えてくれた
愛する人がいることがどれだけ幸せなのかを、まっくらな、いつもなら震えながら昇ってくる朝日を待つだけの時間に、何も知らない私に1から教えてくれた
日常に戻る瞬間をもう恐れなくてもいい。
私にはこの人がいる。彼がこよなく愛す13人がいるドアが、もう私の中にある。
私はもう泣いたりしなかった。
ねえ、私、もう大丈夫だよ。いつでも戻ってこれる場所ができたそのときから私はひとりでも歩ける。今まで硬直して動かなかった足に、もう1度力を込めなおして進んでいける。
だって、ひとりじゃないから


あたたかいおひさまが戻ってきたころ、私はそっと部屋から出て、ドアを閉めた。
足りないものはもう全部揃ったからね。
冬の朝、堪える寒さの中くるまっていた布団を出るように、2つの空間の間には差がありすぎて、一瞬面食らう。あまりにも、外は現実だった。
でも、もう大丈夫だから。
私の中に、1ついつでも帰れるドアをつくった。
もし私が物理的にひとりで踏ん張らないといけないときでも、居場所はある。
そう思えば、ずっとすくんでいた足が自然に前へと進もうとしていた。
心なしか震えている気がするけど気にしない。
わたしが愛したい人を愛して、戻りたい場所に戻る。そのことがどれだけ幸せかは、もう大切な人に教えてもらっているから。
壁の前に立つ。深呼吸して上を見上げたら、そこにはか細く私を照らす月があった。
相変わらず均等に、他の誰かにもスポットライトを当てているだろう。でももうそれで、いい。
まるで彼みたい、と思えたから。


もう、ひとりじゃないよ。





Seventeenに限らずだが、誰かを愛し応援する人はきっと全員、「じぶんだけの彼ら」を持っている。
なにをきっかけにして彼らの愛に気付いたのか、どこで救ってもらったのか、彼らのどこが好きなのか。すべて同じ人は決していないだろう。
今日もわたしは歩きながら祈っている
世界中のどこかで、真っ暗闇のなかをさまよい途方に暮れている誰かの素敵な道に、彼らが現れてくれますように。
帰る居場所を、つくれますように。
ひとりじゃなくなりますように。




ひとりじゃない
胸の中 温もりで残ってるよ
心配しないで やがて夜が明け
必ず きっと会えるはずさ

ひとりじゃない


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