イマジナリーセキュリティガーディアンオタク男

一人暮らしをしていた時に、戸締りを怠ると決まって夢枕に立って知らせてくれるオタク男がいた。ぽっちゃりとした黒縁メガネのやや小柄な男性。荷物は持たず、チェックのシャツとチノパン姿だ。ベルトはしていない。

「また鍵をかけ忘れたねぇ……開いてたから入ってきちゃったからね。ちゃんと鍵をかけないからこうなるんだよぉ……」

オタク男はいつも同じセリフを言う。枕元に立ち、笑顔でわたしを見下ろし、決して触れてくることはない。ただ、「しまった!」と焦って目覚めるまでこちらを見つめ、笑い、同じ言葉を繰り返すのだ。飛び起きて、ロックとチェーンをかけ、冷や汗をかいて布団に戻る。落ち着いて眠りに入ると、もうオタク男は姿を見せない。気味が悪いと思ったことはない。むしろ笑顔が少しかわいい。実はわたしはこういうタイプがけっこう好きなのでは、と思ったこともある。

結婚が決まると彼は姿を見せなくなった。濁流に飲まれる悪夢で一度だけ登場し、ぽちゃっとした腕を伸ばして川からわたしを救い上げるとお座敷ありの食堂で食事をおごってくれた。そこで目覚めて、彼とはそれっきりだ。オタク男はわたしの中に還ったのか。それともどこかの無用心な独身女性を救っているのだろうか。

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