ピロリ菌の除菌に2回失敗して腸内環境が破壊された

ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)とかいう菌がいる。胃液の中でも平気でぶくぶく生きているとんでもないやつだ。胃潰瘍や胃がんの原因になると言われ、ひと昔前あたりから除菌したほうがいい、せねば、絶対すべきという空気が強まった。わたしも同じようにピロリ菌の感染に不安を感じ、一度大きな胃潰瘍を患ったこともあって、これは除菌をせねばならないと思い立った。今思えば間違った判断だった。できればいない方がいいピロリ菌だが、無理に除菌しようとするとこのような結果も待っているということを知ってもらいたい。

ピロリ菌の除菌にはおよそ一週間かかる。非常に強い、菌を殺す薬をスケジュールに従って飲むのだ。成功率は現在では90%と豪語する案内も多いが、わたしが挑戦したときは70-80%と言われていた。オンラインゲームでエンチャントだの禁断だの強化だのといったあれやそれに手を付けたことのある人たちならよくわかるだろう。こんな確率では、失敗する可能性がかなり高いのだ。

覚悟を決めて当時のわたしはピロリ菌の除菌に挑んだ。医師から薬を渡されて、1日2回非常に強い抗生物質などを飲む。「副作用が起きると思いますが、絶対に服用をやめないでください」と医師に念を押された。いちばん多い副作用は吐き気と下痢だと聞いた。

1日目で早くも副作用が現れた。わたしのそれは味覚異常だった。それも味がしなくなる、味がおかしくなるのではなく、甘味しか感じなくなるというやつだった。甘いものの味はするが、それ以外がなにもない。そのうち、体がかゆくなってきた。これはあとからわかったことだが、日々を共に歩んできた常在菌たちが先に死んでいってしまっているせいだった。吐き気よりはましかもしれないが、なかなか暮らしづらい。味見ができないので料理を作るのに手を焼き、菌バリアを失い、抵抗力が落ちてあちこちかゆいので気が散って仕方がない。

そうして一週間を耐えきったが、1月後に出た検査の結果は除菌失敗だった。「2回目もできるけれど、保険は利かない(※現在は保険が適用されるはず)」と医師は言った。ここまで来て後には退けない。体に起こる副作用についてはもう理解した。わたしはもう一度、さらに強い薬を使って除菌を行うことにした。「二次除菌はほぼ成功するだろう」との話であったが、この「ほぼ」というのは90%程度である。そしてまた同じ話をしたくなる。90%は100%ではない。失敗するのだ。2回連続で除菌に失敗する人が、思っている以上に、たくさん、いるのだ!

1次除菌と同じ副作用を経て、わたしの2次除菌は1週間で終了し、そして、失敗した。その結果どうなったかというと、ものすごい便秘になった。生まれて初めて、お通じが思うようにいかずお手洗いから出られなくなるという日々を過ごすことになった。尻の具合に日常を束縛され、何もできない。お手洗いでさめざめと泣いた。

体の故障ばかりを抱えてきた人生で、腹だけは調子がよかった。いざ、と思って赴けばものの1分で決着した。黄金の腹であった。わたしの腸内は楽園で、長年連れ添ってきたかわいい腸内細菌たちが健やかな腹を保ち続けてくれていたのだった。そこにわたしは侵略者を送り込み、無垢で善良な細菌たちを皆殺しにした。しかも、2度も。

高い金を払って、便秘になるだけで終わってしまった。お手洗いに行くたび、失われた楽園のことを思い出す。どういう食生活、どういう生活習慣にすれば元通りの腸内環境をとりもどせるのか見当もつかない。あれから10年以上たって、ようやくまともになってきた。あと1回だけなら除菌できると言われたが、もう試す気にはなれない。わたしは腸に楽園の生き残りを、胃に厄介なピロリ菌を抱えて生きていくのだ。


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