ホモに挟まる女になってしまった in Eorzea(4)

初手、喧嘩の売りあい。
不穏な空気を感じ取ったたくあんは、さっと間に入ってきた。彼はこういった揉めそうな空気が大の苦手なのだ。

「だめ! そういうのだめだよ、初対面でしょ」

tellが飛んできた。なぜにわたしが先に叱られる。あちらにも送っているのかもしれないが確かめようがない。それにしても、たくあんはチャットの口調もすっかりかわいい系になってしまっている。お前は少女漫画に出てくる男子か? キャラクターの外見に引きずられているのか、それとも仮想世界で素が出しやすくなっているのか。

「ごめんなさい、失礼な言い方でした。わたしはたくあんの古い友人です。はじめまして」
リアルのことを持ち出すのはご法度かもしれないが、「中身」はほぼ間違いなくわたしの方が年長だろう。わたしがまず分別を示すべきだ。そう考えて、先に折れることにした。別に喧嘩をしに来たわけではない。根拠のない警戒心を持ったこと自体間違いだったのかもしれない。礼儀正しくしよう、そうしよう。

「いえこちらこそ。クロと申します。たくあん君とはフレンドになったばかりですが、よくご一緒させてもらっています」
すぐに返事が返ってきた。このロスガル、タイピングが早い。新規に囲まれたサブキャラでのプレイでは「テキチャ(テキストチャットのことらしい)苦手~、VC(ボイスチャット)しよ」、「PS4でやってる、キーボードに持ち換えるのめんどくさ~い」、はたまた「タイプ」「苦手で」「ちょっと」「待って」「ください」なんて調子の連中とばかり組んでいたので、これはまた驚きだった。主によい意味の方で。知性が感じられる、教養もあるかもしれない。「あやしい黒い獣!」という最初の印象はこれでやや緩和された。

さて、あいさつが平和に済んだところで、わたしたちは揃って横でびょんびょん跳ねているたくあんを見た。我々の共通の友人である。とりあえずは緩衝役、ハブとなる彼を間に挟んで会話するのがよいだろう。こらたくあん。お前さんがわたしたちを紹介すべきでしょうが。

「クロさん! ゆうかちゃん! 仲よくしてねー!」
そう言いながら次々と新しい花火を試している。たくあんは何度注意しても、ゲーム内でわたしを本名で呼ぶことをやめてくれない。そういう仲間は数人いるから別にかまわないのだが、もちろん不都合も生まれてくる。クロからは不穏な何かが発せられているのを感じた気もしたが、わたしはつとめてそれを気にしないことにした。

「他の方がいるときはキャラ名で呼びなさい。たくあんや。クロさんとごあいさつは済んだから、君の方からも改めて紹介してくださいな」
よし。わりと無難な話の振り方ができただろう。たくあんは遊ぶのをやめて駆け寄ってきた。彼がわたしと向かい合って立つと、クロがすっとその横に並んだ。君、当たり前のようにそっち行くか。我々3人で三角形を作るわけではないのか。2対1でわたしが不利な形ではないか。

「クロさんは俺のパーティ募集に来てくれて、えーと何回も来てくれてね、それでフレになった人! F.A.T.E.(ゲーム内のフィールドエリアで時折発生するイベント。参加すると経験値などの報酬がある)で死にそうになった時も助けに来てくれた! 強くてかっこいいんだー!」
パーティ募集も使いこなしているとは感心だ。それにしても君、語尾に「!」がやたら多いな。すごい勢いを感じる。小学生かな?  わたしは「おうそうか、よかったね」と当たり障りのない相槌を打っておいた。

「ゆうかちゃんはリアルの友達! お姉さんみたいな感じ!」

10秒ぐらいの沈黙の後、黒い獣人がエモートで微笑を浮かべ、こう言った。

「弟さんのことはお任せください」
「弟じゃないぞ」
「ゆうかお姉さんは安心してメインキャラを頑張ってください」

(わたしは君のお姉さんじゃないし直球で早く帰れと伝えてきているなおい本名貴様)

わたしが内心でクロの評価を上げたり下げたりしている間、何も察することなく走り回っていたたくあんは「せっかくだから3人でどっか行こう〜」と上機嫌に提案してきた。いろいろなもやもやは脇において、わたしたち2人はそれに従った。黄色い王子様の仰せのままに。


次回のホ挟女は 『ゼーメル要塞突撃』

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