わたしと、あるサイコパスの奇妙な友情(1)

そこそこ長い間、つき合っている友人がいる。少なくともわたしはあれを友人だと思っている。男性とも女性とも決めがたい人物なので、ここでは単に「あれ」と呼ぶ。こんな呼び方をされることを、あれはけっこう喜ぶタイプだ。

あれはほぼ間違いなく、サイコパスだと思う。良心というものが働かず、他人を自分の幸福のために利用し続ける者。残念ながら、利用する相手はどんどん変わる。同じ相手を長期間利用し続けられるほどの頭の良さは、あれには備わっていなかったからだ。(と、言うことは本人にも言った。もちろん、あれはおもしろくなさそうな顔をしていたが、短期間しか利用できないことについては「別にいい」のだそうだ。)

あれとわたしの特徴を、できるだけ客観的に書くとこんな感じだと思う。わたしについては自己評価をあれにチェックしてもらったものを書き写す。

あれ:
他人に共感する気持ちがほとんどない
金銭、名誉、セックスへの欲が強い
第一印象は魅力的で有能そうだが、長期間は続かない
表面的な魅力と口八丁手八丁で人を利用する
交友関係が短期で頻繁に変わる、人間関係リセット癖
非常に広く浅い、付け焼刃的な知識

わたし:
他人に共感する気持ちがかなり低い
金銭、名誉に無関心、性的に枯れている
無害で弱弱しそうな第一印象、長期間持続する
笑顔と無害そうな態度で人を誘い、世話をさせる
非常に狭く、長く続く交友関係
ごく狭い分野の深い知識を除いてほぼ無知

共通点は共感性のなさと、結局自分しか見ていないところ。大きく違うのは欲望の大きさと、交友範囲、人生における活動量だろう。あれは自分の欲のためにせわしなく動き、利用できる人を集める。怠惰なわたしは自分からは動かないので、情け深い人に世話をしてもらう日々を送っている。

あれに言わせると「何もしないで力になってもらうなんて、自分と同じぐらいお前は汚い」という話だ。あれのように自分からおねだりしない分、わたしの方がはるかに徳の高い暮らしをしていると思うのだが。それにお世話をしてもらえるのは、周りの人々がもともとやさしく温かい性格をしているからで、わたし自身の性質には関係ない。いい加減あれも、あからさまに物欲しげなアピールはやめた方がいいと思う。いい歳こいて浅ましい。利用するにしたってもっとスマートなやり方があるはずだ。だいたい後から恨まれるなんて手口が稚拙にすぎる。「あれ様に利用していただいて幸せでした!」ぐらい言わせてみるがいい。

わたしは「こんな知り合いがいてもよい。わたしに害はないから観察して楽しもう」と思っている。あれは「こいつは操れないので役に立たない。だが、敵にはならないから暇つぶしに使おう」と思っているだろう。友情と書いたが、利用しあっているだけかもしれない。だが、喧嘩もしないし笑いあって話ができるのだから、やはりわたしはあれが友人だと思いたい。

知り合った経緯について話したい。
わたしがサイトを運営し、ライター稼業に励んで、今よりだいぶ活発に活動していたころにあれは現れた。朗らかに近づいて、わたしをほめそやし、「尊敬しています。ぜひお友だちになりたい」と言った。

実は時々、このエピソードでいじり倒してやっている。「お友だちになりたい、だって!」と冷やかすとあれはとてもいやな顔をする。ひたすら得を取りたいサイコパスは、一般に「損をした、負けた」と実感させられるのを嫌う。図星をつかれるのも嫌がる。だからこういういじられ方はもっとも苦手なはずだ。しかしやめるつもりはない。不利になれば戦うか逃げるかしかしないはずのあれが、困った顔でわたしのいじりに耐える様子がおもしろいのだ。つまり大嫌いないじりをされ続けても、まだわたしのそばにいる意味があれにはあるのだ。それをいつか、知ろうと思う。

あれはいつも通り「こう言っておけば大抵のやつはいい気分になる。だからこの女もすぐ味方になる」と思ったのだろう。サイコパスは共感はできなくても、「このスイッチを押せばこうなる」という学習はできる。だから心の弱った子に「俺を頼ってよ」と言えばものにできる。「君だけを愛してる」と言えば夢中にさせられる。「心から尊敬しています」と言えば調子に乗らせて操れる。そんな知識をどんどん蓄えて、他人を効率的に利用するための戦略を増やしていくのだ。

わたしはどう答えたのかすっかり記憶をなくしていたのだけれど、あれはずっと覚えていたそうだ。「あんなの忘れられない、最悪の衝撃だったし屈辱だった」あれがそう言ったのがおもしろくてわたしはゲラゲラ笑った。

「そうですか、ありがとうわかりました。帰っていいですよ」
どうやらわたしはサイコパスの渾身のおべっかに、そう答えたらしい。

(つづく)

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