【ルッキズム短編】美顔器

 彼女の顔にはいくつもの顔があった。普通の顔、知らん顔、ごまかし顔、はぐらかし顔。

 これらは彼とともに生きていく彼女の武器で、場面に応じて形を変えることが彼女の特技であった。特に恋人に対しては巧妙な偽装を施し、他の男性との秘密を隠し通すのだ。

 美顔器は友人からの贈り物。洗練されたデザイン、簡素な操作性。肌の深部までケアし、日々の疲れを癒すのが彼女の日課になっていた。

 ある日、彼女のスマートフォンが見知らぬ男性からのメッセージを告げたとき、それを彼が目にした。

「それ、誰からの?」

 彼女の心臓は激しく鼓動し、理性が乱れるのを彼女は感じた。それでもすぐに知らん顔を作った。

「見間違いよ。」

 彼の瞳には依然として疑念の影があった。彼女はごまかし顔を作った。

「そのメッセージはただの同僚からのもの。」

 彼の疑いを払拭しようと彼女は語った。彼の瞳に一瞬の迷いが見えたが、全く疑いが晴れたわけではなかった。彼女ははぐらかし顔を作った。

「それより、今晩のご飯、何にしよう?」

 と彼女は話題を変えた。彼はしばし考え、答えを出した。

 それでも彼女の表情作りの技術は卓越しており、彼は何も確たる証拠を得られずにその日を終えた。彼が静かに眠りについた時、彼女は深いため息をついた。しかしそれは、一日を乗り切った達成感と安堵感に満たされた息吹であった。

 彼女は深呼吸をしてから、美顔器を手に取った。

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