【コラム】隙間の美学: 不在の存在

 最後にリーフパイを口にしたときのことを思い出してほしい。そのパリッとした皮の下に甘いフィリングがあり、その間に何もないと思われる隙間がある。だが、その隙間こそがリーフパイの特性を作り、軽やかな食感を生んでいるのだ。この「何もない」と思われる隙間、その存在がパイ全体の味わいを引き立てている。

 この「隙間」の美学は、他の芸術形式にも見られる。例えば、音楽家ジョン・ケージの「4分33秒」は完全な静寂を求めて作られたが、その中には無音が音を引き立てる存在となる。映画のシーンの間にある瞬間も、視覚的には何も映っていないその時が、観る者に次のシーンへの期待感や緊張感を与えるのだ。

 だが、この隙間の美学が最も身近に感じられるのは、やはり食べ物だ。マカロニの中空の部分がソースを吸収し、一口にすっと溶ける感触を作り出す。また、クロワッサン。何層にも重ねられたパイ生地が焼かれ、中はほとんど空洞となる。その隙間が、バターの香りと共に独特の食感を生むのだ。

 私たちの生活の中には、見えない「隙間」があふれている。食べ物、音楽、そしておそらくそれ以外の多くの場面でだ。一見、何もないように見えるその「隙間」を評価し、存在を認識することで、私たちは深い満足感を得ることができる。それは、何もないように見える隙間にこそ、新たな価値や発見が待っているからだ。

 何もないと思われる「隙間」にも目を向けてみよう。その存在を認識し、その価値を理解することで、世界はさらに豊かに感じられるだろう。まさにリーフパイのように、不在の存在、それが「隙間」の魅力なのだ。

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