【短編】眉毛サロン

 彼が訪れたのは、都会の静かな一角にある2階のメンズ眉毛サロンだった。

 看板を見上げながら、彼は少しだけ緊張していた。眉毛サロンは初めてだった。入り口をくぐると、落ち着いた内装が目に入る。受付の女性に名前を告げると、すぐに「こちらへどうぞ」と案内された。

 彼が椅子に腰掛けると、清楚な印象を纏った女性スタイリストが現れた。髪は黒く艶やかで、背筋が伸びたその姿にはどこか気品が漂っていた。彼女は優しい笑みを浮かべながら、「今日はどのような形にしましょうか?」と尋ねる。

 彼は少し迷ったが、「優しい印象のアーチ型にしようと思うのですが…。」と答えた。彼女は頷き、ペンシルを手に取り、彼の眉にそっと触れた。その瞬間、彼は彼女の手の温かさを感じ、少しだけ心が落ち着いた。

 彼女は真剣な眼差しで、彼の顔に集中している。ペンシルが眉の形を描くたびに、彼はその姿に見入ってしまった。彼女の集中した表情は、プロフェッショナルな美しさを感じさせた。彼の胸が少しだけ高鳴る。

「こんな感じで、どうでしょうか?」

 彼女は手を止め、彼に鏡を差し出した。鏡に映る自分の顔には、確かに彼が求めていた優しい印象が宿っていた。彼は満足そうに微笑み、「とても良いです、ありがとうございます。」と答えた。彼女の笑顔は柔らかく、しかしどこか儚げだった。

 彼はサロンを出ると、少し冷たい風が顔を撫でた。眉の形が整っただけで、世界が少しだけ明るくなった気がした。そして、あのスタイリストの真剣な眼差しが、彼の心に静かに刻まれていた。

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