羽生選手の全日本大会について思うことなど

まず、エビデンス皆無の印象による試合結果分析であることをあらかじめ申し上げておきます。試合結果といってもプロトコルを繙くようなものではなく、なぜこの結果になってしまったか、について、自分の推測と想像に基づき考察したものです(人はそれをただの感想と言う)。

まず、今回の全日本。誰もが当初から指摘している通り、羽生選手のスケジュールはNHK杯ーGPF-全日本という強行軍でした。カナダから日本に、四回転を何本も跳ぶ試合をしてまたカナダへ。ほぼ一週間で今度はイタリアに飛び、ネイサンと死闘を演じた。最後は立ち上がれないくらい消耗していました。精神的なショックも大きかったでしょう。負けた、ということに加え、プロトコルを吟味する選手ですから、自分の演技につけられた点数に少なからず動揺するところがあったのではないかと推察します。そういう試合を経て、またカナダへ戻り、一週間ちょっとのちにまた日本へ立たねばならなかった。精神的にも肉体的にも、「調整どころではなかった」と漏らした言葉が全ての、疲弊しきった状態だったのだろうと思います。

オーサーとブリアンコーチもずっと眉がハの字で、最初から曇りがちでした。どうしたんだろう?と疑問に思ったことを覚えています。

たぶん、こんな感じだったんじゃないかなあ。

体→→→疲労困憊
精神→→疲労困憊
調子→→好調

筋肉にも疲労が蓄積していて抜けきっていなかった。精神的にも、試合に向けてモチベを上げるのが精いっぱいの状態で、いっぱいいっぱいだったのではないか。身体も心もボロボロだったけれども、調子だけは上がっていっていた。
4年ぶりの全日本です。ただ一人日本選手でGPFに出場した選手です。その試合で惜しくも銀だった。全日本では優勝したい、また、力を出し切れば優勝できる、と思っていたのではないでしょうか。
私は、羽生選手が、自分のコンディションを見誤っていたのではないかと考えているのです。
調子が上がっていっていたから。加えて試合に臨む羽生選手は尋常ならざる高揚状態になる。(敢えて追い込んでそうできるのか、自然に興奮状態になるのかはわからないですが、どの試合においても、集中力も気力もずば抜けて高い状態にあるように見えます。)
アドレナリンが多量に分泌されている状態で、疲労度合いが分からなくなっていたんじゃないかなと思います。
でも、だからこそSPはあれだけの演技をすることができた。
高揚状態はフリーの六連まで続いたように思います。
ジャンプも滑りも決して悪くないように見えました。調子そのものは良かったから。

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こんな感じで、本当は限界を超えていた体が、調子の良さとアドレナリン(緊張感)に隠されて自覚できなくなっていたのではないか。
そのパンパンに張り詰めた風船に、小さな針が刺された。それが、宇野選手の得点だった、と私は見ています。
184点。
羽生選手が普通に滑れば、多少のミスはあっても勝てる点数でした。
羽生選手は自分の滑走順の時既にその得点を把握していたと言っていました。だから、意識していたかどうかは分からないけれど、心のどこかに「勝てる」という思いが生じたのではないかと思うのです。それが、小さな針になった。
緊張がその瞬間ふっと緩んでしまったのではないかと思っています。一瞬。でもそれすら気づけなかった。時差で頭はぐちゃぐちゃで、いつものように自分を俯瞰することができてなかったから。とは、いえないでしょうか。
(全部推測の文章なので文末表現が大変)
一旦パンと割れてしまった風船はもう元に戻すことは不可能でした。いつもならコントロールできるものも、この日は無理でした。身体レベルで力が残っていませんでした。着氷で足がもたなかった。思考力も機能していなかった。身体と、精神と、思考がまったく噛み合わなかった、と羽生選手ご自身も言ってらっしゃいました。
そして、あれよあれよというまに試合は終わってしまった。

悔しい負け試合です。
宇野選手は胸を張って勝ち取った金メダル、全日本王者だと誇ってほしい。立派な戦いぶりでした。
けれども羽生選手を応援する立場から言えば、羽生選手は勝ちを自ら譲ってしまったのです。
たらればに意味はありませんが、もし宇野選手が200点を超える点をたたき出していたら、羽生選手の緊張感、アドレナリンはフリーの最後までもっていたかもしれません。勝っていたか負けていたかはわかりませんが、少なくとも演技が崩壊することはなかったかもしれない。けれどもその代償に、もしかしたら、彼の体が壊れていたかもしれない。

私はわりと運命論者です。
結果論でしかありませんが、この超過密スケジュールで、怪我をしなかったことが、もっとも重要なことだった気がするのです。
その代わりに優勝を差し出しましたが、でも、GPFに出場し、銀メダルだった羽生選手が世界選手権代表に選ばれるために、必ずしも優勝は必要ではありませんでした。全日本に出て、表彰台に乗れれば、ミッションは達成です。
フリーの滑走順が宇野選手の後になったこと。
宇野選手の得点を知って、体が壊れる前に興奮状態が解けたこと。その結果体は守られたこと。銀メダルで、世界選手権出場がかなったこと。試合には負けたけれども、体力が続かなかった筋肉がもたなかったというのが主な原因で、調子そのものは悪くなかったこと。技術の狂いはなかったこと。(現にきれいな4Lzを軽々と見せてくれましたよね)

ネイサンとの決戦のために、フィギュアスケートの神様が、隙間を縫って一番いい道筋を示してくれたみたいな、そんな感じがしています。

今までのように細い体ではありません。痛めている腱をカバーするために筋肉の鎧をまとったような体になりました。25歳の大人の男性の体です。四捨五入したらもう「おっさんじゃーん」です。その肉体との付き合い方、疲労の度合い、回復にかかる時間。いろんなデータがとれましたよね。
しっかり疲れを癒して、次の決戦に臨んでほしいと思います。
きっと新たなデータを得て新たに戦略を練り直した、新たな羽生結弦が見られる気がします。

まずは四大陸選手権、楽しみです!


追記:アナザーストーリーにて久しぶりに平昌のバラ1さんとSEIMEIさんを見ました。相変わらず研ぎ澄まされた技術と清流のような清らかな美しさをたたえた珠玉の演技にうっとり致しましたが、同時にこの全日本MOIのSEIMEIさまの進化(深化)に瞠目いたしましたことをご報告いたします。

演技がふくよかになり、深みと温かみが増しました。年齢を重ねて初めて表現できる世界観がそこにありました。それを、まったく衰えることのない現役の最先端の技術で表現できる表現者。どんどん、稀有な存在になっていくなあとしみじみ感じたことですよ。オトナルに至っては慈母観音ですわ。(※個人の感想です)




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