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発光の夜

ホタルイカのシーズンが到来した

春を待つ、まだ寒い3月

新月の大潮に近いある日、夫と富山の海を訪れた

富山湾の一部の地域では2月末頃から5月くらいにかけてホタルイカの身投げという現象が見られる。ホタルイカとは全長約6センチくらいの小さなイカで普段は水深200メートル以上の深海に住んでいて、産卵時期になるとメスが海岸近くまで押し寄せ、触手の先からLEDのようなブルーの光を放つ。釣り好きの夫は富山の海によく訪れているが、この時期は釣り人よりも、ホタルイカ掬いに押し寄せたファミリー層が幅を利かせている。

ホタルイカ掬い

そんな呼び方が一般的なのだろうか。ホタルイカを大量に捕獲しようとしている人は装備もそれなりに大がかりなものである。水中ライトでホタルイカを誘き寄せ、一網打尽に網で掬いあげる。小さな防波堤の上を陣取って、家族や仲間たちとわいわい楽し気な声が聞こえてくる。

そんなイベントを楽しむ人たちを横目に、夫は釣竿に仕掛けを施し狙う獲物はメバルである。ホタルイカの疑似餌(ルアー)を試してみたくて仕方がないのある。真夜中を過ぎても、相変わらずの盛況ぶりで、海中を煌々と照らすライトばかりが明るく、肝心のホタルイカの発光はまだ見えない・・・

ちょっと場所を変えてみる。車で15分位の場所にある、別の場所でリベンジを。そこは岩瀬浜という砂浜であった。私は長靴と網というシンプルな装備で、「もしかしたら、掬えるかも」と期待していた。ここでも強者が大勢いて、胸の上まであるウェ―ダーと呼ばれる釣り用の防水スーツは当たり前の装備のようであった。胸の辺りまで水に入っても大丈夫という安心感からか、夢中になって深みまで進んでしまった結果、ウェーダーの中に海水が流れ込んでしまい、もうどうでもよくなってしまっている人、長靴を履いて歩く度に「グシャ、グシャ」と音がする、明らかに長靴の中が水浸しな人、かと思えば、思いつきでやってきた風の若者グループはこの寒い海水の中に平気で素足(またはサンダル)という姿で、海はまさにお祭り騒ぎである。

はたして、ホタルイカはついに姿を現した

波打ち際に、足元に、波に乗ってやってきた!

ホタルイカとの初対面・・・

網で掬って手の中にすっかり収まってしまう小さなイカは、触手が動いて先端の2つからブルーの光が瞬いている。激しく触手を動かし、怒り狂っているようにも感じられる。儚く、魅了されるブルー。一説には外敵から逃げる際に光ることで驚かせたり、威嚇するということだが、今だに謎も多いらしい。目を見張るような発光も束の間、1杯、2杯と捕らえるうちに、袋の中で静かに、大人しくなっていく。長靴の簡単な装備しかないので、行動範囲は非常に狭い。波打ち際の、ちょっと先に浮いている姿をget!波に打ち上げられて砂浜に点々と並んだところをget!そんな「棚からぼたもち」方式で誰も目を付けないところで獲物をget!したことにほくそ笑む。

というわけで、初めてのホタルイカ掬いは楽しい経験であった。夫の釣りの釣果はゼロであったが・・・

翌朝帰宅後、ホタルイカの処理が待っていた。とりあえず洗う。洗う。洗う。あら?砂がどんどん出てくるよ?これってどういうことでしょう・・・つまり、ホタルイカが砂噛みしていて、最悪砂抜きもできないので内臓系は取って処理するしかないということ。知らなかった。砂嚙みするなんて!砂浜などで採取するときは、ほとんどが砂を噛んでいるため、砂出しが必要だということを。捕ったばかりのホタルイカは生きているうちにバケツに入れた海水に入れてしばらく泳がせて、砂を出させる必要があると・・・後のネット情報。

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数えたら55杯もいた。沢山捕ったけれど、内臓取ったらさんかくのぺらぺらしか残らなくて、ボリューム的には小さめのヤリイカ1杯より少ないと思った。ホタルイカパスタにした。イカの味が全くしなかった。

内臓とかは全部取っておいて冷凍して、次の釣りの時に撒き餌に使うと夫が言った。煌めく発光ショーの余韻を思い出しながら、あの夜、熱に浮かされたようにホタルイカ掬いに興じていた人々、私を含めてあの場所に吸い寄せられるように集い、真っ暗な海に向かって煌々とライトをてらし続けたそれは、海の中から見ていたら、きっと騒々しいホタルイカの軍団に見えたことだろう。

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