太平記 現代語訳 30-7 足利義詮、近江へ退避

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この現代語訳は、原文に忠実なものではありません。様々な脚色等が施されています。

太平記に記述されている事は、史実であるのかどうか、よく分かりません。太平記に書かれていることを、綿密な検証を経ることなく、史実であると考えるのは、危険な行為であろうと思われます。
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細川頼春(ほそかわよりはる)が討たれてしまい、京都から撤退した細川顕氏(ほそかわあきうじ)は行方不明になってしまっている。

「このような状態では、もはや再戦は不可能」との形勢判断の結果、足利義詮(あしあがよしあきら)は、わずか140~50騎のみの軍勢を率い、近江(おうみ:滋賀県)方面へ向けて、京都を脱出した。

しかしながら、彼らの行く手を、瀬田川(せたがわ:滋賀県・大津市)が阻んだ。

兼ねてからの作戦通り、儀俄(げが)氏と高山(たかやま)氏(いずれも源氏流)が、既に瀬田橋を焼き落としてしまっていたのである。こちら岸には、舟は一隻も無い。

足利義詮軍リーダーA しかたねぇや、比叡山(ひえいざん:滋賀県・大津市)へ登ろうぜ! 延暦寺(えんりゃくじ:滋賀県・大津市)を頼るんでぇい。

足利義詮軍リーダーB だめだよ、あそこも! もう完全に、敵側にまわっちまってる。

足利義詮軍リーダーC エェッ!

足利義詮軍リーダーB 吉野朝(よしのちょう)がな、天王寺(てんのうじ:大阪市・天王寺区)の任憲法印(にんけんほういん)を延暦寺に送りやがったんだ。ヤツの工作で寺中、あっち側についちまったぜ。

足利義詮軍メンバーD じゃぁ今頃、こっちに攻め寄せてくる途中かもな、おれたちが京都逃げ出した事に気づいてさ。

足利義詮軍メンバーE あーあ、こぉんな事になるんだったら、あのまま、京都に踏み止まっときゃぁよかったよなぁ。

足利義詮軍メンバーF そうさなぁ・・・同じ死ぬんだったら、京都で名誉の戦死遂げてた方がよかったよぉ!

足利義詮軍メンバーG 命おしんで、こんなとこまで逃げてきちゃってさぁ・・・みっともねぇったらありゃしねぇ。

足利義詮軍メンバーE あげくの果てに、目の前の琵琶湖(びわこ)の底に、屍(しかばね)埋めってわけかい。

足利義詮軍メンバーF あーあ、おれの名はこのまま永久に、都の外の大地の下に埋もれてしまうんだぁ。

足利義詮軍メンバーG おれって、ほんとバカ! 自分が恥ずかしいぜ、自分がなさけねぇ!

足利義詮軍メンバーE 後悔しちゃうよなぁ。

足利義詮軍メンバー一同 ったくなぁ!

「敵軍の旗が見えてきたら、直ちに腹を切ろう」と決意を固め、足利義詮以下全員、鎧を脱ぎ、腰刀だけ帯びて、白砂の上に並ぶ。

その中に、相模国(さがみこく:神奈川県)の住人・曽我左衛門(そがさえもん)という水泳の達人がいた。

いったい何を思ったのか、彼は突如、瀬田川の水中に飛び込んだ。

曽我左衛門の体は、グイグイと急流を突っきって、対岸に接近していく。

対岸にたどりついた曽我左衛門は、そこに停留していた一隻の舟に乗り込み、櫓を押して、こちら岸にその舟を漕いできた。

足利義詮軍メンバー一同 おおお・・・オマエ、なかなかやるじゃんかよぉ! ピィー、ピィー!

足利義詮軍一同、歓声をもって、彼を迎えた。

まずは、義詮と主要メンバー20余人が、その舟に乗り込み、対岸に渡った。

その後、彼らはさらに、小舟3隻を手に入れて、残り150騎全員、川を渡った。

なおも敵がやってくる気配が無かったので、舟に乗り込む直前に遺棄してきた馬や鎧をも順次、対岸まで渡す事ができた。

そして最後に、舟を蹴って川中へ流した。

川を流れていく舟を、一同見やりながら、

足利義詮軍メンバーD ヒャー、やったなぁ!

足利義詮軍メンバーE 命拾いしたぁ・・・。

足利義詮軍メンバ一同 (パチパチパチ・・・手を叩きながら)ワッハッハァッ、やったぜ、やったぜー!

やがて、「将軍・尊氏(たかうじ)様、無事、関東より近江までご帰還。現在、四十九院唯念寺(しじゅうくいんゆいねんじ:滋賀県・犬上郡・豊郷町)におられる」との情報に、坂本(さかもと:大津市)に逃げていた土岐頼康(ときよりやす)と大高重成(だいこうしげなり)が舟に乗り、足利義詮のもとに合流してきた。

それに加え、近江国一帯に地盤を張っている佐々木(ささき)一族が、さらには、美濃(みの:岐阜県南部)、尾張(おわり:愛知県西部)、伊勢(いせ:三重県中部)、遠江(とおとうみ:静岡県中部)からも武士たちが続々、義詮の下に馳せ参じてきた。

足利義詮 よぉし、この大軍をもってすれば、京都奪回も不可能ではなぁい!

足利義詮軍リーダーH 山陰(さんいん)地方、山陽(さんよう)地方の、わが方の勢力ともしめし合わせた上で、いっちょう、京都攻めといきましょうや!

足利義詮軍リーダー一同 イィケイケェーッ!

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