太平記 現代語訳 28-2 足利直冬、九州で勢力を盛り返す

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この現代語訳は、原文に忠実なものではありません。様々な脚色等が施されています。

太平記に記述されている事は、史実であるのかどうか、よく分かりません。太平記に書かれていることを、綿密な検証を経ることなく、史実であると考えるのは、危険な行為であろうと思われます。
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昨年9月、足利直冬(あしあがただふゆ)は、備後(びんご:広島県東部)から脱出し、九州へ落ち延びた後、河尻幸俊(かわじりなりとし)の庇護の下にあった。

そのような状況下に、九州の有力武士たちのもとへ、足利尊氏(あしかがたかうじ)から将軍命令書が送られてきた。

九州の有力武士A おいおい、おたくへはまだ来てないか? 将軍様からの御命令書(注1)。

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(訳者注1)原文では「御教書(みぎょうしょ)」。
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九州の有力武士B 来たとね、来たとね。つい2、3日前にな。

九州の有力武士C うちへも来たばい。

九州の有力武士A で、なんて?

九州の有力武士B いやぁ、それがなぁ、見てビックラこいてしもぉたばい。なんと、「直冬を討て」とよ。

九州の有力武士A やっぱしか・・・。おたくんとこへは?

九州の有力武士C うん、うちの方へ来たんも、おんなじような内容たい。

九州の有力武士B あれな、どう考えてみても、わしゃぁナットクいかんとね。だってな、直冬殿は足利直義(あしかがただよし)様のご養子ってことになってるけんど、もとはといえば、将軍様と血の繋がった親子だぞ。いくら将軍様が直冬殿を疎遠にしておられたというてもな、実の子を殺せ、なんて命令、出すかぁ?

九州の有力武士C わしの推測では、あの将軍命令書、おそらく、高師直(こうのもろなお)の陰謀たい。きっと将軍様には無断で、執事の地位を悪用して、勝手に将軍命令書、発行して、九州中にばらまいとるんよ。

九州の有力武士A うん、おそらくな・・・。で、どうする?

九州の有力武士B こんな命令書、うっかり信用して直冬殿に手ぇ出してみろ、後がこわいぞ。

九州の有力武士C そうそう、将軍様から、どんなオトガメを受ける事になるか・・・「いったい・・・どこの誰だ・・・偽の将軍命令書に惑わされて・・・わたしの大事な息子に手を出したのは・・・ただでは・・・すまんぞ・・・」てなことになってしまうとよ。こわいんだからぁ、もぅー。

九州の有力武士A うー、ブルブル・・・こわかこわか。

九州の有力武士B 触らぬ神に、タタリなし。

九州の有力武士A&B&C ワハハハ・・・。

このような状勢の中、いったい何を思ったのであろうか、少弐頼尚(しょうによりひさ)が、直冬を自分の館に迎え入れ、彼を娘婿にしてしまった。

それを機に、直冬の運命は一転、九州はもちろんの事、その近隣地域においても、直冬の軍勢催促に従い、その命令を重要視する人の数が一挙に増えていった。

というわけで、ついに我が日本も、「三国分立」の時代に突入したのである。

第1の勢力:今は賀名生(あのお)に避難中の、吉野朝とその権力回復を目指す勢力。
第2の勢力:足利尊氏の下に集結、もしくはその庇護・支配下にある勢力。京都朝もこれに含まれよう。
第3の勢力:足利直冬の下に結集し、彼を盛り立てていこうとする勢力。

こうなっては、世の中の騒乱はますます休まる時がない。なにやら、後漢(こうかん)王朝傾いて後、呉(ご)・魏(ぎ)・蜀(しょく)の三国が鼎(かなえ)のごとくに対峙(たいじ)し、互いに他の二国を滅ぼそうと死力を尽くした、あの「三国志・戦乱の時代」の始まりの頃に相似した情勢である。

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