太平記 現代語訳 34-8 龍泉峯城、陥落す

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この現代語訳は、原文に忠実なものではありません。様々な脚色等が施されています。

太平記に記述されている事は、史実であるのかどうか、よく分かりません。太平記に書かれていることを、綿密な検証を経ることなく、史実であると考えるのは、危険な行為であろうと思われます。
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和田正武(わだまさたけ)と楠正儀(くすのきまさのり)は、龍泉峯(りゅうせんがみね:注1)の城に、大和(やまと:奈良県)と河内(かわち:大阪府南東部)の武士1000余人を篭城(ろうじょう)させていた。(注2)

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(訳者注1)龍泉寺(大阪府・富田林市)の付近の場所。

(訳者注2)龍泉峯への吉野朝軍の軍勢配置については、34-4 を参照。
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ところが、城に対して、足利軍側からは全く何の攻撃もない。

そこで、「徒(いたずら)に兵を城に置いとくのんも、えらい無駄な話やんけ、城から出して分散配置し、ゲリラ戦でもって、兵力の有効活用はかろうや」という事になり、城にこもっている武士たちを全員呼び下した後、弱小の野伏(のぶせり)100人ほどを、「見せかけの兵力」として城に残した。

なおかつ、こちらの木の梢(こずえ)、あちらの弓蔵(ゆみかくし:注3)の外れにと、そこら中に旗だけを結わえ付けて、いかにも大軍がたてこもっているように、カモフラージュさせた。

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(訳者注3)弓の射手が隠れる場所。
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これを見た、津々山(つづやま:大阪府・富田林市)に布陣の足利軍側は、

足利軍メンバーA すっげぇなぁー。

足利軍メンバーB あっちの兵力、めっちゃくちゃ、多いじゃぁん。

足利軍メンバーC 四方に手を立てたように切り立ってるあの山の上に、あんな大勢たてこもってやがるんじゃぁ・・・。

足利軍メンバーD たとえ、いかなる鬼神が攻撃したとしても、

足利軍メンバーE あの城、攻め落とすの、とてもムリだよねぇ。

皆、口々に言い恐れ、「あの城を攻めてみよう」と言いだす者は一人もいない。

ただ徒(いたずら)に、山上に翻る城の旗を見上げながら、それから150日ほどが経過した。

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足利軍中に、土岐・桔梗一揆(とき・ききょういっき)武士団所属の、小才の効くベテラン武士がいた。

桔梗一騎武士団メンバーF フーン・・・(龍泉峯城を凝視)・・・フーン・・・フン・・・フン・・・。

桔梗一騎武士団メンバーF おい、みんな! わかったでぇ! 敵の手の内、読めたでぇ!

桔梗一騎武士団メンバーG わかったって・・・いったい何が?

桔梗一騎武士団メンバーF あのな、太公望呂尚(たいこうぼうりょしょう)が書いた「六韜(りくとう)」って兵法書に、こんな事、書いてあんだわ、「塁虚編(るいきょへん)」ってとこにな、

 其(そ)の塁上(るいじょう)を望むに、飛鳥(ひちょう)驚かざれば、必ず敵、詐(いつ)わりて、偶人(ぐうじん)を為(つくれ)りと知る

桔梗一騎武士団メンバー一同 ・・・。

桔梗一騎武士団メンバーF おれな、ここ3、4日、あの城に接近して、いろいろじぃっと観察しとったんだわ。で、ついに、ある事に気ぃ付いたわけよ。

桔梗一騎武士団メンバー一同 ・・・。

桔梗一騎武士団メンバーF 見ろや、あの城の上・・・鳥、たくさん飛んどるやろ? 天にはトンビ舞っとるし、夕方には林に帰ってく烏も飛んどるわ。だけんどな、見てみいな、あれ! あいつら、城の上、悠々(ゆうゆう)と飛んどるがね・・・モノに脅えたような気配、全く無いやろ?

桔梗一騎武士団メンバーG あぁ、言われてみりゃ、なるほど。

桔梗一騎武士団メンバーF おれが思うには、あの城、空っぽだで。旗だけ、あっちゃこっちゃ立ててな、大勢たてこもっとるように見せかけとるんだわ、ゼッタイそうやで、そうに決まっとるで!

桔梗一騎武士団メンバー一同 ウーン!。

桔梗一騎武士団メンバーF なぁ、みんな、どや、よそ(他家)の連中混ぜんと、おれら桔梗一揆グループだけでもって、あの城、落としてみんか? うまくいったら、おれら、日本国中から拍手喝采だでぇ!

桔梗一騎武士団メンバーG おれらだけで、落とせるかなぁ?

桔梗一騎武士団メンバーH 落とせるわぁ! 誰も守っとりゃせん、カラッポの城だでぇ!

桔梗一騎武士団メンバー500余人一同 よーし、やってみるか!

桔梗一騎武士団メンバーI やるなら、すぐやろや!

桔梗一騎武士団メンバー500余人一同 よーし!

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うるう4月29日早暁(そうぎょう)、桔梗一揆武士団500余騎は、密かに津々山を下山し、夜明け前の霧に紛れて、龍泉峯城に接近していった。

桔梗一騎武士団メンバーF おぉ、見えてきたぞ、あそこが、城の一の木戸口や。

桔梗一騎武士団メンバー一同 ムムム・・・。

桔梗一騎武士団メンバーF さぁ、みんな、行くかぁ!(抜刀)

桔梗一騎武士団メンバー一同 (一斉抜刀)・・・。

桔梗一騎武士団メンバーF エェーイ! エェーイ!

桔梗一騎武士団メンバー一同 ウォーーーー!

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津々山の陣中で、隣合わせに陣オフィスを構えていた細川清氏(ほそかわきようじ)と赤松範実(あかまつのりざね)は、このトキの声を聞いて飛び起きた。

細川清氏 おい、今の、聞いたか?

赤松範実 聞いたわ、聞いたわ、聞かいでかぁ!(鎧を着ながら)えぇぃもう! どこのどいつか知らんけんど、まんまと、先駆けやられてしもたのぉ!

細川清氏 (鎧を着ながら)フフン、トキの声を上げるだけなら、カンタン、カンタン。城に切り込む事こそ、最大の手柄。

赤松範実 城に切り込んでこそ、ほんまの先駆けじゃぁー! おい、馬に鞍置けぇー!

細川清氏 旗持ち、急げーッ!

赤松範実 (馬にサッとまたがる)行くぞぉー!(拍車を入れる)

赤松範実の乗馬の拍車 ガガッ!

細川清氏 (馬にサッとまたがる)おう!(拍車を入れる)

細川清氏の乗馬の拍車 ガガッ!

道々、高紐(たかひぼ:注4)を締めながら、二人は馬をひた走りに走らせ、龍泉峯城の西側にある一の木戸の前に駆けつけた。

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(訳者注4)鎧の肩上と胸板を結ぶ紐。
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二人の眼前には、城の高櫓がそびえたっている。

馬から下りて後方をキッと見やれば、すぐ後ろには赤松範実の家臣、田宮弾正忠(たみやだんじょうのちゅう)、木所彦五郎(きどころひこごろう)、高見彦四郎(たかみひこさぶろう)の3人が続いていた。さらにその後方には、細川清氏の家臣ら6、70人が、崖を上り掘を越えながら、続いていた。

細川家の旗持ちは、高岸に馬の鼻を突っこんでしまい、そこを上りかねていた。

清氏は、彼の側まで走り下り、その旗を取り、城の切岸の前に突き立てて、大声で叫ぶ。

細川清氏 城攻め一番乗りぃ、細川清氏ぃー!

赤松範実 (塀の上を乗り越え)ちゃうでぇ、ちゃうでぇー! 城攻め一番乗りは、この赤松範実やでぇー! 細川殿には後日、おれの一番乗りの証人になってもらうんやぁー!

細川清氏 なぁにをぬかすか、このぉ!(塀の上を乗り超える)

桔梗一騎武士団メンバー一同 いかん、先越されてまうで! 早(はよ)ぉ行かなぁ!

桔梗一騎武士団メンバー中の、日吉藤田兵庫助(ひよしふじたひょうごのすけ)、内海光範(うつみみつのり)が、城の木戸を破って内部に突入した。

城内の野伏たちは、暫(しば)し抵抗を試みたが、「相手は大勢、味方は無勢、こりゃとても、かないませんわいな」と諦め、心静かに防ぎ矢を射ながら、赤坂城(あかさかじょう:大阪府・南河内郡・千早赤阪村)めざして、城から落ちていった。

方々に分散して陣を敷いていた足利側の全軍も、遅ればせながらも行動を開始、

足利軍リーダーJ おいおい、聞いたかよぉ! 桔梗一揆の連中が、城へ向かったって言うじゃねぇか!

足利軍リーダーK あぁ、聞いた、聞いたァアーア(あくび)。

足利軍リーダーL 早く行かなきゃ! 城、落ちちゃうよぉ!

足利軍リーダーM 大丈夫だよぉ、そんなにあせらなくっても・・・そんな簡単に落ちるわけ、ねぇだろぉ。

足利軍リーダーK そうだよ、そうだよ、ゆっくり行きゃぁいいのさぁァアーア(あくび)・・・おーい、みんなぁ、盾の板締めろよぉー・・・射手は全員集合ぉーー・・・射手を先頭に、さあ、ボチボチ、行くかぁァアーア(あくび)。

足利軍10万余騎が龍泉峯城の山麓へ到着した時には、既に城は攻め落とされてしまい、櫓や垣盾(かいだて)には火が掛けられていた。

足利軍リーダーJ あぁ、やられたぁ!

足利軍リーダーK 城の中には、ほんの僅かしか、いなかったんだってぇ。

足利軍リーダーL そんなに少ねぇと分かってりゃぁ、おれだって、さっさと攻めてたぁ。

足利軍リーダーM まんまと、土岐と細川に、一番乗りの手柄、立てさせちゃったじゃぁん・・・あーあ。

足利軍リーダー全員 クヤシイねぇー!

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