太平記 現代語訳 9-10 千剣破城の楠軍、ついにネバリ勝ち

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この現代語訳は、原文に忠実なものではありません。様々な脚色等が施されています。

太平記に記述されている事は、史実であるのかどうか、よく分かりません。太平記に書かれていることを、綿密な検証を経ることなく、史実であると考えるのは、危険な行為であろうと思われます。
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ここで場は、楠(くすのき)軍がたてこもっている千剣破城(ちはやじょう:大阪府・南河内郡・千早赤阪村)へと変わる。

六波羅庁(ろくはらちょう)陥落の翌日正午頃、

楠軍メンバーA おぉい、えらいこっちゃ、えらいこっちゃ!

楠軍メンバーB なんや、なんや!

楠軍メンバーC いったい、どないしたんや!

楠軍メンバーA ビィーッグニュースや、ビィーーッグニュースやどぉ!

楠軍メンバーB そやから、いったいなんやねん!

楠軍メンバーC ニュースの中身を、ハヨ(早)言わんかい!

楠軍メンバーA よぉ聞けよぉ! 六波羅庁(ろくはらちょう)、既に陥落、天皇・上皇陛下は、関東へ落ちられたぁ!

楠軍メンバーB ナァニィーー!

楠軍メンバーC エーッ ほんまかぁ、それ! ウソちゃうやろなぁ?!

楠軍メンバーA アホか! ウソでこないな事、言えるかいや!

楠軍メンバー一同 ウォー! ヤッタァー! ウォー! ウォー! ウォー!

千剣破城内は、大喜びの勇気百倍、閉じ込められていた鳥が籠から脱出し、林の中に遊ぶような気分。かたや、城を囲んでいる側はといえば、これから生贄(いけにえ)に供せられようとしている羊の、祭司の場に駆り立てられていくような気分。

幕府軍メンバーH おいおい、聞いたか! 六波羅庁(ろくはらちょう)がヤラレちまったらしいぞ!

幕府軍メンバーI おれもついさっき、聞いたとこだよ・・・。

幕府軍メンバーJ (内心)こりゃぁいかん! 一刻も早くここから、トンズラしなきゃ! 

幕府軍メンバーK (内心)ここを離れるのが一日でも遅れようもんなら、落ち武者狩りに出動の野伏(のぶし)の数、イッキに増えてしまわぁな。

幕府軍メンバーL (内心)野伏のビッシリひしめく中に、山中の路を退却? ブルブルッ、考えただけでも、ゾッとするぜ!

10日早朝、千剣破城・攻囲軍10万余騎は、一斉に奈良(なら:奈良県奈良市)へ向けて退却を開始。

しかし時既に遅し、彼らの行く先には野伏が充満していた。しかも背後からは、楠軍が急追してくる。

大軍の退却する時に常に見られる光景が、ここにもまた展開されていく。弓矢を投げ捨て、親子兄弟離れ離れとなり、我先にとあわてふためきながら逃走に次ぐ逃走・・・ある者は行き止まりの絶壁に行き詰まって切腹、ある者は数千丈の深みの谷底へ転落、骨をみじんに打ち砕かれてしまう者幾千万、まさに言葉に尽くせぬ大惨状。

陣中からの自軍メンバーの逃亡を食い止める為に、谷の随所に設置していた関所や逆茂木(さかもぎ)が、今や障害となって、彼らの行く手に立ちふさがる。心を落ち着けてそれを除去してから通過すれば別にどうという事にもならないのに、あわててそこを突っ走ろうとするものだからトラブル続出である・・・障害物に当たって落馬して馬から離れてしまう者もあり、その場に倒れたまま他人に踏み殺されてしまう者もあり・・・。

2、3里ほどの山道を、数万の楠軍や野伏たちに追い立てられながら、まったく何の抵抗をする事も無く、ただひたすら逃げていくのみ。つい今朝までは10万余騎いたはずの幕府軍は、戦死者多数、もはや生き残っている者はほんのわずか、彼らは、馬や甲冑など一切を投げ捨てて敗走していった。

このようなわけで、現在に至っても、金剛山(こんごうさん:大阪府南河内郡)麓の東条谷(とうじょうだに)の道路周辺には、矢の刺さった跡の孔が空いたり、刀傷の痕跡のある白骨が、弔う者も無いままに、苔むして累々と横たわっているのである。

しかしながら、幕府軍のリーダーたちは、道中一人も命を落とす事無く、生きた心地も無い逃走の末にその日の夜半、ようやく奈良にたどりついた。

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