太平記 現代語訳 36-1 仁木義長、吉野朝サイドに転じる

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この現代語訳は、原文に忠実なものではありません。様々な脚色等が施されています。

太平記に記述されている事は、史実であるのかどうか、よく分かりません。太平記に書かれていることを、綿密な検証を経ることなく、史実であると考えるのは、危険な行為であろうと思われます。
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京都朝廷・閣僚A 去年は、ほんまに、えらい年やったなぁ。

京都朝廷・閣僚B ほんまになぁ・・天災続きやった。

京都朝廷・閣僚C 旱魃(かんばつ)、飢饉(ききん)、疫病(えきびょう)・・・都の内外に、猛威を振るいよりましたなぁ。

京都朝廷・閣僚D そこら中の道ばたに、人間の死骸が充満してましてねぇ、その惨状たるや、もう、なんちゅうか・・・。

京都朝廷・閣僚E これは、ただ事ではおまへんで。ここらでいっちょ、心機一転せなあきまへん。

京都朝廷・閣僚A 改元(かいげん)かいな?

京都朝廷・閣僚E はい、そうだす、改元だす。

というわけで、延文(えんぶん)6年3月末日に改元が行われ、京都朝廷の年号は、「康安(こうあん)」に変わった。

その夜、四条富小路(しじょうとみのこうじ:下京区)付近から出火、四方86町が焼失してしまった。

世間の声F こらまたいったい、なんちゅうこっちゃねん! よりにもよって、改元したその日の夜に、首都のどまん中で、大火災ときたわ!

世間の声G いったいぜんたい、どないなってますねぇん?

世間の声H こらほんま、不吉の前兆どすえぇ。

世間の声I そうだそうだ、不吉以外の何ものでもなぁい。

世間の声J やっぱさぁ、この年号、どっか、まずいんじゃぁねぇのぉ?

世間の声K あたいも同感だなぁ。

朝廷でも、様々に議論になったが、

京都朝廷・閣僚C いやいや、そないなこと言いましてもな、そらどだい、むりっちゅうもんだっせ、今から急に年号変えるやなんてぇ。

京都朝廷・閣僚D 陛下からのご命令を受けて、幕府の方でも、もう既に、日本全国に新元号、通達してもてますがな。

京都朝廷・閣僚E 改元してたった数日で、また改元やなんて、過去の歴史においても、前例ありませんわいなぁ。

京都朝廷・閣僚一同 そんなん、絶対、むりですわぁ。

というわけで、ついに、この「康安」という年号を、そのまま使用する事になった。

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仁木義長(にっきよしなが)は、3年もの間、足利幕府の大軍に包囲されたまま、伊勢の長野城(ながのじょう:三重県・津市)にたてこもったままであった(注1)。

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(訳者注1)仁木義長の籠城については、35-5 を参照。
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領地を失い、食料が乏しくなってきて、頼みの一族郎従たちは、徐々に城から逃亡してしまい、今は、わずか300余騎ほどになってしまっていた。

土岐氏光(ときうじみつ)、外山(とやま)、今峯(いまみね)の3兄弟も、最初のうちは、義長に従って城にこもっていたが、弟の外山と今峯は、ついに幕府軍側に寝返ってしまい、氏光だけが、なおも城にこもり、仁木サイドに踏みとどまっていた。

敵味方に分かれてしまったとはいえ、そこは兄弟どうし、外山と今峯は、何としてでも兄の氏光を助けたい。彼らは、兄のもとへ密使を送った。

密使 外山様と今峯様から、このお手紙をことづかってまいりました。(手紙を渡す)

土岐氏光 うん・・・(手紙を受け取る)(手紙を開く)。

手紙 パサパサ・・・(開かれる音)

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(手紙に記された内容)

城が完全にダメになってしまわない前に、急いで、幕府側に降参されたらどうですか? 将軍も、あえて兄上を罰しようというご意向も無いようですから、領地安堵(りょうちあんど)は大丈夫、間違い無しですよ。
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土岐氏光 ・・・(手紙を裏返し、そこに何やら書く)(手紙を密使に返す)

密使 ははっ!(手紙を懐に入れる)

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密使 ただいま、帰りました!

今峯 で、どうだった?

外山 あにきはなんて?

密使 ・・・(黙って、例の手紙を外山に差し出す)

外山 (密使から手紙を受け取り、氏光が手紙に書いた内容を黙読の後、今峯にその手紙を差し出しながら)だめじゃぁ・・・。

今峯 (氏光が書いた内容を読み上げる)

 連なってた 枝の木の葉も 散々(ちりぢり)よ おまえも散れじゃとぉ よく言うよなぁ嵐め

(原文)連(つらな)りし 枝の木葉(このは)の 散々(ちりぢり)に さそふ嵐の 音さへぞうき

今峯 このかんじだと、あにき、とことん、死ぬ覚悟、かためとるでぇ。

外山 これじゃぁとても、寝返りなんか説き伏せれんわなぁ。

今峯 ほんと、この歌の通りだで。おれたち兄弟、もともとは、一本の木の枝に連なって着いてた木の葉だが。

外山 散り散りに、なってしもぉたんよなぁ。(涙)

今峯 あにきの名前も、秋の霜の下に朽ち果ててしまうんや・・・あぁ、悲しい事だでぇ。(涙)

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日に日に、城中の人数が減っていってしまうのを見て、ついに、義長も、

仁木義長 あぁ、もう、ダメダメェ! おれ一人の力じゃ、もう、どうしようもねぇ!

仁木義長 よぉし、この際、利用できるモンならなんだって、利用してやらぁ。

義長は、密かに吉野朝廷(よしのちょうてい)に使者を送り、味方に参じたい旨を申し入れた。

伝奏(てんそう)役の吉田宗房(よしだむねふさ)が御所に参内し、義長からの申し入れを、朝廷に伝えた。

吉田宗房 ・・・てなわけですわ。

吉野朝廷・閣僚L えーっ、あの仁木が、そないな事、言うてきよったんかいな!

吉野朝廷・閣僚M こらまた、思いもかけぬ、グッド・ラック(good luck)。

吉野朝廷・閣僚N なぁんもラッキーな事ありませんよぉ! あきませんてぇ、こんなんに乗ったらぁ!

吉野朝廷・閣僚O そうですよぉ。なんとかして今の窮状を脱せんがために、我々を利用したろ、いうだけの事ですわぁ。仁木のコンタン(魂胆)、み(見)えみえですやぁん。

吉野朝廷・閣僚P あいつは、信頼できひん男ですからな。

吉野朝廷・閣僚M そやけどな、考えてみいな、義長がこっち側にきよったらやで、あいつが所行(ちぎょう)しとる伊賀と伊勢の二カ国が、こっち側の勢力範囲に入るんやでぇ。

吉野朝廷・閣僚O うーん・・・そやけどぉ・・・。

吉野朝廷・閣僚L 伊勢がこっち側の勢力圏内に入ったら、あこの国司の北畠顕能(きたばたけあきよし)卿の城かて、ずいぶんと安泰になるやんか。

吉野朝廷・閣僚一同 ・・・。

吉野朝廷・閣僚L とにかく、この話、どう転んだかて、こっちの損にはならへんねんから・・・OKしとこうなぁ。

吉野朝廷・閣僚一同 そうですなぁ・・・。

というわけで、吉野朝廷は直ちに、「仁木義長の過去の罪を許す」との、天皇宣言書を送った。(注2)

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(訳者注2)原文では、「即勅免の綸旨をぞ被成ける」。
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ある日、吉野朝廷の夜警当番の者たちが、こんな会話を、ささやき声で始めた。

武士Q 近頃、足利一族の中から、いろいろなモン(者)が、こっち側に寝返ってきよったけどな、どいつもこいつも、その内心は偽りのみ、わが陛下を欺き申したモンばっかしやなぁ。

武士R ほんまやなぁ・・・まずは、足利直義(あしかがただよし)・・・あいつは、譜代の家臣の高師直(こうのもろなお)・師泰(もろやす)兄弟からの迫害から逃れんがため、こっちサイドに寝返ってきよったんや(注3)。そやけど、こっちの力を借りて、自らの敗北の恥をそそいだ後は、ただの一日たりとも、わが陛下からのご恩を重んじる事なんか、全く無かったわなぁ。そのせいで、罪はその身にとどまって、ついに毒殺されてしまいよったがな。(注4)

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(訳者注3)28-7 参照。

(訳者注4)原文では、「其譴(そのせめ)、身に留て遂に毒害せられにき。」。

太平記作者がここに記述(作者自らが断言するのではなく、無名の登場人物の会話の中に表現という形式でもって)した「毒殺」が、史実であるのかどうかは全く不明である。これについては、30-5 の末尾に記した訳者の注を参照していただきたい。
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武士Q その後、足利義詮(あしかがよしあきら)も、「そちらの味方になって、君臣合体の体制となりたい」なんちゅうて、言うてきよったけど(注5)、あれも、あてにならんかった。「政治の全てを、陛下の御成敗にお任せすることを、固くお約束いたします」との言葉も、いつの間にか、ホゴ(反古)になってしもぉたわ。その後、義詮が近江へ逃げんならんようになったんも(注6)、ウソつきのバチが当たったんやわなぁ。

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(訳者注5)30-6 参照。

(訳者注6)30-7 参照。
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武士R 他にも、よぉけおったのぉ、足利直冬(あしかがただふゆ)(注7)、石塔頼房(いしどうよりふさ)、山名時氏(やまなときうじ)(注8)・・・こいつらが味方になりよったんも、心底からのもんとは、到底思えん。推量するに、ただ、陛下の勅命を利用して、自分の願いを達成せんというだけのこと。陛下を再び日本の主にしたとしても、その陰で、天下を我が物にしてしまおうと、そないな野心を抱いとったんやろうなぁ。

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(訳者注7)32-6 参照。

(訳者注8)32-3 参照。
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武士S 今また、仁木義長が、味方になりたい言うてきよった・・・もう動機は、見え見え。幕府側の大軍に包囲されてしもて、にっちもさっちもいかんようになってしもたから、こないな事、いうてきよったんや。

武士T そうやで、そうに、決まったるがな。

武士U そやのになぁ、それを受け入れはった閣僚方もなぁ・・・あの人ら、いったい、なに考えてはんねんやぁ? さっぱりわからん。

武士S あの仁木義長っちゅう男の、普段の振舞い見る限り、もうほんまに、「悪の権化(あくのごんげ)」っちゅうかんじやぁん。やることなすこと、何から何まで、悪い事ばっかしやないかいなぁ。

武士T そうやでぇ。ちょっとでも、何か気にさわるような事あったら、すぐに、人、殺してまいよんねんからぁ。なぁの罪もない人間をなぁ・・・で、そいでもって、悪い事したっちゅうような自覚、ただの一かけらも、無いやんかぁ、あいつ。

武士S そやのにな、気が合う相手と見たら、何の功績も無いのに、すぐに、褒美やりよるやろ?

武士T ほいでもって、すぐさま、その褒美、取り返す。

武士一同 ワハハハ・・・。

武士S 長年の恩顧を忘れて、足利義詮にさえも、背(そむ)いてしまうような、やつやねんからなぁ、わが陛下に対して、深い忠義の心なんか、さらさら無いわいなぁ。

武士U 7か国もの守護職、持ってるくせして、「まだまだ足らんわい」っちゅうような、やつやねんどぉ、あいつはぁ。こっちから3か国、5か国、恩賞に与えたっても、満足しよるかいやぁ。

武士V いやいや、あないなやつでもな、欲望の限界っちゅうもんは、さすがにあるんやでぇ。「もうこれで十分です、もうこれ以上、要(い)りませんわぁ」っちゅうような、限界がなぁ。

武士U へぇ、そうかいなぁ。で、いったい、何か国与えたったら、満足しよるんじゃい?

武士V 66。

武士U なにぃ、66か国? それやったら、日本全国、まるごとやんけぇ!

武士V そうやぁ。日本全国66か国、それが、あいつの欲望の限界やねん。

武士一同 ウワハハハ・・・。

武士U そないな事してみぃ、日本国中に土地、一個所も、無(の)うなってまうやんけぇ! 長年、陛下に忠功つくしてきた、オルレ(俺)ら、いったいどこで、オマンマ食うてったら、えぇんじゃぁぃ!

武士一同 ウワハハハ・・・。

武士Q つらつら考えてみるにやな、仁木義長は、忠臣にもあらず、智臣にもあらず、神仏に見放され、人望に背いて、自滅へ向かってまっしぐら。

武士R そないな悪人を、こっちの味方にしてやでぇ、いったいなにが、陛下の開運の助けとなるっちゅんやろう?

武士Q 虎を養うて、自ら禍を招くっちゅう、かんじやわなぁ。

その側から、明らかに、仁木義長に好意を抱いていると思われる人が、口を開いて、

武士W たしかに、仁木義長は悪人や。ただし、ただの悪人では、ないわなぁ。

武士一同 ・・・。

武士W そらもう、なみの悪人ではないでぇ、あの人はなぁ。鎌倉にいた時には、鶴岡八幡宮(つるがおかかちまんぐう:神奈川県・鎌倉市)で、稚児(ちご)を切り殺して、神殿に血を注いだ。京都の八幡宮(京都府・八幡市)では、駒形神人(こまがたじんにん)を殺害してしもて、神社側から、ものすごい強硬な訴訟を起こされた。

武士W ふつうの人間がこれほどの悪行してもたら、そらもう、たちまち天罰や、ただの一時も、安穏としとれるもんやない。ところが、あの人はどうや? 未だに生きてるやないか。そやから言うんや、仁木義長はふつうの人とはちゃうでぇ、てなぁ。

武士U ほならいったい、あの男は、なにもんやねん?

武士W あんなぁ・・・古代インドには、むちゃくちゃな王様が、おったらしいなぁ。仙誉(せんよ)っちゅう王様は、500人の人間を殺し、斑足(はんぞく)っちゅう王子は、1000人の王の首を切ったとか。そやけど、この二人、仏菩薩が衆生を救わんがため、人間の姿になって世に現れたんやと、いうやないかぁ。

武士Q ほならなにか、あんたは、仁木義長もまた、仏菩薩の生まれ変わりや、とでも言いたいんかいな?

武士W あんな、別にこれはな、なにも、仁木をひいきして言うてんのとは、ちゃうねんからな、誤解せんといてくれよぉ・・・人が語り伝えてきて、わしの耳にとどまった事を、言うてるだけのことやねんから。

武士V そんなぁ・・・あの男が、そないにえぇもんかいやぁ、なぁ?(その場の全員に対して、同意を求める)

武士たち ・・・(うなずく)。

武士W あんな、よぉ聞けよ、仁木義長、最近、伊勢の守護やったやろ。あこに在国中に、こないな話があるんやで・・・。

(以下、武士Wが語った話)
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仁木義長は、未だかつて、公家も武士も手をつけようとしなかった伊勢の神三郡(かみさんぐん:注9)に侵入し、伊勢大神宮の領地を押領した。

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(訳者注9)度会郡、多気郡、飯野郡のこと。伊瀬神宮の領地であった。
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伊勢神宮の祭主と神官らは、すぐに京都に行き、朝廷や幕府に、義長の行為を訴えた。

「日本列島開闢(かいびゃく)以来、未だかつて、このようなけしからぬ行為は聞いた事が無い、速やかに、大神宮に対して、領地を返却すべし!」と、朝廷、幕府から、厳重命令が下された。

しかし、義長は知らぬ顔。それどころか、「このおれを、訴訟の対象にするとは!」と激怒、神域を流れる五十鈴川(いすずがわ:三重県・伊勢市)をせきとめて魚を捕り、神苑南西の神路山(かみじやま)に入って鷹狩を行った。

伊勢神宮の神官リーダー 仁木義長の悪行は、日に日に積もる一方。こないなったら、神様にお願いして、彼を亡ぼしてもらおうやないか! 神罰を下していただこうやないか!

伊勢神宮の神官一同 よぉし!

神官500余人は、榊(さかき)の枝に木綿(しで)をかけ、様々の幣を神前に捧げ、異口同音に呪詛(じゅそ)し始めた。

神官リーダー 願わくば、今から7か日の間に、かの大悪人にして大バチ当たり男、仁木義長を蹴り殺したまえ!

神官一同 蹴り殺したまえ! 蹴り殺したまえ! 蹴り殺したまえ!

それから7日目、突然、10歳ほどの童子に、憑依現象(ひょういげんしょう)が現れた。

童子 うわぁ、うわぁ、うわぁ! フー!フー!フー!

神官一同 おおお・・・。

神官X 神ががりや!

神官Y 神ががりや!

童子 う・・・う・・・わ・・・わ・・・われ・・・。

童子 われ・・・我に大神宮、乗り居させたまえりぃー!

神官一同 はははぁーー!(童子の前に平伏)

童子 我、真理の根源たるかの本覚真如(ほんがくしんにょ)の都を出(いで)て、一切の衆生(しゅじょう)を救わんがために、わが姿を変じて、人間界に足を踏み入れたり。わが威徳(いとく)、秋月(しゅうげつ)のごとく、遍(あまね)く世界を照らし、わが教化(きょうげ)の一切衆生に及ぶは、あたかも春華(しゅんげ)の薫(くん)ぜざる袖の皆無なるがごとくなり。

童子 されば、一切衆生救済の為なる方便(ほうべん)の門においては、罪ある者をも、嫌う事無し。一切衆生に利益(りやく)授くる為には、愚かなる者をも、捨つる事は無し。

童子 さてさて、かの仁木義長なる者の悪行を、なんじら天に訴えて呪詛しおるが、我はそれに納得しがたし。

童子 彼、前世(ぜんせい)において義長法師(きちょうほうし)と言いし時、五部の大乗経典(だいじょうきょうてん)(注10)を書写し、この国に納めたりき。故に、その善根(ぜんこん)、今生(こんじょう)にこたえ、この伊勢の国を知行する事を得たるに至るものなり。かようの宿善(しゅくぜん)無くしては、彼、一日たりとて、安穏なる事を得んや。

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(訳者注10)華厳経、大集経、大品般若経、法華経、涅槃経。
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童子 あぁ、されど・・・されど・・・なんともはや、もったいなきこの善根なるや・・・かの義長法師、もしも無上菩提(むじょうぼだい)の心に趣きて、かの大乗経典を書写したりしかば、速やかに生死の輪廻(しょうじのりんね)より脱し、仏果菩提(ぶっかぼだい)へと至れりしものを・・・おしむらくは、その写経(しゃきょう)の動機・・・ただただ、名声利益(めいせいりやく)を求めんが為に修せし所の善根なれば、今生(こんじょう)においては武士の家に生れ、諸国の守護となり、多くの家臣もかかえるといえども、その悪行は心に染まりて、乱を好み、人を悩ます・・・うっうっうっ・・・。(涙)

童子 あぁ、哀れなるかな・・・過去の善根この世にこたえて、今生の悪業(あくごう)また未来に酬(むく)わん・・・哀れなるかな、哀れなるかな、うっうっうっ・・・。(涙)(横たわる)。

童子 (仰臥しながら)うっうっ・・・うっうっ・・・う・・・。

童子 スゥスゥスゥ・・・(寝入る)

童子 (ガバッ)(急に起き上がる)

童子 あれっ? ボクはいったい何を?・・・こんなとこで寝て・・・みなさん、いったいなんでそないに、ボクの事、じっと見てはるんですかぁ?

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武士W ・・・とまぁ、こないなわけや。こういう話もあるよってにな、仁木義長もそれなりに、相当わけありの人やねんなぁと、わしは思うとるんやが。

武士Q へぇー! そないな話があったんかいなぁ。

武士R 知らんかったなぁ。

武士S そうは言うけど、悪行においては天下第一の不心得もんやわい、あの男はのぉ。

武士T それだけは、言えてるわな。

それからも、話は夜通し続いたが、夜明けと共に、武士たちは全員、朝廷から退出した。

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