silver bullet 3話

 一発の銃声が轟く。そこには、心臓を打ち抜かれ倒れ込むヴァンパイア。
「ちょっと、ヴァンパイアさん。死ぬ前にひとつ教えてほしい事があるの」
 見事な銀細工のリボルバーを手に、ヴァンパイアに歩み寄るハンター。
「き、貴様に教える事など……」
 ヴァンパイアの顔を思いっきり蹴り上げるハンター。
「素直に教えてくれれば直ぐに楽にしてあげるわよ、ヴァンパイアさん」
 打ち抜かれた身体から青白い火が点き、燃え始めるヴァンパイア。
「名前かどうかは解らないけど、ノーブルっていう銀髪を探してるんだけどね、あんたらのお仲間さ。知らない?」
「ノーブル? 貴様、それを誰だか解って……お前、まさか!? ふ、ふははは、そうかお前あの娘か……貴様は我々からすれば呪われた者……ここでお前を仕留め損ねるとはな……まあいい。いつかお前は、お前の探し求める者に再開するだろう。しかし、その時お前は後悔する事になるだろう。その時を楽しみにし……」
 また銃声が響き渡る。今度は今、話していたヴァンパイアの眉間にハンターの手に持った銃から銀の弾が撃ち出され、そこを中心に青白い炎が広がり、瞬く間にヴァンパイアを灰に変えていく。
「おしゃべりは嫌いだ」
 ジリッツァの後から誰かが近寄り、声をかける。
「よう、ジリッツァ。今日も首尾は上々のようだな」
 振り向きもせずに答えるジリッツァ。
「こんなザコいくらやっても……」
「まあそう言うな」
 そう言ってジリッツァを宥める男。そして思い出したかのように紙切れを胸ポケットから取り出す。
「そうそう、一つ情報だ。お前が追ってる奴かどうかは解らないが、クルクスの街にかなり手強い奴がいるらしい。賞金も相当な額だ。行くだろ?」
 そう言って男は手配書をジリッツァに見せる。その手配書には顔はほとんど写っていないが、黒衣に銀髪、確かに特徴は似ている。最も黒衣はヴァンパイアなら光を避ける為に皆黒衣だから特徴にはならないが、それでも銀髪は気になる。ジリッツァはその手配書をひったくるように取り、歩き出す。
「行くんだろ? クルクス」
 後から着いて来る男に、コクリと頷いて返すジリッツァ。クルクスの街はそう遠くない、しかし夜に街を移動する者はほとんどいない。だが、ジリッツァは臆することなく、街の外に向かって歩き出す。
「おいおいジリッツァ。まさか今から行くんじゃないだろうな? 止めとけって、いくらお前さんが強いって言ってもそれは危険だぜ」
「今から行けば夜明けには着く。嫌ならバトラーはこの街に残ればいい。あたしにはコレがあるから大丈夫さ」
 ジリッツァは今まで使っていた銀細工の見事なリボルバーを見せ、馬に跨がるとそのまま駆け出す。
「やれやれ、とんでもない娘に付いちまったぜ。おい、ジリッツァ。待てよ、俺も行くから!」
 バトラーも馬に跨がり、ジリッツァの後を追う。

 ジリッツァの言ったとおり、クルクスには夜明けには着き、二人はそのまま街を見て回り、ハンターの集まる酒場に行く。ハンターは基本的に夜間の仕事で、昼間は飲むか寝るか位しかする事もなく、街の者からは昼行灯と言われてはいる。しかし、それでもなくてはならない存在だ。だが荒くれ者も多い事もあり、街の人々からは英雄視するか、厄介者を見るような眼で見られる。
 酒場に着いた二人はカウンターに腰掛け、マスターに酒を頼むついでに手配書を見せる。
「マスター。こいつの事なんだが」
 マスターはちらりと手配書を見て話し出す。
「あんたらもセリェブローの賞金目当てに来たのかい? 止めときな、今月に入って腕利きのハンター達がもう何人もやられてる」
 そう言ってグラスに入った酒を二人の前に差し出す。
「セリェブローって言うのか?」
「ああ、こいつが来てからもう何人も街の若い娘がやられてるよ。ちょうど、お嬢ちゃんくらいの年の娘がな」
 マスターはそう言って、フードを深く被ったジリッツァに目を向ける。
 けしてヴァンパイアは娘の血のみを求める訳ではない。手当たり次第に血を吸っていく奴もいれば、ノーブルと名のったヴァンパイアのように、上位のヴァンパイアになると娘の血のみを求めるヴァンパイアもいる。
 セリェブローと呼ばれるヴァンパイアもその類だろう。
「ジリッツァ。目当ての奴とは違うんじゃないか?」
「解らない……でも、手掛かりは有るかもしれない。あたしは今晩から動くよ。バトラーはこのまま情報を集めといて」
 そう言うとジリッツァはグラスに入った酒を一気に煽り、フードを深く被ると、酒場を出て行く。
「全く、人使いの荒い嬢ちゃんだ」
 一人ぼやくバトラー。
「マスター、もう一杯同じもんくれ」
 マスターはグラスにバーボンを注いで立ち去る。