置き去り

「ここは何処だ?」
 俺は荒野のど真ん中に連れてこられ、置き去りにされてしまったようだ。
「確か…… 昨日飲んでてその帰りに……あたたたた」
 昨日の帰りに誰かに頭を殴られ、そのままここにつれてこられたのだろう。その痛みがまだ残っておりその痛みで昨日の事を想いだした。
「くっそ……ここはいったい何処なんだ?」
 俺は辺りを見渡すが、建物など人工物は何も見当たらない。こんな所がこの日本のどこにあるというのか……
「北海道にでも連れてこられたか? まったく冗談じゃないぞ! とにかく、どこか近くの町まで行かないと」
 僕は痛む頭を押さえながら俺は歩き出す。
「なんだありゃ?」
 暫く歩いたところで奇妙なマス目が書かれた所に出くわした。特に何かがある様な感じはしない、しかし辺りをよく見まわしてみると、そこらじゅうに何かが爆発したような穴が何か所か開いていた。
そして、その周りには奇妙な数字の書かれた旗が立っている。
「なんだよあれ? まったく……」
 俺はそう呟きながらも、初めて見えた人工物の方に歩み寄ろうとした時、急に背後から声がかかる。
「おっと、それ以上行かない方がいい」
「ああ?」
 俺は声のする方を振り向く。するとそこには銃を持った何人かの男が立っている。
「なんだあんたら?」
 いったいどこから来たというのだ? 俺はその事を不思議に思ったが、それ以上に得体のしれないこの男たちに少し怒りを覚えた。
「あんたらか? 俺をこんな所に連れて来たのは?」
 俺の言葉を無視する男達。俺はその態度に更にイラつき、男たちに詰め寄る。
「どうなんだ? お前らが俺を……」
  何歩か歩いたところで、男の一人が手に持った銃から一発弾を打ち出す。
「そこで止まれ。まだ死にたくはないだろ?」
 始めてみた本物の銃に俺は驚き、これ以上歩くことが出来なかった。
「これよりゲームを始める」
 その言葉の意味が解らず、俺は「はぁ?」と声を出す事しかできなかった。
「なに、ルールは簡単だ。お前はこの旗を持ってこの場所から十キロ離れた町に辿り着けばいい。ただそれだけだ」
「なんだそれ? 意味わかんねーよ!」
 俺の言葉を無視するかのように、男の一人が大量の旗とマジックを俺の前にほり投げる。
「それはお前の命綱だ、大事に扱えよ。じゃないと、死んでしまうからな。さあ、ゲームのスタートだ」
「おい、ちょっと待てよ! いったいどういうつも……」
 俺の言葉など聞く耳を待たないかのように、また威嚇射撃をし、その弾は俺の足元で土煙を上げる。
「なんなんだよお前ら!」
 俺の言葉に今度は銃口を俺の方に向ける。完全にあの目は俺を殺す事を何とも思っていないような眼だ。
「解ったよ、行けばいいんだろ? お前ら、無事に帰ったら絶対に訴えてやるからな!」
 俺は目の前に落ちている旗を拾い上げ、マス目の方に向かって歩く。
 マス目の大きさは一メートルくらいだろうか? そこのマス目には所々数字の掛かれた旗が立っている。数字は一から九まであり、その数字の意味するところはよく解らなかったが、なんとなくどこかで見覚えのある景色だった。最初一キロくらいは数字の立っている旗は少なく、何事もなく通り過ぎることが出来た。
「へっ、なんだよあいつら。らくしょーじゃねえか」
 ところが、二キロを過ぎる辺りから数字の立っている旗の数が多くなってくる。そして、それ以上にもっと変わった変化が見られるようになった。
「おい……まじかよこれ……」
 旗の周りに爆発したような跡、そしてその傍らには片足が無くなった状態の白骨死体。
「はぁ? 意味わかんねーよ! 何なんだよこれ?」
 そこで俺はその死体を見て気が付いた。
「まさか……おいおい。冗談じゃねーぞ! こんな所でマインスイーパかよ!?」
 そう、旗に書かれた数字は、周りに設置された地雷の数。俺はその事に気が付き、そこから動くことが出来なくなってしまった。そしてよく見ると、そこらかしこに白骨死体や、まだ生々しい跡が残る死体……
「こんな場所、どうやって抜け出せばいいんだよ……」
 周りには町も見えず、人どころか動物の姿も見えない。
「いったい何なんだよこれ……何とかしてくれよ!」
 俺は叫ぶが、そこには誰もいない。
「おい、さっきのあんたら。どこかで見てるんだろ? 頼むよ助けてくれよ! 警察に言ったりしないから!」
 しかし、当然ながら俺の言葉に誰も返事はしない。
「へ……へへ……解ったよ、やってやろうじゃねーか! お前ら見てろよ! ぜってー抜け出してお前ら全部警察に突き出してやるからな!」
 俺は覚悟を決め、とりあえず旗の前で考える。眼の前の旗にはには一の数字。その周りには八個のマス。この中の一マスに地雷が一つ。確率的にはかなり低い。しかし、俺は一歩が踏み出せない。
「ちきしょ……どこにあるんだ!?」
 俺はもっと旗が多く立っている所がないかと辺りを見渡す。ここよりも多くの旗が立っている所を見つけ、そこに移動する。一マスが一メートルくらいなので、何とか旗の有る所を飛びながら移動していくが、どうしても飛び越せない程旗の間隔が広がっている所が出てくる。そこでは俺は旗を立て、何とか安全地帯と思われる所を探してきた。
 そんな事をもう数時間繰り返し、あれから五百メートルくらい進んだだろうか? そこで、旗がまったく無くなってしまった。
「おいおい、どういう事だよ?」
 ここに来るまでも、だんだんと旗の数は減って来ていたが、ここでついに旗が無くなってしまったのだ。
「誰もここまでは辿り着けてないのかよ……」
 俺はどうする事も出来ず立ちすくんでしまった。
「どうすりゃいいんだ……」
 そう一人呟き、途方に暮れる。しかし、このままここで野垂れ死ぬ位なら前に進んで死ぬ。俺はそう思い、最後に旗が立っている所から一つ一つ考えながら安全な場所に旗を立てていく。
 それから何十メートルか進んだところで、周りに何が有るか解らない位暗くなり、俺はその日は進む事を諦め、周りに地雷が埋まっていないことを確認して横になった。
「ちきしょう! いったい何で俺がこんな目に合わなけりゃいけないんだ!?」
 昨日からの事を考え、俺の一体何が悪かったのかを考えた。しかし、俺には何が原因でこんな事になったかがまったくわからなかった。
 そして、俺は今日の事を改めて考え直した。そして、一つ不思議な事を想いだした。
「そう言えば……なんか変な旗の配置が幾つかあったな……」
 その変な旗は、数字がかかれている事は一緒なのだが、一の数字が一つのマスを囲むように刺さっており、それだけ警戒しているにもかかわらず、なぜかその真ん中は爆発した後が有るのだ。俺にはその意味がまったく解らなかった。
「いったい何であんな事を?」
 その不思議な事を考えていたが、疲れた頭ではそれ以上考えが纏らず、俺は考える事を止め眠りに落ちて行った。
 かなり深い眠りに落ちたのだろう、俺は目が覚めた時、周りの景色が違っている事に少しの間気が付かなかった。まだぼーっとした頭で、ぼやけた景色を寝ころびながら見ていたが、ようやくその景色の意味が呑み込めた。
「おい! ちょっと待て! なんで俺のマスの周りに旗がたって……」
 そこで俺の意識はとぎれた……