戦い ~JISの秘密~

この文章はならざきむつろさんの『私的国語辞典』の「JIS」

https://note.mu/muturonarasaki

の続きの文章です。

公園中の人たちの視線が集められた俺達二人、いったいなんだって言うんだ?

ただ俺たちはJISマークの話をしていただけなのに……

そう思った時、俺の頭の中に何か鈍い音がして気を失った……

 そして次に眼が覚めたのは、コンクリートの打ちっぱなしで、窓もなく裸の電球が部屋の真ん中にぶら下がっている何の飾りもない部屋の中だった。

「痛てててて……」

 横を見ると、同じようにここに連れてこられた真樹夫が、頭を押さえながら眼を覚ました。

「おい、ここいったいどこだ?」

「さあな、俺にもさっぱりわからん……」

 そう真樹夫に返す俺。

「なあ、これってもしかして監禁じゃないのか?」

 確認するまでもなくこれは監禁だろう。

 そう思いながらも俺は立ち上がり、部屋の中を調べてみる。

 この部屋にはやはり何もない、出入り口は一つで、その扉を押してみるがびくともしない。

 その扉にはのぞき窓が付いており、誰かがそこから覗くことができるようになっていた、そして扉の下には、手が通るくらいの長方形の形をした隙間が空いている。

 恐らくここから中に何かを入れるようにしているのだろう。

「なあ、どうして俺たちこんなところにいるんだ?確か俺たち公園でJISマークの事を話していて……あれ?それからどうしたんだっけ?」

 どうやら真樹夫もそこから先を覚えていないようだ。

「俺もそこから先がまったくわからない、どうも誰かに殴られたような衝撃が頭の中にあるんだが……」

 そう言って真樹夫に返事をしながらも、俺は部屋の中を見渡す。

 しかしやはりその部屋には何もない、よくわからない状況にほりこまれ、周りにも何も手掛かりになりそうなものもない状況、思わず悪態をついてしまう。

「くそ、やっぱり何もないな」

 俺はそこで、手掛かりを探すのをあきらめ、真樹夫の隣に座りこむ。

 すると扉の向こうから誰かが歩いてくるような音がコツコツと聞こえる。

「おい、誰か来たみたいだぞ」

 そう言う真樹夫、それに俺も答える。

「ああ、そうみたいだな」

 これで少しはこの状況がどういう状況下も分かるかもしれない、俺は少し希望が湧いた。

 そして扉の前に人の気配、のぞき窓が開けられ、外から俺たちの様子を見る二つの眼。

 その眼はどうも女性のようだ、まつ毛はどう見ても最近の女の子が付けるような、やりすぎている着けまつ毛、そして濃い紫色のアイシャドウ。

 その人物に真樹夫は話し掛ける。

「なあ、俺たちをいったいどうしようってんだ?」

 その言葉には答えない。

「いったい何の目的で俺たちをこんなところに閉じ込めたんだ?」

 俺もその瞳に向かって声を掛ける。

 するとその女は口を開く。

「あなた達は偶然にもあの秘密を知ってしまった、残念だけど、もうここからは出る事は出来ないわ」

 その言葉に俺と真樹夫は眼を合わせる。

 そして真樹夫が更に言葉を掛ける。

「何のことだ?俺たちは何も知らないぞ?」

 そう真樹夫は話し掛ける、しかし俺にはなんとなくここに閉じ込められた意味はわかった、しかしそんな事で閉じ込められる理由がまったく俺には分からない。

 そして、その疑問を真樹夫が話し終わった後にその女に俺は問いかける。

「まさか、JISマークの事か?しかしそんな事で俺たちがこんな所に閉じ込められる理由がさっぱりわからない。いったいどういう意味なんだあれは?」

 その言葉を聞いた女は重く口を開く。

「そう……わかってないのね……今の日本でそれがどれほど危険な事を意味するのか……」

 そう言ってその女はのぞき窓を閉じてその場所を去っていく、その足音が遠ざかって行くのを聞いて真樹夫は感情を露わにして扉に向かって叫ぶ。

「おい、まだ話は終わってないぞ?!どこに行くんだ?おい!」

 真樹夫の声はむなしく廊下に響きわたる、しかし女のコツコツという足音は遠のいていくだけだった。

 その様子で分かったのか真樹夫はあきらめたように俺の横に戻って座り込む。

「くそ!いったいなんだってんだよ」

 そう声を荒げる真樹夫、そしてそれに返す俺。

「ああ、全くだ、いったいなんだってんだろう……」

 それから数時間、俺と真樹夫はJISマークについて話し合った。

「やっぱり、意味がまったく解らないな……」

 そう言う真樹夫に俺も同意する。

「ああ、さっぱりだ、しかし俺たちが気付いた陰陽印という事に何か関係があるのは確かだろう、その謎さえ解ければ……」

 そう言う俺の言葉に真樹夫が反論する。

「しかしそれが解ったからって、ここから出れるわけじゃないだろう、とにかくここから出る方法を考えないとな」

「確かにそうだ、しかしここからどうやって脱出する?出入り口はあそこだけだし、仮にここからでれたとしても、その先がどうなっているか解らないぞ?」

 そうだな。そう呟く真樹夫。

 そんな事を話しながらもまた数時間が流れ、だんだんと腹が減ってきた時にまた足音が聞こえる。

「おい、誰かまた来たみたいだぞ」

 そう声を掛ける真樹夫、確かに足音が聞こえる。

 しかしその足音は先ほどの硬質な足音と違って、もっと柔らかいような感じのする音だ。

 恐らくスニーカーのような靴の音だろう。

 足音は俺たちの扉の前に立ち止まった。

 すると扉の下の隙間から食べ物を中に滑り込ませる。

 そのトレイにはパンとスープ、それと何かを煮込んだようなものが盛られている。

「おい、ここから出せよ!」

 真樹夫はそれを運んできた人物に声を掛ける、しかしその人物はのぞき窓を開ける事もなくその場を離れる。

「くそ、無視かよ」

 真樹夫はそう言ってうなだれる。

「なあ真樹夫、とりあえず腹も減ったし飯でも食おうぜ」

 そう言って俺は扉の下にあるトレイを持ってきて真樹夫に渡し、俺もトレイの物を口に運ぶ。

「お前、よくこんなもの食えるな、毒でも入ってたらどうするんだ?」

 そう言う真樹夫を他所に俺はトレイの物を食べ、そして真樹夫に話しかける。

「もしそうなら、こんな面倒な事はしないはずだろ?殺すつもりなら最初から殺しているはずだ。奴らは俺たちに何かをやらせたいからこんなところに閉じ込めて、わざわざ飯まで出してくるんだ。だから真樹夫もちゃんと飯食っといたほうがいいぞ」

 そう言った俺の言葉に納得したのか真樹夫もトレイの上の食事を食べる。

 そして食べ終わった俺と真樹夫は、いろいろあって疲れてその場に寝ころび、眠ってしまった。

 そして眼を覚ます俺と真樹夫。

「なんか変な夢を見た……」

 その言葉に反応する俺。

「お前もか!?実は俺も変な夢を見たんだ。真樹夫はどんな夢を見たんだ?」

 そう真樹夫に話しかける俺。

「なんかよー、自分の身体が大きくなる夢だった……」

 そう言う真樹夫の言葉に更に驚く俺。

「!?俺もだ」

 偶然か?いや、こんな状況でこんな出来事……到底偶然とは思えない。

 だとすると、睡眠学習のようなものか?しかしいったい何のために?深まる謎に更に俺の頭は混乱する。

 頭を整理しようと考えをめぐらす俺、するとまた足音が聞こえてくる。

 足音からして恐らく昨日の女のだろう。

 そして足音は俺たちの部屋の前で止まり、のぞき窓が開く。

「おはよう、よく眠れたかしら?」

その言葉に返す真樹夫。

「こんな所でぐっすり眠れるやつがいればお目に掛かりたいもんだね」

 皮肉たっぷりに返事を返す真樹夫。

「元気そうでよかったわ、所であなた達ここから出たい?」

 真樹夫の皮肉をさらりと流し、女は突然そんな事を話しかけてきた。

 突然の事で、俺も真樹夫も言われたことの意味がわからずに少し考え込んでしまう。

 そして少ししてその意味がわかると真樹夫は女に向かって興奮気味に話しかける。

「当たり前だろう!とっととここから出しやがれ!」

 そう言う真樹夫を他所に、少し考えて俺は女に話しかけた。

「その話の見返りはなんだ?俺には到底ここからタダで出してもらえるなんて思えないんだが……」

 と俺は女に話しかける。

 その言葉を聞いた女は笑ったような眼をして俺に話しかける。

「察しが良いのね、頭の良い子は好きよ。ところであなた達、少し前に起きた原因不明の爆発の事は知ってる?」

 その事は知っていた。

 今から三か月前日本の西の海上で何かが爆発したという事件だ、その原因は未だに解明されておらず、ニュースやネット上でも未だに話題に上っている。

 原因の説には諸説ある、某国のミサイル実験だ。とかカルトな方向に行くとUFOが爆発しただとか……とにかく、その原因は未だにわかっていない。

「それが俺達といったい何の関係があるんだ?」

 そう俺が女に質問した、すると女は笑ったように答える。

「まあ、そう慌てないで、今その理由を話してあげるか」

 そう言った後更に女は話を続ける。

「実はあの爆発は地球外生命体と私達、対地球外生物対策三課との戦いの後の爆発なの」

 そう言われた俺と真樹夫は顔を見合わせた。

 そして思わず爆笑してしまう。

 そしてひとしきり笑った後、真樹夫が腹を抱えたまま女に対して話しかける。

「ハハハハ、な、なああんた、そのギャグは何処で覚えたんだ?」

 女は表情を崩さないまま答えた。

「そうね、いきなりこんな事言われても冗談にしか聞こえないわね。いいわ、証拠を見せてあげる」

 そう言うと女はどこかに電話を掛けた。

「私よ……ええ、そう……じゃ、お願いね」

 そう言って電話を切った後、何人かの人間が俺たちの扉の前に来て女の指示を仰いでいる様子だった。

 そして、その後すぐにあのびくともしなかった扉は重そうにその扉としての機能を果たし扉の外の世界を映しだした。

 扉の外には今話していただろう女が立っており、俺達二人を見下ろしていた。

「一緒に来て頂戴、あなた達に良い物を見せてあげるわ」

 そう言うと女はその場を去り、俺達は数人の男たちに付き添われ女の後を歩いて行った。

 少し歩くとエレベーターがあり、それに乗るとエレベーターは勝手に動き出した。

 エレベーターはどうやら下に降りて言っているようだ。

 そしてエレベーターに乗っている時に女は話しかけて来た。

「いい?これは世界でもごく一部の人間しか知らない事実、これを知ってしまうという事はどういう事か解るわね?」

 そう言われた俺達は今の俺たちの状況を飲み込んだ。

 そして俺達はその後飛とんでもない物を見てしまう。

 そこにあったのは研究施設のようなもので、大きな水槽のようなものの中には君の悪い生き物の標本が何体も飾られていた。

 中には生きて動いているものもおり、それに白衣を着た研究者が何か薬品のようなものを注入したり、刃物で切り刻んだりしていた。

 それはまるで悪い夢でも見ているようだった。

「こ、これはいったいなんなんだ?こいつらはいったい?」

 真樹夫はそれを見て、とても現実に起こっている事とは、到底思えないというように呆然としていた。

「どう?私の言ったことが信じれたかしら?」

 そう言って俺達を振り返る。

俺達二人はその目の当たりにしている現実をまだ理解できずにいた。

「こいつらはいったいなんなんだ?本当に地球外生命体なのか?」

 俺は思わず口に出してしまった。

「そうよ、こいつらはてんびん座β星から地球を侵攻に来た地球外生命体。私達はこいつらの事を『ヴァーゲ』と呼んでいるわ」

 憎しみを込めて女はそう言った。

そしてしばらくその研究施設を見せられ、俺達は女の執務室に案内された。

そこにはパソコンと書類の山がある机があり、その後ろの棚には、賞状や重そうなトロフィーと共に、目の前にいる女が誰かと幸せそうに映っている写真が一つ飾られていた。

俺達を自分の執務室に招き入れると女は、警備の者に外で待機するように命じ、自分の椅子に腰かけた。

「駄目ね、この手の書類はいくら処理してもすぐに溜まっていってしまうから」

 そう言って女は机の書類に手を掛けた。

「な、なあ。あんた何者なんだ?」

 そう真樹夫は女に声を掛ける。

「あら?自己紹介がまだだったかしら?そうね、じゃあ改めて自己紹介させてもらおうかしら。自衛隊統幕本部付対地球外生命体対策部隊司令、間宮桐子一佐よ」

 その長ったらしい名前を間宮と名乗る女は答えた。

「もう今までの事を見てわかると思うけど、あなた達はもう後戻りができない所まで来ているは」

 それは俺も真樹夫も薄々感じていた。

「それで……俺達は何をすればいいんだ」

 俺は間宮にそう問いかけた。

「簡単な事よ、私達と一緒に地球外生命体と戦ってほしいだけ」

 その言葉を聞いて、真樹夫は意味が解らないといった感じで間宮に話しかける。

「なんで俺達なんだ?他にもっといっぱい戦いに向いている奴なんかいるだろ?」

 確かにそうだ、俺は真樹夫のいう事に同意した。

「これはね……賭けだったの……その適性を知る、為に色々な人達を試したわ。でもJISマークの謎に気付いたのはあなた達だけだった」

 間宮は申し訳なさそうに話す。

「そもそもJISマークの謎っていったいなんなんだ?あれにそんな重大な秘密があるなんて到底俺には思えない」

 俺はそう間宮に言った。

「そうね、あなた達以外の人には何の意味もないただのマークにしか見えなかったでしょうね……まあいいわ、それはまた話してあげる。今はこれからの事を話しましょう」

 そう言って間宮はいったん言葉を切り、そしてまた話し出した。

「今、地球は『ヴァーゲ』の侵略の危機に曝されているのはもうわかってくれたと思う、そこであなた達にはこれに乗って戦ってほしいの。前にもパイロットはいたんだけど先の海上の戦いでこれと一緒に戦死してしまったから……」

 間宮は悲しそうな思い出でも語るように力なく話した。

 そして間宮は一枚の写真を俺達に見せようとしたその時だった。

 まるで地震が起こったかのように部屋全体が揺れた、そしてそれと共に非常警報が鳴り響く。

『非常事態発生、非常事態発生、各戦闘員は第一種戦闘配置に付け、繰り返す……』

 急に慌しくなる基地内、そして気が付くと間宮の姿が見えない、間宮は落ちてきたトロフィーで頭を打ち血を流して倒れていた。

 俺と真樹夫は駆け寄り間宮を助け起こす。

「おい、大丈夫か?しっかりしろ!」

「だ、大丈夫よ……『ヴァーゲ』の攻撃が始まったみたいね……お願いこれに乗って私の、いえ、前のパイロットだった私の婚約者の……」

 そこで間宮の意識は途切れたようだ。

「おい、大丈夫か?おい!」

 焦る真樹夫に俺は声を掛ける。

「大丈夫だ、息はしている、気を失っているだけだ」

「そ、そうか。ならいいんだが……でもどうする?」

 そう言って俺に答えを要求する真樹夫。

「どうするって言っても……やるしかないんじゃないか?たぶん俺達しかいないんだろ?その『ヴァーゲ』とかいうのと戦えるのは」

 そう俺は真樹夫に話す。

「でもどうやってこんなもの乗りこなすんだ?何の訓練も受けてないぞ?」

 確かにそうだった、しかし俺にはもうなんとなくわかっていた。

「おそらく大丈夫だろう」

「なんでそんなに自信があるんだお前?」

 そう言う真樹夫に俺は説明した。

「俺もお前も今日変な夢を見ただろ?おそらくあれが睡眠学習みたいになっているんだと思う。だからもう操縦の仕方は俺達の体が解っているはずだ」

 そう言うと真樹夫も納得したのか俺に話しかける。

「そうとなれば早くその『ヴァーゲ』とかいうやつを倒しに行こうぜ!」

「ああそうだな、行くか!」

 そして俺と真樹夫は『ヴァーゲ』との戦いを始める事になった。

 そう俺達の愛機『コー・エンダーZ』と共に……