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テイスティング・note

「夢の中で」 

  光の溢れるテラス。真冬だというのにこの場所はまるで春のように温かい。蜂蜜のようなぬるま湯に浸っているかのような感覚に陥る。

  まるで長い夢でも見ているかのような、そんな心地の良い感覚がこのテラスには溢れている。

  木製の椅子に腰かけ、光あふれるテラスで本を読む。それが私の至福の一時……遠くで妻が私を呼んでいるようだ。私は本をテーブルに置き、妻の方を振返る。そこには長年連れ添った妻の顔。

  彼女は私に何か語りかけているようだが……

  妻が何を言っているのかなぜか聞こえない。私は何度か妻に声をかけようとするが、どうしても声を出すことが出来ない。

  その時私は気が付いた。ああ、そうか……これは夢なんだな。そう思うと、この居心地の良さも納得がいく。

  私はそう思うとテーブルに置いた本をまた手に取る。先ほど閉じたページをめくり、その続きに書かれた文字をまた眼で追う。

  どこからともなくコーヒーの香りが漂う。恐らく妻が私の為にコーヒーを淹れてくれているのだろう。先ほど私に声をかけてきたのもおそらくその為だろう。

  私はコーヒーをほんの少し心待ちにし、本のページをめくる。

  やがて妻は私のいるテラスにコーヒーを運んでくる。妻は運んできたコーヒーをコトリとテーブルに置くと、私に少し微笑みかけまた部屋の中に戻っていく。

  私は妻の運んできた今入れたばかりのコーヒーを少し口に含む。 それは私好みのコーヒー。砂糖をたっぷり入れ、ミルクを少し。何から何まで私の理想とする場所だ。

  できる事ならこの夢が覚めなければいいのに。私はそんな事を思いながらそっと本を閉じ、そのコーヒーをまた一口、口に運ぶ。その甘い。まるでべっこう飴のような甘さをじっくりと堪能し、その甘さの余韻に浸る……

  真夜中に一人眼を覚ます。

  さっきまで見ていた物は夢だとは解っている。しかし、私は涙を流さずにはいられない。そう、私の愛した妻は今はもう私の傍にはいない……

  あの幸せだった時間は夢の中の出来事でしかない。辛く悲しい夢は、儚くも消えた。しかし、夢の中で飲んだ甘いコーヒーの余韻だけは私の舌に記憶として残っている。それが夢ではなく事実として起こっていた事のように…… 

 

  テイスティングnote

 マルスウイスキーAMBER

 ブレンデットウイスキー 

 香り   まろやか

 味わい  微かにコーヒーフィニッシュはハチミツのような甘さ。べっこう飴。時間 を置いて飲むとかなり甘い。若干のシェリー香。  余韻は長い。

 色   濃い琥珀色