羽のような記憶

心の痛みや苦しみに対して、あの頃はフタをしたり見ないように、
そんなものなかったかのように振る舞い続けていたのか
そりゃあ、病みもするし生きづらかっただろうね、と納得する
月日が経ち過ぎて、もう何も覚えていなかった記憶が、風でバラバラになった本の1ページのようにひらひらと
そこには苦しさばかり書き殴られていて、相手も周りも自分さえも映っていないようで

誰のことも見えずに、ただただ苦しかった
何の言葉も響かずに、ただただ痛かった
痛みや苦しみを誤魔化すために、さらに痛めて苦しんでいった
それでも自分の心は愛に溢れているんだと信じていた
馬鹿みたいに見栄と見栄えを気にして取り繕っていた
キラキラしたお飾りに恋焦がれていた

文字に言葉にして吐き紡ぐだけで癒やされるのなら、こんなにラクで独りよがりな方法もない

強い人のそばに居れば、自分も強くなれて
自信も自己愛の強さも、伝染してくれるとばかりに思い
なにもしなくても救われるものだと、信じていた
信じていたのに、苦しみはあって
やっぱり目を背けることしかやらなかった
自分か他人を責めて解決した気になって
それでも痛みはずっと残っていた

ああそうか、独りよがりだわ
意思疎通をはかる前に、自分がいい子を演じてたんだな
大丈夫、信じてる、愛してる、大事にする
なんで同じ言葉なのにこんなにも価値が違ったんだろう
なぜ薄っぺらい価値しか与えることができなかったのか
独りよがりにすぎなかったから
ママゴトの中で狂ったように踊るだけの
何でも許せば、黙れば、目を瞑れば、我慢し続けていたら
ちょっと悪さしたって許してもらえて
幸せな結末を迎えるものだと思ってた

本当の意味で人を愛するということは
今でも答えに自信はもっていないけれど
少なくとも、あの頃はできていなかったね、と認めざるを得ない
愛してないなら、愛される訳もなく
今なら苦しみの痕跡さえも、愛して許せるよ
自分を愛するということは、今でも不得手だけれども
それでもあの頃よりは、マシだね
ここまで生きて来れて、よかったよ
こうやってあの頃の自分を救うことができるから

綺麗な羽と声
いくつもの心を魅了させ
気高く誰の所有物にもならない
自由な鳥
曲がらない信念
その足に鎖をつけることができたとして
それは本当に幸せな結末だっただろうか
幸せだったなら、今も傍でさえずりが聞こえただろう
鎖なんか似合わないよ
その羽に窒息するほど埋もれ
その声で耳も頭も塞がっていき
陶酔し尽くしても、証はない
目に見えるものに縛られれば、捕まえることはできないし
目を瞑れば、当然何も見えなくて
目に見えないものをただ信じるしかない
あの声を信じ切るしかない
鳥は不安にならないのかと過るけれど
不安ならば空は飛べない
もしさえずりあうことができたなら
同じ声を持っていたなら
同じように空を飛べたら
同じ鳥だったなら
もっと違う世界だったのかもしれない
風をきり舞う、水の中に沈む
相反する世界が交じり合うことなんてないけど

伝えたとて、否定されるとか
決めつけられるとか
間違って理解されるとか
そういうのが嫌なら尚更、言葉は交わさなきゃ
言葉を変えてたくさん話してさ
それ以上にたくさん聞いてさ
そうやって共に生きていきたいからさ
風の音が強くて届かないくらいなら
水の中に沈んで、見上げずに生きていよう
時折眺めては、微笑んで
幸せを願えるように、もっともっと
成長していく、昇っていく
そこに雑念なんか入らせない
ただただ、純粋に

深呼吸する
まだ心は痛い
けれども苦しさはマシになってる
また辛いなら書き殴ればいいや
未来の私が分析してくれるだろう
今は痛みがなくなるのを、待つだけ

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