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小説の書き出しのようなもの

彼女の視線の先には、いつも若林さんがいた。

彼女が若林さんを好きになるのは分からなくもない。
若林さんは頼りになる。おれも何回助けられたか分からない。
その時その時で一番最短で問題が解決するように(しかもこちらが不利にならないように)、知恵を授けてくれる。
もしくは、自ら動いてくれる。
背が高いわけでもないし、顔がカッコいいわけでもないけど、いざというときに前に出てくれる若林さんは女性が多い事務方の中では抜群の人気だった。
彼女が若林さんに積極的にいかなかったのは、若林さんを気に入っている古株に配慮してか、単純に若林さんに付き合っている彼女がいたからか……。
どちらにしても彼女が若林さんを好きだというのは、多分おれしか知らないと思う。
彼女がバレバレなのではなく、おれにしか分からないだけ。
彼女の視線を追っていったら、いつでも若林さんの背中があった。

ただ、それだけ。

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