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涙腺 7 『ビデオレターの功罪 完結』

披露宴会場
新郎新婦はお色直をしている間 式場内は歓談の時を迎えていた。

式場内は増井家から招待されていた多くの参加者で埋め尽くされていた 増井タケオが生前勤めていた会社(みゆきの勤め先でもある)の役員や同僚 沢山の親族 多くの友人たち。それに比べて 桑原家から親族はだれ1人招待されていなかった。原因は借金問題なのだろう。マコトは桑原家の親族席に案内されていた。

みゆきの叔父(増井コウゾウ)が各テーブルへ挨拶回りをしていた。コウゾウも兄タケオと同様に成功者独特のオーラが滲み出ていた。アキラ達親族のテーブルにやってきて「本来なら兄貴が伺う予定だったのですが... 桑原さん お近づきの印に」と前置きを入れて 親父さんに白ワインを注ごうとしていた。
親父さんは利き腕から一番近いグラスを徐にとってお酌をされる用意をした。「桑原さん それは赤ワイングラスですよ。白ワイングラスはそちらです」とコウゾウは笑いながら言った。 コウゾウとしては何気ない会話だったのだろうが マコトが受けた印象は「嫌味な奴だな。祝いの席なのだから どのグラスでも良いだろう」だった。桑原の親父さんは「いつも安い焼酎しか飲まんもんで ワインなんて学生の時 以来ですわ」と豪快に笑ってみせた。

コウゾウは桑原家のテーブルで桑原家の系統でない顔立ちのマコトを見つけて 「こちらの男性もご親族の方ですか?」と尋ねた。マコトはひとこと言わないと気が済まないくらい苛立っていた。「マコトくんはアキラの小学校からの親友です。一緒に少年野球もやった中で いまでもスポーツマンなんですよ」と桑原のお袋さんがコウゾウに説明した。『スポーツマン』と聞いて マコトは我に帰り 桑原夫婦に教えられた事を思い出した。スポーツマンは如何なる状況でも 先ずは 他人を尊重する事から始めないといけない。「俺 何やろうとしてたんだ?桑原家にとっておめでたい席なのに」とマコトは自分に絶望した。

Bar 雲隠れ
オキノマコトはキタコウイチとカウンター席でバーボンロックを飲んでいた。

増井さん 式に列席できないってわかった時は無念だったろうな。その悔しさを胸に秘めて 涙ひとつ流さず 愛情溢れるビデオレターを作成したんだぜ。桑原の親父さん達も自分達が主役になろうなんてこれっぽっちも思ってなかっただろうし... 俺だって 純粋にアキラを祝福したかっただけなのに... 」とマコトはそう言って話を詰まらせた。それ以降 マコトとコウイチは無言でただただバーボンを飲み続けていた。

桑原家と増井家 各々のドラマが絡み合い たまたま生まれてしまったビデオレターの功罪

ビデオレターに対して 本来は『胸に響いた』以外の言葉はないはずなのに..

完結

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