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涙腺 13 『介護疲れ 殺人 ときどき 霊媒師 完結編』

昭雄の記憶は1980年 大向昭雄の生まれ育った家に戻っていた。

当時 5歳だった大向昭雄 母親(大向典子)の不注意で湯沸かし器と浴槽の溝に転落した。典子はすぐさま助け出そうと身を挺して 昭雄を抱きかかえあげた。しかし 昭雄は左腕に火傷を負ってしまった。典子もまた右腕から右肩にかけて大きな火傷を負った。

典子も昭雄も火傷の痕がのこってしまった。身内から母親としての責任感のなさを指摘された。典子は 泣きじゃくる昭雄の顔が脳裏から離れずに苦しんでいた。そんなある日 昭雄は典子の右腕の火傷痕と自分の左腕の火傷痕をくっつけて 「ふたりでマックスゼロに変身だぁ」と叫んだ。当時流行っていた変身ヒーロー マックスゼロ(架空のヒーロー番組)の事である。ふたりの少年がお互いの腕をからませて変身するのだ。それになぞらえて 「僕とお母さんの火傷痕をくっつけるとスペードのエースみたいな模様になるね。僕たちふたりは強いヒーローに変身できるよ」と言った。母親としての自信を失いかけていた典子にとって この一言は救いになった。「あーちゃん ありがとうね。私は強いお母さんヒーローになるね。どんな恐い敵が来ても あーちゃんを守ってあげるからね」と典子は言った。「僕だって大きくなったらスーパーヒーローになって お母さんに楽させてあげるよ」と誇らしげに昭雄は言った。

大向昭雄の意識が現代に戻った。

楽な生活を送らさせてあげる... その約束は果たせなかった。

お母さんはずーと働いて なにひとつ贅沢を味わう事なく 足腰が弱くなるにつれて 入退院を繰り返していった。次第に『お母さん』としての記憶も薄れていった。

俺 ずーとお母さんに愛されていたんだ。そして 俺もずーとお母さんの事 大好きだったんだ。

親孝行したかったな」と呟いた時

バカを言うんじゃない。子供が親に返す必要はない。元気よく成長してれれば それで十分親孝行だ。もしなにか返したいなら それはお前の子供にしてやれ。それが親に対しての恩返しだ」と言われた事を思い出した。

昭雄は いま 改めて 人生の再スタートを切り始めた。


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