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ぜんぶ、堀内誠一

 荒川区立“ゆいの森あらかわ”という図書館で開かれている、堀内誠一さんの絵本の原画展を見に出かけてみた。

 子供たちが小さなころ一緒に楽しんだ『ぐるんぱのようちえん』や『たろうのおでかけ』などは知っていたが、展示されている原画の中には、これまで知らなかった絵本も多く、こんなにもたくさんの作品があったのか、そして絵本ごとに異なる、多彩な堀内さんの描き方に、いまさらながらあらためて驚いたのだった。

 子供のころの印象が強かったのか、動物園職員となった僕の娘は、勤め先のズーラシアという動物園の企画として、『ぐるんぱ』の絵本の象の滑り台などを、イヴェントのために実際に作ったりもした。

 そんな縁もあり、この展覧会には親、子、孫の三世代で出かけることになったのだ。

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 POPEYE そしてBRUTUSなど、様々な雑誌作りを堀内さんと一緒にするという幸運に恵まれた僕には、堀内さんという人間とその物事の組み立て方を観察し、創造の楽しみを知る大きな手掛かりとなったのだった。

 僕が堀内さんを訪ねたのはアンアンの創刊の頃だった。ちょうど京都特集を考えているという話になり、松山君は京都から来たばかりで、京都の現在に通じているだろうから一緒に行こうよ、と思いがけず誘っていただけた。

 ソルボンヌ大学の学生のベロちゃんというパリジェンヌが来日していて、彼女をモデルとして京都のいろいろな場所でファッション撮影をしようということだった。

 そこで僕は当時よく通っていた高瀬川畔の『開化』という、レトロな雰囲気の喫茶店や、『清滝民芸館』という、古民家を用いた生活博物館、そして京都の若者がデートスポットとして和む、鴨川の河原などに案内したのだった。

 堀内さんを通じて渋沢瀧彦さんなど、気になっていた人物にも会うことができ、また仕事をきりあげたあとの、新宿や六本木での飲み屋めぐりにも誘っていただけた。

 雑誌の新しい企画なども編集部ではなく、そうした酒の席での話が盛り上がり、やがて立体的になっていくのが面白かった。

 BURUTUSの『親父たちの時代』という特集も、みんなで酒を飲みながら始まった企画だったと思う。

 ちょうど西麻布の路上に捨てられていた古いアルバムを見つけ保管していたのを思い出し、その中の一枚の写真を表紙に用いたら、そのアルバムの人物の末裔の方から連絡があり、九州におられる末裔の方の手元に、無事そのアルバムが返ることができたのだった。

 アルバムの中の中心の人物は、戦前ドイツなどで軍事研究に出かけたことがある、優秀な軍人だったようだった。


 堀内さんと出かけた旅でも、最も印象的だったのはやはり、BURUTUSの地中海特集であった。カマルグ地方のサントマリー・デラメールの、黒いマリア像の祭礼の日に合わせてスケジュールを組んだその旅では、黒いマリアを信仰するジプシーが、ヨーロッパ中から集まってくる祭りでもあり、堀内さんも一度ゆっくり体験したいと考えておられたのだろうと思う。

 僕もその土地が、子供時代に学校の映画鑑賞で見た『白い馬、シュバル・ブラン』の舞台であったことを知って、感慨にふけってものだった。

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 堀内さんは1970年代の半ばには、家族とともにパリを生活と創作の拠点にされるようになった。多くの絵本はそんなパリ時代の作品のようだ。

 ゆいの森図書館のえほん館は、素晴らしく充実した空間なのだった。自分の家の近くに、こんな図書館があったら素敵だなと思わせてくれたのだ。堀内さんの原画展は1月24日までとのこと、時間が許せるなら、この素晴らしい展覧会に、ぜひ足を延ばしていただきたい。

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