川崎ロック 最後の日

 2月28日、高円寺の書店で、矢沢ようこさん、黒井ひとみさん、たなかときみさんのトークショーがあった。広島第一劇場の閉館を扱ったたなかさんの書籍「ストリップをよろしく」の出版記念イベントであったため、トークもそのことに触れる内容が多かった。
 私が過去訪れた劇場のうちすでに10を越える劇場が閉館してしまったが、一度だけ最終日の公演に立ち会ったことがある。
 その特別な1日を書き残していた。

本文に入る前に

2002年秋、「川崎ロック」の年内閉館が公表される。
 (理由は建物の賃貸契約に由来するとのこと)
11月までは通常興行が行われていたが、
12月は 閉館スペシャル月間として特別興行を開催。
 (ほとんどがトリ級の踊り子さんで占められた豪華香盤)
12頭  1.冴島みどり  2.瀬能 優  3.小林 愛美  4.吉野サリー  5.新山 愛里  6.鈴木麻奈美
12中  1.沙羅  2.浅井 理恵  3.雅 麗華  4.橘 未稀  5.新庄 愛  6.矢沢ようこ
12結(~30) 1.彩 緑  2.浜野 蘭  3.川上 ミク  4.TAKAKO  5.新庄 愛  6.金沢 文子 

12月31日 1日限りの「川崎ロックファイナル閉館スペシャル」
   4部構成、総勢20名の踊り子が1ステージづつ出演した。

川崎ロック 最後の日

           2002年12月31日 神奈川県川崎市南町

●午前4時頃

 「30日営業終了直後(午前2時近く)からかなりの人数が並んでいる」との情報もあったが、行ってみるとそれらしい人影はなし。ただし、テケツから点々と並ぶ位置取りの新聞紙から判断するに10人前後がすでに場所取りをしている様子。自分の場所を確保しているとロビーから話し声が聞こえてきた。

 覗いてみるとテーブル・ソファーが片付けられ、踊り子さんの衣装ケース・段ボールと思われるものが山積み。そう言えば外の駐車スペースにもいくつか積んであった。話声は照明のマサさんと紫城なつきさん。「あら、セイラーさん、どうしたのこんなに早くから?」 「今日は『たまご』をやるんだけど、肝心な『たまご』は浜劇にあって、しかもちょっと壊れてるからハンズに行って修理道具買って・・・」

 いろいろな出し物があるのに、川崎に相応しい出し物ということで、たった1日のためにわざわざ大物を修理してまで持って来る。やっぱりなつきさんも川崎ロックにはかなりの思いがあるのだろう。

 奥から社長が現れ、「9時に整理券を配りますのでそれまでに来て下さい。ボクもちょっと寝に帰ります」とのこと。たまたま居合わせたお客さん(高松から夜行でやって来た)と近くのファミレスで朝飯とストリップ談義で時間潰し。ストリップ歴17年、鈴木麻奈美さんのファンで、31日は川崎、1日は浜劇へ行って同じ東洋の夕樹舞子さんの応援とか。関西方面からも何人かやってくるらしい。

 

●8時30分頃

 劇場へ戻ってみると70人ほどの行列が出来ていた。永坂悠ちゃんが来た。「浜野蘭ちゃんとのチームが完成してなくてこれから練習なんです・・・」すこし遅れて相方も到着。

 続々と客は押しかけ、9時に整理券を配りはじめた時には100人を越えていた。「10時30分に開場しますのでそれまでに戻って来て下さい。」 早くから来たかいがあって私の整理券は11番、ねらった椅子に座れそうだ。

 

●10時30分

 再び劇場へ戻ると、前の道路には150人ほどの男がたむろしていて歩行者天国状態。予定の時刻は過ぎたが「まだリハーサルが続いているのでもうしばらくお待ち下さい。」 その間にも客は増え続け、11時過ぎに私が入場した時点で整理番号は200を越えていた。

 客席はやはり盆まわりから埋まっていく。私の川崎ロックで一番のお気に入りの場所は投光室下のベンチ中央。しかしこの人数ではベンチ前の通路にも2重3重に立ち見が重なり、まともには見えなくなるだろう。次善策として真正面かぶりつき席うしろの長い足の丸椅子に決めた。足元に荷物を置き、座面にクッションを縛り付ける。暗幕の後ろではお二人がまだ練習中。

 お客さんの入って来る様子をながめながら椅子席を数えてみると座れるのはせいぜい80人くらい。整理番号の若い客は気合いの入った確信犯ばかりだから途中退場はかなり少数だろう。ということは、最初に座れなかったお客さんは一日中立ち見になるのだろう。

 暗幕の下から蘭ちゃんが顔を出した。「うわー、すっごい!」の声にあらためて場内を見回してみると、人・人・人・人の山! 両サイドの壁際には2重の立ち見、本舞台前のスペースにも客がしゃがみ込んでいる。投光室下のちょっと段になったスペースは2重の立ち見で、ベンチは座るどころか上に立ちあがって立ち見、その前の通路は3重・4重の立ち見。移動はおろか手拍子さえままならぬ状態。従業員さんが再三「奥へ詰めて下さい」と促すものの、もう1歩たりとも動けない。「動けねぇよ!もう入れんなよ!」そんな声も飛ぶが、ごく一部。入り口に掲示されている定員は140人ほどだが、250?、300? 350?どのくらい詰め込んだのだろう?

 

 たった1日だけの公演だが、演じる側にも見る側にもそれぞれの思いがあるに違いない。 川崎のステージが一番好きと言う姫。 ここでデビューし、周年も誕生日も毎年ここで迎えた姫。 まるで自分が引退するように感じている姫。 今年デビューした某嬢が言っていた。「最後の川崎に呼ばれたことはとても名誉で、うれしく、楽しみなのですが、こんな凄いお姐さんたちと一緒のステージに立つと思うと、今から緊張してしまうし、プレッシャーもあります。」それぞれの思いを胸に最後の川崎のステージに臨む。

 すし詰めの場内で静かな熱気を孕みながら開演を待つ客。最後まで見とどけようと意気込む常連。ストリップの歴史に一時代を築いた川崎ロックの閉館という瞬間に立ち会いたいという人もいる。閉館だからということではなく豪華な香盤を楽しみに来た人もいるだろう。いつものように贔屓の踊り子さんの晴れ舞台だけを見に来た客もいるだろう。しかし、それらは次第に一つの方向に集約されていく。

『お祭り』。

みんな最後のお祭りに参加したいのだ。これから何時間かかるかわからないが、1日限りの、後にも先にも2度とない特別なお祭りが始まろうとしている。

 

 12時30分、北川さゆり(たまよ)嬢のオープニングMCでついに川崎ロック最後の日の幕が開いた。

『川崎ロック閉館スペシャル』

 一言で言えば、初日の緊張感と楽日の興奮が入り交じった雰囲気だろうか、300人を越える人々が一つになり、熱く過ごした1日だった。

<1回目>

1.浜野蘭&永坂悠

 蘭ちゃんも悠ちゃんも今年デビューした新人で、川崎の舞台と客が育てた逸材。人気・実力ともに急上昇中。急造チームにしてはかなり統制が取れたパフォーマンス。1曲目はペアでダンス、2曲目は蘭ちゃんの、3曲目は悠ちゃんのソロダンス。衣装は同デザインの色違いだ。そのまま悠ちゃんがベッド入りすると、追いかけるように蘭ちゃんも盆にあがってペアのベッドショー。個性の違いがお互いをカバーしあい、相乗効果もあってとても素晴らしいチームショーだった。

2.   川上 ミク

 しばらく休養していたが、今年川崎で復帰した。前日までと同じ最新の出し物だったが、オープンショーで見せた涙にこちらも涙管が緩んだ。まだ二人目なのに。

3.   冴嶋みどり

 こちらも今年デビュー。オレンジ色のドレスで踊る最近の出し物。「泣き虫みどりちゃん」らしいのだが、この日はずっと笑顔。

 

 回ごとのフィナーレはなかったが、ここでいったん休憩。時計を見ると3組なのにもう15時30分!

蘭&悠のポラだけで2時間はかかっていた。普段なら「ポラをお撮りになる方はステージ両脇に並んでください」なのだが、客は1歩たりとも動ける状態ではなく踊り子さんが回った。それでも近づけない壁際の客の為に最前列の客が代理撮影。お金が手渡しで送られてきて、「MとL」とか「上半身!」など注文の声が飛ぶ。何十枚もそうやって売れたのに、トラブルは一度も聞かなかった。

 

<2回目>

1.   江崎かおり

2. 鈴木 なな

 二人とも最近の出し物。もうすっかり慣れているはずなのにかなり緊張していた。「お客さんの雰囲気に飲まれてしまった」と後日談。

 かおりんもななちゃんも今年川崎からデビューした。例年にない新人ラッシュだったのに結末が閉館とは! ざっと調べてみると01年12月のカナブン以来、川崎・浜劇からデビューした新人は30人を越え、20人近くが今も他の劇場の予定に名を連ねている。デビュー前にはかなりダンスの練習をさせられるらしい。本人の素質もあるが、いずれの新人も、最低でも「そこそこ見れる」レベルの初舞台だった。川崎ロックのプライドか。

3.泉 星香

 お久しぶりながらステージのカンは忘れていないようだ。新宿NAのチラシには載っていたピンクの天使の衣装で♪One More Time を躍る。過激なポラが話題になってしまうのだが、ダンスはかなり上手い。ほとんど浜劇・川崎にしか出ない「川崎ロック」所属。このまま踊り子を続けてくれるのだろうか?

4.新庄愛&TAKAKO

 香盤が発表されたときから話題になっていたユニット。選曲だけであとはなんの打ち合わせもなかったらしい。『アドリバーズ』、ネーミングさえアドリブだ。しかし、ホントにアドリブ?と思うくらい良く出来た内容。ピエロに扮した愛ちゃん、セクシーなワンピースのTAKAKOさん。ドラマ性を感じさせるイントロで始まり、物語が進んでいく。さすがロックを代表する実力者同士のペア。ソロで、ペアで、息付く間も与えず魅了してくれた。川崎ロックは客の質も高かった。見るときは真剣に、遊ぶときは楽しく。いい踊り子といい客が創り出す場内の雰囲気もとても良く、それも好きな理由だった。

 

 このあたりから、客席側でも積極的に楽しもうという空気が表れ、応援にも次第に熱を帯びてきた。

 

5.鈴木麻奈美

 タンバリンを持っていつもと変らぬ元気なダンス。疲れていてもケガをしていても手を抜かない人だ。一見のファンにもやさしい。東洋所属なのだが今ではすっかりロックの顔。5年前のこの日、12月31日がデビューした当日。ポラタイムの5周年記念オリジナルTシャツの販売には妹のともちゃんも出演。その後、外ではカナブンも販売のお手伝い。

 

 ここでまた休憩が入るが、簡単に席を離れられる状況ではない。出るのは大変、入るのはもっと大変。

 

<3回目>

1.葉山 小姫

 デビュー、周年、誕生日、節目節目は川崎で迎えていた。来年の周年、誕生日イベントはどこでやるのだろう? そういうことをきちんとイベント化したのも川崎ロックが早かった。客寄せ的な営業目的もあっただろうが、主役の姫はうれしそうだったし、涙ぐんでいた人もいた。ファンとしてもお祝いの一言を掛けるいい機会になったし、ファンでなくてもほのぼのとした気分になった。

2.河合 美奈

 出し物は孫悟空のショートカットヴァージョン。ダンスの動き、ベッドの表現が素晴らしい。ポラタイムでの年越しを密かに狙っていたようで、投光室の「終わりましょうか」の声にちょっとがっかりの様子。

3.たまよ

 エンターテイナーたまよの魅力を100%発揮した『さすが!』の出し物。歌あり、踊りあり、芝居っ気たっぷりに、惹きつけ、突き放し、コミカルに、シリアスに… たまよさんのパフォーマンスは文章では伝えにくいが、とにかく見れば楽しい、面白い。実は川崎を裏から支えた一人で、たまよさんの教えを受けた踊り子さんは多い。

4.紫城なつき

 「RAMDA」(通称「たまご」)と言われる大掛かりな出し物。たまよさんの出し物とは正反対、見る者の想像力を掻き立てる。それだけに照明演出は重要で、色一つの変化で違った解釈も出来てしまう。だから照明効果の高い川崎でまたこれが見られるのは大変うれしい。

5.金沢 文子

ポラの途中で新年を迎える。直前に全員にクラッカーが配られ、楽屋の踊り子さんも登場してカウントダウン。得がたい経験。たまよさん仕切りの挨拶&ご祝儀集めが終わってポラを再開すると、カナブンがそれまでポラ着としていたTシャツを待っていたように脱ぐ。その背中にはマジックで「 A HAPPY NEW YEAR 2003 」と大書き。麻奈美ちゃん直筆とか。体をはった仕掛けに一同大喜び。

 

 ポラの合間に、手の甲にはんこを押してもらって夜食を買いに外出。劇場前の道路にはファン達のグループの輪がいくつも出来ていて、ロビーと化している。その光景はさながら昼休みのキャンパスのようだ。中には紙コップ片手に踊り子さんを囲んだグループも。

 

<4回目>

1.上原 舞

 初めて見た時はコギャルメイクで「なんだかなあ」の印象だったが、メキメキと実力をつけ1年で一端の踊り子に成長。新作のダンスをノリノリで披露していた。

2.彩 緑

 ピンクドレスの「チキ」。昨日までの10日間、連日0時を越えたようだが笑顔でがんばった。そして数時間後には飛行機に乗り、博多の15日間が待っている。数日前、舞台の袖から愛ちゃんのダンスを真剣に見つめていたのが印象的だった。お姐さん方を見習って大きく成長して欲しい。

3.ヨーコ

 楽屋の踊り子さんも出て来て見物の花電車。「ロックに出演できるとは思ってもみなかった。おまけに最終のステージにまで出させてもらってホントに嬉しい。」ヨーコさん自身も客席も異常にテンションが高い。大技、荒技の一つ一つに大喝采。そして火を吹くパフォーマンスに会場中が「ファイアー!」の絶叫。

 

 近所からの苦情でパトカーが来たようで、ここからはタンバリン自粛となった。しかしそんなことで静かになる空気ではない。異常なテンションを保ったまま、ラストスリーへなだれ込む。

 

4.小野今日子

 真っ赤な下着姿が印象的なセクシーな出し物。1ヵ月前の楽日とは違って終始楽しそうな表情だ。11月の川崎最後の楽日には泣き出してしまったり、閉館スペシャルには率先して仙台から駆けつけたり、見かけによらず熱い人だ。

5.TAKAKO

 「ステッキマジック」。華麗なダンス、巧妙なステッキさばきにやんやの喝采。300人が一体化しているのを実感する。祭の熱狂は最高潮に達しようとしている。

6. 夕樹舞子

 時刻は4時に近い。が、誰も帰らない。誰も動かない。何度か見ている出し物なのだがあらためて凝視する。舞子ちゃんの姿だけでなく、ステージの隅から隅まで、上から下まで、花道、盆、ライトの1灯1灯まで、すべてを目に納める。「このステージが最後」「このダンスで最後」「このベッドで最後」「この曲で最後」「このポーズで最後・・・」

 長いポラも最後。その後のオープンショーが川崎ロックの最後のショーになる。熱狂と興奮に包まれ、幕が閉じた。

 

<アンコール> 新庄 愛

 閉まってしまった幕が再び開く。 静まらぬ会場をさらに盛り上げて、なかばお約束のアンコール。

 ちょっと懐かしいMAXの♪RIDE ON TIME~ミーシャの♪星降る丘の出し物。ステージでは愛ちゃんが踊っているのだが、私の目には他の踊り子さんたちが映っていた。今日ここに来れなかった踊り子さん、すでに引退してしまった踊り子さん。空間を越え、時間を越え、系列を越えて、この11年間にこのステージで様々なパフォーマンスを見せてくれ、色々な感情を呼び起こし、そして楽しい時間をくれたたくさんの踊り子さんの姿が次々に見えていた。

 オープンショーになるとアンコールが繰り返された。「終わりたくない。」このオープンショーが終わってしまうと川崎のすべてが終わってしまうのだ。楽屋から他の踊り子さんたちも出てきて、最後の3日間限定のフィナーレチームダンスが繰り返される。紙テープが飛び交い、クラッカーも鳴らされる。祭の興奮は最高潮、まさに<グランドフィナーレ>だ。

 

 最後の挨拶は愛ちゃんが仕切った。左右に葉山小姫、金沢文子、夕樹舞子、彩緑、ファイア・ヨーコが正座で居並ぶ。場内にひしめき合い、興奮覚めやらぬ300人の観衆に向かって開口一番、「宗教団体の集まりですか?」「昼に始まって16時間、ずっといる人?」の問いかけに、客席・立ち見のほとんど全員が手を上げる。「馬鹿だねー、みんな。1番の人ってまだいる?」かぶりつきから恐る恐る手が上がると「1番馬鹿!」と突っ込む。

 

 「川崎ロックはこれで閉館になりますが、私達踊り子はまだまだ頑張りつづけます。これからも応援してください。」と挨拶が始まった。他の踊り子さんからも一言づつ、声が震えていた人もいた。照明のマサさんも一言。社長からは「1日でも早く復活できるようにがんばります!」と力強い一言。

 「これ以上なにか言うと、泣いちゃいそうです。」 あの愛ちゃんからそんな言葉が漏れた。

 

 そして、三本締めですべてが終わった。

 

 最後の幕が降りる。

 

2003年1月1日午前5時40分、川崎ロックは伝説になった。


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