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俺はシャンクスだが、お前に堀裕子を教える

よく来たなルフィ、俺はシャンクスだ。そしてここは、お前も知っての通り最果ての島ラフテルだ。ルフィ、ここに至るまでの長い旅路、本当にご苦労様だった。フーシャ村のある東の海を越えて、大海原を割って進み、幾度の荒波を乗り越え、最終的にお前たち麦わら海賊団はここまで辿り着いた。

きっとその旅路は楽しく愉快なだけの航海では無かった筈だ。勝利も敗北も等しく味わい、傷つき倒れて血を流し、掴んだ砂のように零れ落ちていく命に涙を流すことだってあっただろう。それでもお前はひたむきに前を向き続けた。その未来の先に今のお前が居るんだ。あぁ立派な海賊になったなルフィ。

けれどなルフィ、俺はお前にそんな事が言いたくてこの島に上陸したわけじゃない。いや厳密に言うなら俺だけじゃない、俺の船に乗るクルー全員が同じ気持ちなんだ。たとえお前と矛を交えてでも、俺たち赤髪海賊団はお前に伝えなくてはいけない事があるんだ。

ルフィ。お前はアイドルマスターシンデレラガールズの堀裕子を知っているか。


お前に堀裕子を教える

ルフィ、お前は堀裕子と言うサイキック美少女アイドルを知っているか。もし知らないと言うなら失せろ。そして、その勢いのままアイドルマスターシンデレラガールズの公式サイトに行って、トップページの何処かにあるであろう検索ボックスに「堀裕子」と入れて検索ボタンを押してそこで出てくる画像を見て欲しい。瞳が丸くて大きくてドングリみたいでラッキールゥみたいで、先割れスプーンを握りしめながら何となくのドヤ顔を浮かべているポニテ美少女が居たなら、そいつは間違いなく堀裕子だ。

堀裕子の出身はフクイ島だ。北の陸(ノースリクー)に浮かぶ島々の一つで、特産品としては越前ガニが有名だ。その寒さは厳しく、一年中雪に覆われた極寒の地だが、その分美しい自然に恵まれていてとても良いところだ。絶滅を逃れた恐竜も四方八方で闊歩している。ルフィ、お前も今度行ってみると良い。

堀裕子はそんなフクイ島からやって来た。アイドルになるため一人経験もなしに海を渡り、先割れスプーンをギュッと握りしめながら海列車と海新幹線を乗り継ぎ、紆余曲折を経て彼女はアイドルとなった。

堀裕子はサイキック美少女アイドルだ

ルフィ、勘の良いお前なら気づいたかもしれないが堀裕子は自称サイキッカーだ。隙を見せれば「むむむ……むむむーん!」と言って先の割れたスプーンを握りしめながらサイキックで解決しようとズンドコやってくる。

その超能力は、大概の場合で言えば目論見とは外れた部分に落ち着くがそんな事は気にしてはいけない。キノコが急成長を遂げたり、服のボタンがはじけ飛んたり、当てずっぽうに言ったワンコの名前が偶然当たっていたりなんて事もあるかもしれないがそんな事も気にしてはいけない。

堀裕子はアイドルだ。パッションの権化とも言わんべきパワーで、今日も元気に大海原をグルグル駆け回っている。東で新しいお仕事があるぞと聞けば、「次の現場まで瞬間移動です!ヘイタクシー!」と言って現地へと駆けつけ、西で迷子の子供が居るらしいぞと聞けば颯爽と駆けつけてお母さんを一緒に探す。北で定期テストが近いぞと聞けば大慌てで鉛筆を転がし、南で仕事があるぞと聞けば付け焼刃の英語が火を吹くことになる。

今なお彼女の活躍ぶりは留まるところを知らず、バラエティ番組を中心に様々なメディアに出演しスタジオやお茶の間を笑いに包んでいる。そこに加えて、彼女は自他に認める美少女であると来てしまった。

チカラ!イズ!ぱわー!!のコミュでは「私の取り柄は美少女と超能力しかありません。超能力が使えなくなった私は、ただのしがない美少女です」と自身のアイデンティティの部分が揺らぐ場面であろうが「私は美少女だ」と根幹に根差す考えは変わらない軸の強さを見ることが出来る。余談ではあるが、思い出の鍵と言うアイテムさえ使えばいつだって見聞色でコミュを見ることが出来るので、ルフィお前にこれ(鍵)を預ける。いつか立派なプロデューサーになって返しに来い。

堀裕子は石橋を叩いて渡らない

叩いて渡る前に「はっ……!この苔むした石橋!恐らく何らかのサイキックパワーを秘めているに違いありません!スプーンよ曲がれ!むむむむーん!」とか言って銀色に輝くスプーンを握りしめながら橋の前で唸っている。隣ではゆるふわアイドルとして名高い藍子ちゃんが、その目線を青空に移して「あぁ今日も良い天気だなぁ」とか考えているかもしれない。

そのころ隣の島では、倒壊の可能性があるのではないかと危惧されていた石橋が倒れる事件が発生する。大惨事にも発展しかけない事故に当然市民は大騒ぎするが、不思議な事に何故かその瞬間だけは誰一人として橋を渡っていない。結果的に被害者を一人も出さず、まさに奇跡的というタイミングで橋は倒壊したわけだが、隣の島の堀裕子がそれを知ることは無い。そもそもそんな事にユッコが関係しているかどうかも定かではない。

ただ明白なのは、エスパーユッコとはそんな少女であると言う事実だ。

堀裕子は複数人いるかもしれない

二年前、堀裕子は複数人いるのではないかと言う説が一世を風靡した。これに完全的否定の立場を取ったのが絶対的な解釈を掲げる海軍大将赤犬。反対に堀裕子複数人説を支持する声明を出したのが、ダラけきった解釈を掲げる海軍大将青キジ。その意味づけを巡る両者の意見は真っ向から対立した。

十日間にも及ぶ両者の激烈な解釈違い決闘が、枯れたパンクハザードの大地を灼熱と極寒が覆う大地に分裂させてしまった事は、ルフィお前の記憶にも未だ記憶に新しい筈だ。

青キジ「セーシュンエナジーがパッションだって言うんなら、彩☆キック乙女がキュートである事は間違いないし、ワールドディストーションは確実にクールだよな。あいつは元々パッションアイドルなのに、ここまで属性別的な面が取り上げられるのは複数人居るからに違いないじゃないの。だからさ、もうこれは認めるしかないって俺の脳味噌が判断しちゃったんだよ。氷河時代!(アイスエイジ)」

参考資料:セーシュンエナジー(特訓後)
参考資料:彩☆キック乙女(特訓前)
参考資料:ワールドディストーション(特訓後)

赤犬「セーシュンエナジーの美少女サイキックアイドル堀裕子と言う内面に触れた部分も、『エスパーユッコ』や『アホ』と言った分かりやすい記号部分だけではない十六歳の等身大な少女である彩☆キック乙女も、神妙な面持ちでフォークを発射する今までのユッコが重ねてきたイメージからギャップを感じさせてくれるワールドディストーションも、堀裕子と言う一人の少女が持つ多彩的な個性の表れであって、それを複数人説だとか言って安いこじ付けで済ませるのはちと勿体ないんじゃないかクザン。冥狗!(めいごう)」

激闘の末、勝負を決めたのは赤犬の一手だった。その熱烈な一撃によって青キジは敗北を喫し、海軍大将の座を剥奪された。確かにあんな事は言うたが解釈に正義も悪も無いのは事実じゃ、何より堀裕子なら複数人いても「まぁ、サイキック的な何かがあったんだろうな」と思わせる受け皿を持っちょる。また腰据えて解釈談義でもしようやクザン。その後、赤犬が海軍元帥の座に就いたのは今更語るまでもない。そうだろうルフィ。

堀裕子は悪魔の実の能力者なのか

ルフィ、お前は悪魔の実であるゴムゴムの実を食べた全身ゴム人間であり、俺はクスクスの実を食べた全身シャンクス人間であると言う訳だが、実は彼女も、何らかの悪魔の実を食べた能力者なのではないかという説がある。

確かに、政府の船から盗んだ彼女のプロフィールを見る限りだと、趣味にはサイキックトレーニングだと書いてあるし、本人も美少女サイキックアイドルを自称している。堀裕子本人は中々スプーンを曲げられない事に定評があるが、彼女の握手会に行った海賊が船に帰ってきた頃には、厨房のスプーンが全部曲がっているなんて事もザラだ。

堀裕子は果たして悪魔の実の能力者なのだろうか。結論から先に言ってしまえば、その答えは俺たちには分からないと言うのが実の本音だ。

いや、更に言うのであれば答えなんて分からなくたっていい。そもそも彼女が悪魔の実の能力者であるとか以前に、サイキックパワーと言うものが本当に実在しているのか。サイキックとは何なのか。彼女はいったい何者なのか。そんな事よりもっと大事な事がある。

堀裕子にとって信じると言うこと

彼女が自身の持つ能力に気づいたのは、小学生の給食時間だ。カレーかシチューか、はたまたラーメンか。その中身は何だっていいのだが、少なくとも教室と言うその空間で、彼女の小さな掌に握られていたスプーンがグググと曲がり、同時に彼女の運命も大きく揺れ動くことになったと言うのは事実だ。

小学校と言う環境において、彼女はきっと好奇の視線を浴びただろう。脚が速ければカッコいいだの、珍しいカードを持っているから凄いだの、そういうのとはまるで違う。スプーンを曲げる事が出来る、超能力を使える。サイキッカーと言う物珍しい存在に寄せる周りの反応は間違っても排他的な感情なんかではなかったはずだ。

だが、中学に上がってからは違う。当たり前のことしか当たり前ではないのだと一人ずつ理解し始める。それでも彼女だけは握りしめたスプーンを手放しはしなかった。

そうして幾つかの時が経ち十六歳となった夜、彼女は夢を見た。アイドルになってステージに立つ自分を見たんだ。彼女の身振り一つ一つがファンの顔を照らし、橙色の光に染め上げる。彼女が声を発すごとに風に吹かれた篝火のように会場は燃えあがる。天を衝く程の大歓声の中で彼女は確信した。これは予知夢なのだと。

そして彼女はいつかの朝に海を出る。一人先割れスプーンを握りしめながらフクイ島を出港し、緊張で睡眠もろくに取れぬままオーディションに参加する。そこで彼女はお前と出会う。

出会ったばかりの頃の彼女は、きっとお前にこう問いかけてくるはずだが、俺は何も心配はしていない。お前はきっとこう答える。大丈夫、信じている。そうして二人三脚で乗り越えた幾つかの経験を踏み越え、彼女は真の意味でのサイキック美少女アイドルとなる。

誰かが堀裕子と言う少女に問いかける。何故、お前はそこまでしてサイキックを信じ続けるのか、常識で考えればスプーンなんか曲がる筈が無いのに何故そこまでして信じ続けるのかと。

彼女は答える。

確かに常識で言えば、スプーンは曲がらないかもしれないし奇跡は起こらないかもしれない。夢だってそうそう叶わない。でも、ドキドキワクワクやっていけるなら、そんな理屈なんかどうだってよくありませんか。サイキックもあるはずだ、この銀色に輝くスプーンだってきっと曲がるはずだと考えて日々を過ごす方が、退屈に繰り返される毎日をきらめく日々に変換していけると思うんです!

ルフィ、お前はプロデューサーになれ

堀裕子と言う少女が本当に悪魔の実の能力者であるのかなんて、俺たちにはこれっぽちも分かりやしない。でもなルフィ、それでいいじゃないか。スプーンが曲がろうが曲がらなかろうが、例えサイキックが使えようが使えまいが、それがなんだ。お前が彼女を信じていればいい。

彼女が本物のサイキッカーなのかどうかは俺たちには全く分からない。だが、彼女がステージ上で歌って踊ってパフォーマンスをする度に観客たちは熱狂し、会場全体には熱気が渦巻く。彼女が命ずるがままに人は動き、彼女の予言したようにライブは成功する。彼女は紛れもなくサイキック美少女アイドルだ。それでいいじゃないか。

あぁ、お前と堀裕子はよく似ている。お前が唯一無二の夢に憧れ海に出たように堀裕子も果てしない夢を胸にアイドル道と言う大海原に飛び出た。そして彼女はトップアイドル、すなわち海賊王を目指し邁進するその真っただ中にいる。その航路はきっと未知へのワクワクで溢れているんだろう。

ルフィ、このスプーンをお前に預ける。俺の大切な先割れスプーンだ。いつかきっと返しに来い。立派なプロデューサーになってな。それとワンピースの正体は投票権だ。きっと清き一票がお前の事を待ち望んでいる。



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