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初情事まであと1時間

 どうも役者のニシダです。
見てくれましたでしょうか、『初情事であと1時間』
これを書いている今現在、私はドラマの完成形を見ていません。放送前ですのでどういった出来になっているのか分かりませんが、はじめてのドラマの撮影の雑感を思い出せる限り書いてみようと思います。
見てくれる人が少しでも増えればと思い文章を書きます。
mbs動画イズム、Tver、TELASAで見ることができますので是非見てください。

 去年の10月はじめ頃、今まで見たことのない「衣装合わせ」がスケジュールに書き込まれた。
衣装合わせとだけ聞いていたので、とにかく服着りゃあ良いんだろと思って向かうと監督含めスタッフさんがいらっしゃって、軽い顔合わせのようなものだった。
当日着る予定の衣装や小道具なんかを身につけ手持ち無沙汰を決め込んでいると、メイクさんが近寄ってきた。
映像に残るものなので"粉"使いましょう、と小声で伝えられた。
皆さんはピンとこないかもしれないが、"粉"というのはハゲを隠す粉のことだ。真っ黒い粒子の大きめな粉であり、透けて見える頭皮を隠すためのものだ。ハゲている、それだけで無用な気を使わせてしまった。ハゲてて、すみません。当時のニシダはハゲ治療前、いわばビフォーの状態であった。
谷口恒平監督は、ニシダさんに当てて書いたのでニシダさんのままで結構です、というようなことを言ってくれた。あらかじめ知っていてくれたようだ。いくら自分の中でイメージが合っていようとはいえ、ニシダを主役に据えようなんて普通思わない。谷口監督、大英断。もし仮にニシダで行こうと思っても一晩寝て起きたら、考え直すはず。
谷口監督は教室の隅にいるけれど、面白い人という感じの雰囲気の出立ち。パソコンにはラジオのステッカーがベタベタ貼ってあった。それを見て、どこか安心できた。

 10月の終わり、数日間、朝から晩までの撮影で全てを撮り切った。
初日、朝集合すると岡本玲さんがいた。初対面。顔を見て一気に緊張した。
台本も貰っていたし、衣装合わせも済ましていた。今日はドラマの撮影だ。そう思って家を出たはずなのに岡本玲さんを見て、ドラマに出ること、演技をすることにやっとリアリティーが生まれ始めた。
撮影が始まると谷口監督のオッケーだけが判断基準で、上手く演技できたのかどうかなんて自分自身には見当もつかない。その場しのぎで足掻いてどうなるものでもなし、谷口監督の言われたことに自分なりに従ってやる以外になかった。

上司役、関幸治さん。
休憩室で説教されるシーンの撮影前、談笑しながらカメラのセッティングを待っていた。
いざ撮影が始まると、一変して嫌味な上司になった。安い言葉だが、プロフェッショナルを感じた。
関さんの演技の熱、みたいなもので何となく上手く演技できたような気がした。何気ないことを自然に演じることはとても難しいけれど、演技の上手い人のに対してのリアクターとしてその場いると自然に溶け込めた。怒られるという状況が自分にとって身近かつ得意な場面だったのかもしれないけれど、多少噛み合っているなという感覚があった。


 初めて演技の仕事を終えての感想は、とにかく自然に演じることはむずかしい。
人の心に残る演技をしようなんて思わない。自然な演技を目指していてもその難易度の高さを切実に感じた。
当然映像の中には演者しか映っていない。しかし自分から見える景色は映像を撮るカメラや音声を拾うためのマイク。無機質な機械とそれを操る大勢の技術スタッフ。自然に振る舞えるような状況ではない、トップオブ非日常。
谷口監督にはニシダのままで良いと言われてた。しかし実際にスタートがかかると、自分の体の動かし方、表情の作り方、声の出し方全てがふわふわと宙に浮いているような気がしてくる。普段の自分が分からなくなる。普段意識せずにやる動作を再構築してカメラの前で再現することが演技なのかなと漠然とその時思った。別に思っただけだ。その気付きが契機となって演技が上手くなるわけでもない。
岡本さん、関さんという歴戦の猛者に混ざれられた一兵卒。欲張らずに自然に演じることが最善手。
演技が上手くいかないと、自分の人生が薄っぺらいのではと思わされる。人としての幹の細さ、年輪の少なさが自然と内省される。。
あの時色々考えていたのだろうけれど、今思い返すと楽しかったなと思う。
この文章で言いたいことは"楽しかった"の一点のみだ。楽しいのが一番良い。


 ここからはドラマを見た後に書いている。
Tverでの映像をテレビに映して見た。今のテレビはなんの接続コードもなしに映像を転送出来る。
自分の出演するドラマを大画面で鑑賞した。
ドラマ自体の感想としては素晴らしく良かった。
今回の5話に至るまで全話視聴したのだが、一番良い。好き。
自分が出ているという欲目を差し引いても、面白いドラマだったと思う。
まぁ、ドラマは「ごくせん」で止まっている身なので、偉そうにあれこれ言える立場ではないのだけれど。
自分の芝居を見て、あんまり上手く無いなぁなどと思ったりもするのだが、なにごとにつけ、自分のことを卑下しすぎるのは自己愛の裏返しの感が出てしまうので別段書きたくない。

それでも冷静に自分自身を見て思うことは、わたしはなかなかに良い声をしているということ。もう一つは、頭皮を隠す粉は偉大ということだ。

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