ホルスト：東洋組曲「ベニ・モラ」作品29の1
05:24 2.Second Dance
08:18 3.Finale : in the Street of the Ouled Nails
再生時間 14'' 11
グスターヴ・ホルストの東洋組曲「ベニ・モラ」作品29の1は、1909年から1910年にかけて作曲され、1912年に初演された作品です。この組曲はホルストがアルジェリアを訪れた経験に強く影響を受けており、そのエキゾチックな雰囲気を作品に反映しています。「ベニ・モラ」は、ホルストが北アフリカの文化や音楽に対する深い関心を持っていたことを示す代表的な作品です。
### 作曲の背景と経緯
ホルストは1908年に休暇を利用して北アフリカ、特にアルジェリアを訪れました。この旅行中に彼は地元の音楽、特にベドウィンの民謡に感銘を受け、これが「ベニ・モラ」作曲の直接的なインスピレーションとなりました。ホルストは伝統的なアルジェリアのリズムやメロディを聞き、これらの要素を彼の独自の音楽言語に取り入れたいと考えました。
ホルストが滞在中に耳にしたメロディーのいくつかは、そのまま「ベニ・モラ」に組み込まれています。特に第3楽章で使われているメロディーは、ホルストがアルジェリアで聴いた「カフェの音楽」に基づいています。このメロディは単純でありながらも魅力的で、反復されることによってトランス状態を生み出す効果があります。ホルストはこれを基にして、聴衆を「異国の風景」へと誘うことを試みました。
### 楽曲解説
「ベニ・モラ」は3つの楽章から構成され、それぞれが異なるエキゾチックな雰囲気を描いています。
#### 第1楽章: **第一組曲** - アレグロ・モデラート
この楽章はゆったりとした始まりから、次第に緊張感が高まる展開を見せます。リズムやメロディには明らかに北アフリカ音楽の影響が感じられ、特に不規則な拍子の使用が特徴です。ホルストはここで、訪れた地の異国情緒を表現しようとしています。弦楽器や木管楽器が繊細な色彩を加え、ホルストならではの独特なハーモニーが印象的です。
#### 第2楽章: **第二組曲** - アンダンテ
この楽章はメランコリックな雰囲気を持ち、静かなメロディーが主体となっています。ホルストは、この楽章で彼がアルジェリアの夜に感じた静けさや神秘的な雰囲気を表現しようとしました。メロディーは簡素ですが、美しく、ホルストの巧みなオーケストレーションが際立ちます。
#### 第3楽章: **第三組曲** - アレグロ
この楽章は、組曲のクライマックスを形成します。ホルストがアルジェリアで聞いたカフェの音楽の影響が顕著で、リズミカルな反復が特徴的です。この反復されるメロディーは聴衆に強い印象を与え、最後には高揚感とともにフィナーレを迎えます。この部分は特にオリエンタリズムの影響が色濃く、異国の地に足を踏み入れたような感覚を呼び起こします。
### 音楽的特徴
「ベニ・モラ」はホルストの作曲スタイルの中で、エキゾチシズムの影響を強く受けた作品の一つです。ホルストはこの作品を通じて、異文化の音楽要素を西洋のオーケストラ音楽に融合させようと試みました。彼の音楽におけるリズムの扱い方やメロディの構造は、特にこの作品において独創的であり、異国情緒を巧みに取り入れています。
また、この作品はホルストが後に書く「惑星」組曲に先立って、彼のオーケストレーション技術の成熟を示す重要なステップとなりました。「ベニ・モラ」での経験が、ホルストの後の作品におけるリズムとハーモニーの扱いに大きな影響を与えたことは疑いありません。
### まとめ
グスターヴ・ホルストの「ベニ・モラ」作品29の1は、彼のエキゾチシズムに対する興味と、異文化の音楽を自らの作曲に取り入れる試みの結晶です。北アフリカの音楽に触発され、ホルストはこの作品で異国情緒を色濃く表現し、独自の音楽言語を発展させました。この組曲はホルストの創造的な探求心と、異文化理解の意欲を如実に示すものと言えるでしょう。
1956年8月29日にマルコム・サージェント指揮、BBC交響楽団によるホルストの東洋組曲「ベニ・モラ」作品29の1の録音は、ホルストの作品の中でも非常に興味深いものです。この録音に関する演奏者の詳細について説明いたします。
### 指揮者：サー・マルコム・サージェント
サー・マルコム・サージェント（Sir Malcolm Sargent, 1895-1967）は、20世紀イギリスを代表する指揮者の一人で、BBC交響楽団やロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン交響楽団など、イギリス国内外の主要オーケストラを率いました。サージェントは、ホルストの音楽を得意とし、特に『惑星』や『ベニ・モラ』などで知られています。
### オーケストラ：BBC交響楽団
BBC交響楽団（BBC Symphony Orchestra）は、1929年に設立されたイギリスの主要な放送オーケストラです。サージェントの指揮の下で、1950年代には特に精度の高い演奏が特徴で、多くの録音が残されています。ホルストの音楽に関しては、彼の代表作である『惑星』を始めとする管弦楽曲を演奏する機会が多くありました。
### 楽団メンバー
1956年当時のBBC交響楽団のメンバーには、イギリスの音楽界の主要な演奏家たちが含まれていました。特に、弦楽器セクションや管楽器セクションには、後にソリストとしても活躍する演奏家が多く、ホルストの細かなオーケストレーションを見事に再現しています。
- **弦楽器セクション**: この時代のBBC交響楽団の弦楽器セクションは、非常に豊かな響きと正確なアンサンブルが特徴でした。彼らは、ホルストのエキゾチックな旋律とリズムを美しく表現しています。
- **管楽器セクション**: ホルストの『ベニ・モラ』では、管楽器セクションが重要な役割を果たします。この録音では、フルート、オーボエ、クラリネット、バスーンなどの奏者たちが、ホルストが描いた異国情緒あふれるサウンドスケープを巧みに表現しています。
- **打楽器セクション**: 『ベニ・モラ』では、打楽器も非常に重要な役割を果たします。BBC交響楽団の打楽器セクションは、特にリズムの正確さと多様な音色で注目されており、ホルストのリズムの複雑さを見事に表現しています。
この録音は、ホルストの『ベニ・モラ』が持つエキゾチシズムと、彼の独特の作曲スタイルを余すところなく伝える名演の一つとされています。サージェントの指揮によるこの演奏は、ホルストの作品の解釈において非常に高く評価されており、今日でもリスナーにとって価値ある録音として知られています。
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