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せめて人間らしく(前編)

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「お前だって綺麗に生きてきたわけじゃないだろ?」

いつだったか常連の掛け持ちを諌めたときに吐かれた捨て台詞が今でもふとした瞬間、脳裏をよぎる。

金を稼げること以外なんのメリットもない専業、せめて人間らしくいたかった。自分で超えちゃいけないラインを引いてそこを跨がないように必死に踏みとどまってたんだ。

ある日を境に自らそのラインを越えて全てが変わった。

もうとっくに時効だろう…今さら懺悔するつもりもさらさらない。ただ形として残すことで何かが変わればなともほんの少しだけ思う。

そもそも前提としてこれは完全な【フィクション】である。


【前編】
当時、大型チェーン店が苦手だった僕は個人経営の店をジグマにしていた。

A店は寂れたラブホ街にあってヤ●ザの溜まり場と化していた。マル暴が営業中の店内に踏み込んできてヤ●ザが連行されていくのも見慣れたいつもの景色。他に誰もいないシマの角台に座る女は遊戯などするわけもなくひたすら鏡を見ながら化粧をしている。そんな店内はデリヘル嬢特有のボディソープの匂いと壁に染み付いた紙タバコの匂いがいつも充満していた。

今日も閑散とした店内に虚しく鳴り響くユーロビート。ワンボックス30台のジャグラーの島に客は一人しかいないのに、全台下皿に少量のメダルが放り込まれている。いや、一人しかいないんじゃなくて一般客が近付ける雰囲気ではないが正解か。

ヤ●ザ「おい、お前も光らせるの手伝えっ!笑」

僕「ジャグラーは死んでも打つなとばあちゃんの遺言なのですんません…笑」

どうやら今日のヤ●ザの目標は「全台GOGOランプを同時に光らせてみた」らしい。

そそくさと不良に挨拶だけ済ませて「エヴァ約束」の島へ。設定変更すると10ゲーム以内にステージチェンジをしないという特性を使って狙い台を更に絞り込んでいく。当時は上げ下げ以外で設定をいじる店の方が少なかったけ?

この日は早めに設定6に辿り着いて離席もせずぶん回していた。夕方ごろ、店内にヤ●ザの雄叫びが響き渡る。どうやらついに全台光らせることに成功したらしい。誰もいないシマで全台GOGOランプが光ってる景色は圧巻だった。そして暇そうに壁によっかかっている社員をとっ捕まえてうれしそうにピースをしながら写真を撮ってもらうヤ●ザの姿はカオスだった。

(建前上)台移動・共有禁止、再プレイなしで6枚交換だったA店をほとんどの専業は避けていた。まぁヤ●ザの溜まり場だったからなのが一番の理由だろうけど。

不良とうまいこと当たらず障らずの距離を保てさえすれば設定も入ってるしライバルもほぼいない優良店だった。

台移動禁止とはいえ数十枚ぐらいならそのまま台移動しても大目に見てくれていた。だから僕は超えちゃいけないラインをここに引いていたんだ。

あ…あと小さな悪さと言えば、設定変更が分かるように台扉にセロテープを貼ったら店長にバレて設定変更してから丁寧にセロテープが貼り直されていたり。初代リンかけ全56をやる日をどうしても特定したくて肩車をしてもらって入口扉の上から設定変更を覗いていたら防犯カメラにしっかり映り込んでいてその日をわざと外されたり。直接店長と話すことはほとんどないもののお互い小さな駆け引きを楽しんでいた。

そしてある日、店は潰れた、いや俺が潰した。

(続く)

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