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がん患者と仕事

~私が仕事を辞めた経緯~

はじめに

がん患者が直面する「働く」ことへのハードルって何でしょうか。私は2019年に血液がんに罹患し、勤務先や上司の対応に納得いかないまま退職した経験があります。病気の特性上、すぐに骨髄移植をするか経過をみていくかという二択の選択が迫られる中、web検索すれば予後不良というキーワードしか目につかず、本当に不安で孤独な日々でした。

告知を受けてからの仕事は精神的に辛かったです。普通に働いている同僚が羨ましくてたまりませんでした。この日常が失われるかと思うと、誰にも相談できず怖くて仕方ありませんでした。不本意な形で退職した後、がんサロンで多くの方と話しました。私のように不本意な形で退職を経験した方は、いなかったように思います。「みなさん、きちんと会社に守られているんだな」と率直に驚いたことを覚えています。
私が体験談を残す理由は、前の職場をいつまでも非難したいからではありません。当時、感情的になり冷静に話し合いができなかった私にも原因があると思っています。がん患者さんにこのような体験をしてほしくないという気持ちと、会社側の理解、対応によってがん患者さんの心は守られるということを訴えたかったからです。

それは突然でした

私は2019年に告知を受け、いずれは移植が必要な状態でした。しかし残念ながら移植の成功率は低いということで、元気なうちは移植に踏み切らずに日常生活を維持したいと決めました。告知から散々泣いて、悩んで悩んで出した決断でした。上司に報告しました。信頼していた上司だった分、その言葉には正直耳を疑いました。
「抗がん剤を受けながら働くなんて・・・」「輸血することになったら仕事は無理でしょ」
これを聞いて「当然の発言だ」と思う方もいると思います。「治療しながら、輸血しても、働いている人は周りにいるけど」と思う方もいると思います。がんの症状、治療による副作用、要する時間や日程は人それぞれです。だからこそ、丁寧な話し合いが必要だと思っています。
告知から一年、世の中には新型コロナウイルスが蔓延してきました。ある時、事業主に急に呼ばれ「コロナも蔓延していることだし、しばらく休んでほしい」と言われたのです。無期限です。同席していた上司は俯き、無言でした。

主治医からは就業許可を頂いていたので、今後の治療費のためにも引き続き働き続けたいと申し出ましたが、上司は寄り添ってくれませんでした。
休んでいる間、復帰時期の見通しもわからず、上司や同僚からの連絡は一切ありませんでした。私は途方に暮れました。がんに罹患した上に仕事も失い、理不尽な対応に憎しみは悲しみに変わり、家に引きこもりました。今まで働いてきた姿勢、態度、評価、人間性まで丸ごと否定されたような感覚でした。

がんに罹患することはそれほど特別で非常事態なのでしょうか

働き続けたいと願う気持ちは、それほど無謀なことでしょうか

会社側のハードル

会社として職員の安全を守る義務があることは理解しています。ただ、私は結論に至るまでに丁寧な、心の通った温かい話し合いを持って欲しかったです。「これからのこと、一緒に考えよう」ただその一言が欲しかった。本人の気持ちや治療スケジュール等を聞いて、これからのことを丁寧に話し合ってほしかったのです。会社側のがんに対する知識不足、がんに対するイメージの悪さや誤解、無意識の偏見が、がん患者さんが働き続けることへのハードルを高くしていると思います。良かれと思って放たれる言葉「治療に専念しなさい」これががん患者にとってどれだけショックで社会から突き放す言葉かをご存じですか?一瞬にして今まで築いた社会性や仕事の評価を失ってしまったような感覚を私は感じました。
会社の従業員のみなさま、お願いします。がんを罹患し、勇気を出して報告してきた従業員に対して、今の状態、治療スケジュール、今後の希望等を丁寧に相談にのってあげてください。そして、可能な限り希望を受け入れられるよう知恵と工夫をお願いします。

患者側のハードル

患者さん側の働くハードルについても考えます。それは、がんになる以前とは変わってしまった自身の身体に対する大きな不安の存在です。体力低下、易疲労感、痛みとの共存など、人それぞれに様々な身体的特徴を抱えながら復職を考えます。以前と同等の仕事量はこなせないかもしれません。周りに迷惑をかけてしまうかもしれません。また、周囲にどう思われるのか、視線や認識も気になります。異動や配属場所が変わればそこでの人間関係に不安があるでしょう。復職前に担当者と話す前に、これらの不安を少しでも軽減させたいものです。主治医に業務内容の相談はもちろんのこと、自分の心身の状態と心配事、配慮して欲しいこと等は整理しておく必要があります。会社の担当窓口だけでなく、がん治療中の就労について相談を受け付けている窓口が(オンライン)あります。専門家に相談しながら、復職について自分は何を不安に思っているのかを整理することも重要だと思います。

まとめ

誰しもまさか自分ががんになるとは思わず入社しています。人生における「まさか」の時に、会社からの一方的な対応は会社に裏切られたと思うほどの衝撃だと思います。がんになっても私は何も変わりません。どうか、がんを特別なもの、特別な人として区別しないで今まで通り接してください。私は今までの仕事内容に誇りを持っていましたし、仕事が好きでした。上司を尊敬していましたし、同僚を信頼していました。
どうか、がんに罹患しても戻れる場所を、社会人としての日常を維持させてください。仕事をすることでがんであることを忘れられる、かけがえのない時間、同僚と笑えるかけがえのない日常を、がんになったからと言って奪わないでください。
会社の担当者のみなさまには、どうか正しい知識のもと、がんに罹患した職員と丁寧な話し合いの課程を踏んで頂けるよう願います。


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