令和6年予備試験論文式試験 再現答案【実務基礎科目(刑事)】

作成日:9/10
回答ページ数:3.9ページ

第1 設問1
 1 ⑴について
   写真撮影は五官の作用により性状を認識するもので、Aの明示または黙示の意思に反し、重要な権利・利益を実質的に制約する場合は強制処分たる検証にあたり令状が必要である。しかし本件車両が放置された現場の写真撮影は、Aの権利を実質的に制約せず、任意処分たる実況見分と考えられるから、令状発付は不要と考えられる。また、本件車両内の本件フェリーのチケットの各半券は、Aがその意思とは関係なく放置したもので、「遺留した物」(刑事訴訟法(以下、刑訴法)221条)にあたり、その押収は領置にあたる。領置は強制処分であるが、占有取得時には強制的な作用を伴わないため、令状は不要である。
 2 ⑵について
   身体検査令状および鑑定処分許可状。
   血液は身体の一部であり、その性状を五官で認識するためには身体検査令状(刑訴法218条)が必要となる。また、Aの腕に注射針を挿入し、身体への侵襲を伴うため、鑑定処分許可状が必要である(刑訴法225条1項、168条1項)。

第2 設問2
 1 ⑴について
   Aは詐欺により送致されているが、本件車両を詐取しようとしたタイミングによっては、詐欺罪が成立しない可能性が想定され、それを車両用のフェリーチケットの購入日時・場所を明らかにすることで確認しようと考えた。
 2 ⑵について
 ⑴ 詐欺罪は、人を「欺」いて、「財物を交付」させる(刑法246条)ことが必要であるところ、AはVに対し、「これから返しに行く。」「今、丙島にいる。もう少しで営業所に着く」などと虚偽の連絡をし、「欺」くことで、レンタカーという「財物」を使用し続けている。
 ⑵ しかし、Aは、乙市丙島の往復フェリーチケットを2日午後3時にインターネットで予約購入している一方、車両用チケットは4日午後6時30分にフェリー乗り場の窓口で直接購入しており、2日午後3時時点では車両を詐取する意図はなかったと考えられる。また、Xによれば、1日にAと電話で話した際にも5日は乙駅構内で待ち合わせるということになっており、電車で移動することが前提となっていたから、この時点でも車両を詐取する意図はなかった。さらに、Xによれば、5日にAは本件車両の車種とナンバーを自慢げに話しており、レンタカーの車種とナンバーを実際に確認したうえでそれを持ち去ることを決意したことが推認される。詐欺罪の欺罔行為は、処分行為に向けられる必要があるところ、AがVからレンタカーを借りた時点では、まだAに詐欺の故意は認められないと考えられる。よって詐欺罪は成立しない。
 ⑶ そして、横領罪(刑法252条)の構成要件を検討するに、AはVとの間の委託信任関係に基づいてレンタカーを占有していたから「自己の占有する」と言える。また、本件レンタカーは「他人の物」にあたり、それを「横領」しているから、横領罪が成立する。
 ⑷ よって、Pは単純横領罪で公判請求したと考えられる。
 3 ⑶について
  「横領」とは不法領得の意思を発現するすべての行為を言うところ、ここで不法領得の意思とは所有者でなければなしえないような処分をする意思を言う。Aは、レンタカーを4日午後5時に返却することになっていたが、レンタカーの返却期限を多少過ぎることは一般的にもよくあることであり、ここで不法領得の意思を認めることは早すぎる。また、6時頃、Aは返却を求めたVに対し「これから返しに行く」と虚偽の説明を行っているが、このタイミングではまだ丙島におり、返却すること自体は可能であるので、不法領得の意思の発現は認められない。そして、6時45分頃、本件フェリーに乗り込んだ時点で、所有者でなければなしえないような行為を行っていると言えるから、不法領得の意思が認められ、この時点で横領罪が成立する。

第3 設問3
 1 同調書は検察官面前調書(刑訴法321条1項2号)であるから、「前の供述と実質的に異なった」ことを必要とする。Xは、当初、Aと1日に電話したこと、5日に会って話した内容を供述していたが、公判では覚えていない旨証言しており、異なる結論を導きかねないので「実質的に異なった」と言える。
 2 また、「前の供述を信用すべき特別の情況」も必要であるところ、公判の傍聴席にはAとつるんでいた怖い先輩が10人もの大人数で座っており、咳ばらいをするなどしてXを威迫していたため、供述の外部的事情に鑑みて「前の供述を信用すべき特別の情況」があると言える。

第4 設問4
 1 ⑴について
  弁護士は、真実を尊重する義務を負う(弁護士職務基本規程5条)が、起訴事実を認めるAの自白が真実であるとは限らず、なんらかの理由で身代わりになろうとしている場合などの可能性も否定できないから、積極的に虚偽の立証するのでなければ、被告人の利益のために無罪主張することは認められる。
 2 ⑵について
  前述のとおり、弁護士は真実尊重義務を負い、積極的に虚偽の立証活動をしてはならない以上、Yに虚偽証言をさせるために証人請求することは認められない。                                                                                      

以上


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