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2月8日、シーパラダイスにて。

とある2月の寒い日、私は、夫と子供と一緒に、横浜市にある水族館を訪れました。少し前の日曜、私の担当するはずの仕事が、その場で行われていたからです。

私は男性アイドルのプロデュース業を仕事としています。職業欄には、会社員と書きます。業界は、そうですね、エンタメで良いでしょうか。小さな会社、いえ、我々は自分で事務所と申しますが、いわゆるアイドルを扱う職場にしては割と埃っぽいところですが、私にとっては、幾度かの転職の末たどり着いた、いまのところ、終の住処にしたいと思う職場です。
そんな職場ですので、子が生まれたからと言って、休めるのか、イメージが湧きませんでした。2月の水族館のお仕事も、1年ほど前に先方様とやりとりをしながら、でもその頃は生後6ヶ月の子を抱えているから、私はどうなってしまうのだろう、と不安を持ちながら。

社長は、アルバイトの事務員は、そして、当のアイドルたちは、私の不安を、笑い飛ばしてくれました。「Pさんは、ちゃんとクリスさんのための仕事を探してきてくれたんだねー」と、これは恐らく作り笑顔では無い彼が笑ってくれて、なんだか泣きそうになりました。
私が、彼ら、49人のアイドルと、2人の事務所の仲間のために、各々必要な業務をできていたのか、それは分かりません。ですが、日々腹は大きくなり、体調は悪くなり、スケジュールをアプリに書き込むだけ書き込み尽くして、私は職場を後にしました。

横浜市の水族館に行ってみようと思ったのは、何せ近所だからです。
色んなところで色んな仲間たちがお仕事をしているのは、SNSの発信で見て取れます。子供や私の様子を尋ねる連絡は幾度も貰ったものの、仕事に関しての問い合わせは、ただの一度も私にはありませんでした。
少し不安でした。この子を保育園に入れて復職する時、私の席はあるのか。冗談ではなく、何せ狭い事務所ですから、机の上に資料が置かれて、そしてそのままかもしれません。そうだとしても私に何かを言う権利は無い、だって仕事をしていないから。
そんなことでグルグルとしている私の前で、子供が無邪気に笑います。まだ言葉は発しません。この頃、なんとか食事をするようになってくれた、まだまだ赤ちゃんです。

本当は、イベント当日に行って、彼らの顔を見たかった。でも、赤ちゃんを連れて、日曜日の水族館に行く勇気は、今の私にはまだありません。
だから、次に夫の休みが取れた平日、水族館を訪れることにしました。
リュックに、おむつ、ミルク、替えの着替えを詰め込んで。海辺はきっと寒いから、子供に厚着をさせて。そこまで着込まなくてよかったのか、それも分かりません。そもそも、まだ言葉も話せない赤ちゃんを水族館に連れていくのが無謀なのではないか。夫に、私の仕事への哀愁のために貴重な休みを消費させるのか。
ずっと、そんなことばかり考えながら、電車を乗り継いで、横浜市を横断します。

久しぶりの金沢八景駅が綺麗になっていたのに、驚きました。そういえば、たしか10年ほど前にこの水族館にデートに来たね、と思い出します。私は、ちょうど同じような寒い日の夕暮れに、確か建物の大きな階段を滑り落ちて、タイツごと膝を擦りむいたのです。その話をすると、夫は腹を抱えて笑いだしました。
失礼な話ですが、でも、私も少しおかしくなりました。仕事と生活が、いっしょくたになっていて、しんどいこともあるけれど、でも、私の大切なアイドルたちは、私の生活に近いところで、確かに存在しているのだと思って、なんだか、うれしくて。

この階段から落ちました。

駅をおりて、手前にあるメリーゴーランドに、ドーナツ好きの彼のポップがありました。企画までは関わりましたが、具体的な展示方法までは話をできないままだったので、私はもう、嬉しくなりました。
歩いていると、いろいろなところにポップを貼り出していただいています。そして、寒い日なのにもかかわらず、丈の短いスカートで脚を放り出し、キラキラした缶バッジを敷き詰めた女の子たちが、写真を撮っているではありませんか。
ベビーカーを押しながら、私はたまらなくわくわくします。

ライブの日。
トークショーの日。
大型ポップアップの初日。

今日は、アイドル来訪イベントの当日ではありませんから、すごくたくさんのファンをお見かけするわけではありません。でも、ベビー休憩室にもスピーカーで流れてくる新曲。海を背景にアクリルスタンドの写真を撮るファン。
「いい笑顔」
「誰が?」
夫が言うので私が尋ね返すと、夫は私の名前を呼びました。そうね、と私は思います。私の仕事は、こんなにもたくさんのひとを笑顔にできるのだ。
私がみなさんを笑顔にする。
そうしてみなさんに笑顔にしてもらう。
アイドルたちにも、会社の仲間にも、企画をしてくださる先方様にも、ファンの皆様にも。

きっと、戻って、もし私の机が書類で埋まっていても。
私はその書類をさっさと片付けて、みなさんを笑顔にする仕事を続けよう。
そんなふうに、思ったのです。

動物ショーも拝見しました。


イルカさんたち、なんと賢いのでしょう。

きっと、きっと、たくさんの人達の前に立った彼らは、立派にイルカさんとお話できたのだろうな。そう考えると、私ひとり、なんだかほろりと泣けてしまったのでした。

動物ショーの冒頭に出てきたペンギンさんは、ソラさんとおっしゃるそうです。
うふふ、と笑ってしまいましたが、そのことは皆様にはお伝えしないでおきました。

6ヶ月の子には、ちょっと早すぎた水族館。
また、いつか子供を連れてお邪魔しようと思いました。


ブルーグレーのペンギンさんのマグ。
皆さんのメッセージアプリにお送りしたら、北村さんから「複雑ー」のお返事。
「たくさんサンプルがあるのにー!」と賢君に笑われました。
私の自慢のアイドルたちです。





#書き物をするオタクなので文字で殴ることしか出来ない315次元の俺

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