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種牡馬としての価値

カイザーミノルが先頭に立ち、内からトーセンスーリアが追いかける形でレースは進み、前半1000mが60秒5、後半1000mが57秒4という究極のスローペースになった。最後の直線に向いてからの瞬発力勝負となり、直線に向いたときのポジションと一瞬の爆発力が問われるレースとなった。せっかくの3強が揃った天皇賞・秋だけに、もう少し流れて底力を問われる激しい内容になってもらいたかったが、それでもゴール前の3頭と3人の騎手たちの叩き合いは迫力十分であった。

勝ったエフフォーリアは、ほぼ完璧なポジションでレースを進め、最後の直線における爆発力も素晴らしかった。着差こそ1馬身であり、斤量も2kg軽いとはいえ、コントレイルにはパワーで、グランアレグリアにはスタミナで上回る、圧倒的な勝利であった。ディープインパクト産駒にとって有利な、一瞬の切れ味を問われる軽いレースになったにもかかわらず、ディープインパクト産駒の名馬2頭を完封してしまったのだから末恐ろしい。

最近は、種牡馬としてどうかという目線で競走馬を見てしまうが、パワー、一瞬の切れ味、スタミナを兼備し、500kgを超える馬格も素晴らしいエフフォーリアは、父エピファネイアを継ぐ立派な種牡馬になるのではないかと思う。母系に流れるケイティーズの血はヒシアマゾンが大好きだった私にとっては絶やすべからぬ血脈であり、またかなり先の話ではあるが、名繁殖シーザリオの牝馬クロスを持つ馬も誕生するだろう。

横山武史騎手はスタートから躊躇なく好位を取りに行き、2番手を走るグランアレグリアをすぐ前にマークする絶好のポジションを走ることができた。全体のペースを考えると、スタートしてから積極的に前目のポジションを確保したことが、レースを優位に進めることができる一因となった。ひとつ後ろのポジションを走っていたら、ゴール前はかなり際どい着差になっていたはず。先週で菊花賞を勝ったこともあるだろうが、大舞台でも物怖じすることなく勝ちに行く横山武史騎手のメンタリティ(精神性)は経験によって培われたものではなく、生まれ持った天性のものなのだろう。誰にも真似できない。

コントレイルは最後の直線の追い比べで、勝ち馬に力負けしてしまった。自身もラスト3ハロン33秒0と、これ以上ないぐらいの末脚を使っているが、それでも伸び足りない。ゴール前は苦しくなってヨレ気味だったように、休み明けという敗因はあるにしても、今回はエフフォーリアに完敗であった。あえて言うならば、コントレイルのテンションがやや高かったこともあってか、福永祐一騎手がスタートしてからポジションを取りに行かなかった(行けなかった)ことが、最後の最後にも響いている。枠順を考えると、エフフォーリアの前にポジションできていれば理想的であったし、道中外に出すのではなくサンレイポケットに入られてしまった内側をずっと走って、脚をためられていたらもう少し際どかったはず。

グランアレグリアのルメール騎手は、このような展開になることが分かっていたかのように、外枠からグランアレグリアを導くようにして外の2、3番手を取りに行った。いつものように後ろから行っていたら届かなかったから、ジョッキーとしての判断は適切であったが、グランアレグリア自身としてはやや距離が長かった分、最後はスタミナ負けしてしまった。

4着に入ったサンレイポケットは、コントレイルが外に出した隙を突いて、スルスルと内側を進んで進路を挙げた鮫島克駿騎手の騎乗が見事であった。ヒシイグアスはスローで外を回された割には、最後まで良く伸びていて、実力を証明した。同じく外を回されたカレンブーケドールは脚を失って、伸びあぐねてしまった。今年は枠順の運が向いていなかった。

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