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ディープインパクト超級

エフフォーリアの異次元の強さだけが光った有馬記念、というと言いすぎだろうか。岡田牧雄氏は「ディープインパクト級」と語っているが、もしかするとそれ以上かもしれない。ディープインパクトは3歳時の有馬記念でハーツクライに負けたからではなく、エフフォーリアの競走馬としての強さがそれほどに規格外ということだ。上がり33秒台を問われる瞬発力勝負の舞台ではそれを上回る鋭さで勝利し、上がりの掛かる馬場やコースで行われるレースでは他馬をパワーとスタミナで圧倒する。パワー型とかスピード型とかスタミナ型とか競走馬にタイプがあるとすれば、エフフォーリアは全能型というべきか。あえて言うならば、ディープインパクトのレーダーチャートは瞬発力とスピードで振り切っていたのに対し、エフフォーリアはスタミナとパワーで突き抜けているというイメージである。

グレード制を導入した1984年以降、天皇賞・秋を勝ち、有馬記念に直行した6頭の成績が【0・1・1・4】という数字には意味がある。秋シーズンが始まったばかりの東京競馬場の絶好の馬場で行われるで行われる天皇賞・秋はスピードと瞬発力が求められるのに対し、シーズンオフの傷んだ馬場で行われる中山競馬場の小回り6つコーナーで行われる有馬記念では、勝ち馬に問われる能力のレーダーチャートの形が違いすぎるのだ。だからこそ、あのアーモンドアイもレイデオロも、ジャパンカップをスキップして万全の態勢で臨んだにもかかわらず、敗れ去ってしまっていたのである。エフフォーリアはサラブレッドには強みもあれば弱みもあるという私たちの常識を超えた馬であり、まさにディープインパクト超級ということだろう。

ただし、まだ先の話ではあるが、種牡馬としてはサンデーサイレンスのクロスを内包しているだけに、繁殖牝馬を選ぶことになる。サンデーサイレンスの血を持たない繁殖牝馬しか基本的には配合できないということは、おそらく数年後、父であるエピファネイアや先日種牡馬入りしたコントレイルとの非サンデーサイレンス系繫殖牝馬の奪い合いが起こるはず。そういう文脈の中では、エフフォーリアの現役は5歳まで続くかもしれない。あと2年続く競走生活の中で、ぜひエフフォーリアには海外の大きな舞台を目指してもらいたい。特にディープインパクトさえ勝てなかった凱旋門賞を勝つにはこの馬しかいないと思えてくる。

横山武史騎手は、スタートからゴールまで、とても20代前半の若手とは思えない完璧な騎乗でエフフォーリアを勝利に導いた。勝負どころから、自身の手応えを測りつつ、クロノジェネシスを内に閉じ込める形で動き始めたタイミングも見事であった。追っても素晴らしいアクションでエフフォーリアを鼓舞して、まさにテン良し、中良し、終い良しというジョッキーに成長した。油断騎乗はらしくないが、長い騎手人生の中で失敗もあるだろうから、気持ちを入れ替えて次に進めばいい。

ディープボンドは内枠から積極的に攻め、有馬記念の勝ちポジを走って2着した。勝ち馬が強すぎたが、ディープボンド自身は持てる力を出し切った。海外遠征帰りでやや太く映っていたが、この馬は気持ちで走るタイプなのだろう。天皇賞・春2着とフォア賞勝ちの実績があるにもかかわらず、やや盲点になっていたところがある。和田竜二騎手は完璧に乗って、最後までディープボンドを動かしていた。この人馬は手が合う。

クロノジェネシスは好スタートを決めてレースの流れに乗ったように見えたが、道中で外から蓋をされる形になり、勝負どころではエフフォーリアがさらに動いてきたことで、仕掛けのタイミングが遅れてしまった。最後の直線に向いてのヨーイドンになってしまうとエフフォーリアには分が悪いのは分かっていただけに、ルメール騎手は早めに動きたかっただろう。さすがのルメール騎手も松山弘平騎手とキセキのあの動きは予測できなかったのではないだろうか。不運といえばそういうことだが、冬毛が生えて毛艶もさえなかったように、クロノジェネシス自身の体調もこれまでのレースの中で最も良くなかった。それでも僅差の3着に来ているのだから決して力負けではなく、最後はクロノジェネシスらしくエフフォーリアに道を譲ったということなのだろう。

ステラヴェローチェは後ろから行った分の4着だが、これが本馬の実力である。前走の菊花賞は神戸新聞杯の反動があったこともあるが、外々を回されたことが響いた。ただ、道中でガツンと行ってしまうことが危惧されて、どうしても折り合いを重視して進めるとポジションが悪くなる。個人的には、2歳時のローテーション的にもう少し長い距離を中心に走らせていたらと思うが、後の祭りだろう。バゴ産駒らしくスタミナとパワーが武器だから、それらを生かすためにも、古馬になってからの課題は道中の折り合いとポジションである。

タイトルホルダーは逃げることができなかったが、パンサラッサを大きく先に行かせて、自身はほとんど逃げている形になった。タイトルホルダーの耳を見ると、ムキになって前を追いかけようとしているようではなく、この馬の型でレースはできたのではないか。前を捕まえに行くタイミングも申し分なく、結果的には力負けということであった。とはいっても、6着以下を3馬身離しているだけに、前の4頭が強すぎたということである。その掲示板に載った5頭のうちの3頭が3歳馬なのだから、来年はこの3強対決がまた見てみたい。


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