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キズナ産駒は芝で牝馬を狙え

シャムロックヒルが飛び出し、ロザムールが外から被せるように競りかけた結果、前半1000mが59秒0、後半が60秒8という超ハイペースに流れた。前半と後半の落差だけでは分かりにくいならば、今年の上がり3ハロンの時計(36秒5)を過去のレースのそれを比較してみると良い。

2020年 34秒8
2019年 34秒6
2018年 34秒7
2017年 34秒4
2016年 34秒1
2015年 36秒3 やや重
2014年 34秒1
2013年 34秒5
2012年 36秒4 重馬場
2011年 37秒1 大逃げ

2011年はシンメイフジが大逃げをして上がり3ハロン37秒9とバテて自滅したため、上がり3ハロンが掛かっているように見えるが、勝ったスノーフェアリーは33秒8の脚で上がっており、実質はスローに近いペースであった。2012年と2015年は馬場が重く、上がりが掛かって当然であった。今年は良馬場で行われ、大逃げした馬がいたわけではないにもかかわらず、上がり3ハロンが36秒5と掛かり、勝ったアカイイトの上がりも35秒7であり、明らかに前崩れのハイペースであったことが分かるだろう。10年に一度あるかないかという極端な展開での決着となった。

勝ったアカイイトは勝つためのポジションを走っていた。ハイペースになると、勝ちポジは外の後方に移動する。今日の阪神競馬場は内の馬場が傷んでいたことも含め、より外のポジションを走ったことが活きた。カっとしやすい気性なのか、後ろからゆったり行って、勝負どころから爆発させる競馬が合っている。キズナ産駒としては初のG1制覇ということになるが、今までG1レースを勝っていなかったのが不思議に思える。同期のエピファネイアに大物産駒という意味では水をあけられてしまったが、これで一矢報いた形となった。

キズナの産駒は牝馬の方が(芝のレースで)走る傾向にあるのは、基本的にキズナ自身の母系のストームキャットらしさをどの産駒にも伝えるため、キズナ自身のイメージよりも産駒は豊富な筋肉量を備えたパワータイプに出ることが多く、そのことが牝馬の産駒にとってはプラスに働いているからである。アカイイトは514kgと牡馬顔負けの馬格を誇っている。対して、牡馬の産駒はアメリカ的なパワータイプに偏りすぎ、重苦しくなり、芝のスピード・瞬発力勝負において分が悪くなってしまう傾向がある。キズナ産駒は、牝馬で芝のレースで狙えということである。特に今回のような、上がりが掛かり、パワーが問われるレースでは、よりキズナから受け継いだ力強さが生きる。

ステラリアも同様に、490kgと牝馬としては大型であり、パワー優先の馬体を誇る馬である。スローの瞬発力勝負になると分が悪いが、今回は展開もポジションも馬場も全てがハマった。馬群の外に導いた松山弘平騎手はナイスプレーであったが、外から幸英明騎手のアカイイトに早めに捲られてしまったことは誤算であったはず。あそこでもうワンタイミング早く仕掛けて、アカイイトよりも先に抜け出して併せる形になっていれば、もう少し際どい勝負になったかもしれない。

3着に入ったクラヴェルは、後方の内で死んだふりをして脚をため、最後の直線に賭けた。見事に前崩れの展開となり、最後の直線でも馬群が開いた1頭分のスペースを抜けられたように、ほぼ完璧なレースであった。唯一、外を回していたらもっと切れたかもしれないと思うが、それはあくまでも結果論にすぎない。ソフトフルートも腹を括って後ろから進み、最後の直線に全てを賭けた。惜しむらくは、外に出さずに馬群に突っ込んだことである。もしかして外を回していたら3着まであったかもしれない。これもまた結果論である。

前を積極的に攻めて勝ちに行った有力馬のうち、最後まで見せ場をつくったのはレイパパレ。ラスト200mあたりまでは勝ったかと思わせたほどで、このペースで内の2,3番手を走ってここまで粘ったのはすごい。馬体重こそ±0kgと変わらなかったが、馬体からは線の細さが薄れ、成長した姿を見せてくれた。次のレースでもう一度、この馬のスピードとパワーを見てみたい。3歳馬アカイトリノムスメは、まだ幼さを残している馬体で、ハイペースを前で受けて最後まで良く走っている。現時点の実力ではこれが限界だろう。今年はこれで休ませて、来年にまた成長した姿を期待したい。ウインマリリンはハイペースを追走し過ぎたにしても、最後は止まりすぎで、臨戦課程で肘が腫れたことで調整のリズムが狂ったことが多分に影響しているのではないか。

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