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走る女の娘

大方の予想どおりエイシンヒテンが先頭に立って、前半1000m61秒2、後半が60秒ジャストというスローペースを刻んだ。今年は阪神競馬場で行われ、ややタフな馬場であったことも含めても、全体の時計が掛かっており、京都競馬場で行われていた秋華賞とは別のレースであったことは確かである。前に行った馬たちに有利な流れではあったが、上位を占めた3頭はこのメンバーでは一枚力が抜けていた。

勝ったアカイトリノムスメは、終始、ソダシを前に見る理想的なポジションでレースを進め、最後の直線の急坂でもグイッと伸びてみせた。馬体重がマイナス2kgと、馬体面での成長がほとんど見られなかったのは残念だが、秋華賞に向けての仕上がりは良かった。母アパパネはギュッと実の詰まった果実のような馬体を誇ったマイラーだったが、アカイトリノムスメは胴部に長さがあるように、ややスタミナ寄りの馬体に出たのだろう。そう考えると、この馬体はアカイトリノムスメの個性であり、母と比べるべきではないとも思う。距離が延びるエリザベス女王杯はさらにレースがしやすいはず。走ることが好きだったアパパネの娘からクラシックホースが出る日が来るなんて、競馬の時計は回るのが速い。

戸崎圭太騎手はアカイトリノムスメに騎乗したのはクイーンC以来になるが、自信満々に乗って結果を出してみせた。アカイトリノムスメのしぶとさを生かすために、ワンテンポ早めにゴーサインを出したのもピッタリはまった。回って来た騎乗チャンスを確実に掴んだのだからさすが。

ファインルージュはペースを考えると、後ろから行きすぎたし、外を回しすぎた。フェアリーステークスで騎乗して、鋭い末脚を使って勝利したときの印象が残っているからか、やや慎重になって控えてしまったことでポジションを悪くしてしまった。前走で福永祐一騎手が跨って、先行して早めに動いて勝ちに行くレースを試したことが無駄になってしまった。このあたりが乗り替わりによって、前走と本番といったレースとレースが線としてつながらず、点だけで終わってしまうもったいなさである。それでもここまで差し込んできたのだから、敗れはしたもののファインルージュの強さも光ったレースであった。

アンドヴァラナウトは勝ち馬の内で脚を溜めていたように、福永騎手としては完璧なポジションで乗れていたはず。それでも勝ち切れなかったのは、先着された2頭とは現時点でのパンチ力にまだ差があるからだ。今年の4月までは未勝利だったにもかかわらず、この馬なりに成長して、牝馬クラシックのラスト1冠にたどり着いたのだから素晴らしい。その躍進の血統的背景として、祖母のエアグルーヴの存在を認めないわけにはいかない。シーザリオも名牝であり名繁殖牝馬だが、エアグルーヴも同じく名牝にして名繫殖牝馬である。

1番人気に推されたソダシはどうしたのだろう。ゲートでガタガタして、立ち上がるような恰好でスタートし、隣の馬に接触したように、第1コーナーまでは決してスムーズではなかったが、道中はスローペースを2番手で追走して息も入っていた中、最後の直線では伸びあぐねてしまった。唯一、考えられる敗因としては、前走の札幌記念以降、厩舎に置いて調整を重ねたことで、知らずのうちにソダシが精神的に疲れてしまったということ。肉体的には上手く仕上がったように見えても、これだけの人気馬ということもあり、あらゆるプレッシャーを人間から感じ取り、参ってしまったのではないか。歯が折れたアクシデントはあくまでも表面的なことであって、ソダシは内面をあまり外に出さないタイプなのだろう。今後は牧場に返して、ゆっくりと休ませて、精神的にリフレッシュしてまたターフに戻ってきてもらいたい。

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