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予想する音楽

予想(思考)をする時、皆さんはどんな音楽を聴くのだろうか?

モーツァルトを聴くと、活性化された脳がアルファ波を誘発し、深いリラクゼーションや脳力を存分に発揮しやすい状態になるのは有名な話である。もちろんモーツァルトに限ったことではなく、その人にとって心地よい音楽を聴くと、それだけで右脳が刺激され、予想(思考)をするのに適した脳の状態になる。

私にとって、予想(思考)する際に聴く音楽の条件はひとつだけあって、それは「歌詞が入っていないこと」。歌詞が入っていると、どうしても言葉に引きずられてしまい、予想(思考)することに集中できないからである。

1、「ゴールドベルグ変奏曲」 グレン・グールド

グレングールド

グレン・グールドは、「極端に速く弾き、一方で極端に遅く弾く」、という両極端のテンポで演奏することをスタイルとした。極端に速く弾くことも難しいが、極端に遅く弾くことはさらに難しい。遅く弾くと、それだけ正確かつ明晰でなければ、音楽として成立しなくなるからだ。

競馬の馬券に言い換えると、銀行馬券である1.1倍の単勝を当てながら、次のレースでは300倍以上の3連単を的中させるといった極端さであろうか。特に1.1倍の単勝は外すことが許されないため、かなり正確かつ明晰な予想が求められる。本命党や穴党と自称し、単に人気のあるなしで馬券を買うような輩とは、グレン・グールドのスタイルは一線を画している。極端に速く弾けるのも、遅く弾けるのも、それを支える技術があってこそである。

グレン・グールドと競馬がごっちゃになってしまったが、いずれにせよ、卓越した技術と創造性をいやがおうにも目にする、とびきりの一枚である。演奏の途中でグレングールドのうめき声(?)も聞こえるので、ヘッドフォンをしながらこの演奏を聴くことをお薦めする。グレン・グールドのように、とまではいかないだろうが、とびきりハイな気分で悦に入りながら予想できること間違いなしである。

2、

ジョンコルトレーン

ジョン・コルトレーンほど短期間で大成長を遂げたプレイヤーはいないとされる。マイルス・デイビスやセロニアス・モンクといった巨匠たちに揉まれながらも、独自の斬新な演奏を極め、築き上げていった。晩年の音楽は難解すぎて理解されなかったが、それでもコルトレーンが最高のサックス奏者のひとりであることは、万人の認めるところである。残念ながら、40歳の若さにして惜しまれながらこの世を去った。

こうした背景を知るにつけ、どうしてもエルコンドルパサーという馬がダブって見える。サイレンススズカに胸を借り、グラスワンダーやスペシャルウィークと競い合いながらも、一気に世界の頂点に上り詰めようとしたエルコンドルパサー。凱旋門賞2着という、世界に最も近づいた馬。毎日王冠を勝ってからの歩みは、斬新であり、かつ求道的ですらあった。海外に渡ってさらに強くなった、不世出の名馬である。この馬も、わずか3年間の種牡馬生活を送っただけで他界してしまった。

ジョン・コルトレーンの傑作「至上の愛」を聴くと、そのイントロの凄まじさに衝撃を受ける。ゲートが開くよりも先に飛び出たのではないかと思わせる、抜群のスタートダッシュ。そして、中盤から後半に差し掛かっても、その勢いはとどまるところを知らない。まさに「テンよし、中よし、終いよし」と3拍子が揃った究極のアルバムである。このアルバムを聴きながらエルコンドルパサーのジャパンカップを観るのもよし、ジャパンカップを観ながらコルトレーンを聴くのもよし。

3、「MOMENTUM」 ジョシュア・レッドマン

ジョシュアレッドマン

アドマイヤドンはダートの天才であった。2歳時に芝のG1である朝日杯フューチュリティSを勝っているが、3歳秋を境になんとダート路線へと進路を変更した。それ以降、ダート馬とは似ても似つかない華奢な体ながらも、ダートのG1勝利を6つも積み上げ、ついにはドバイワールドカップにも挑戦した。ベストレースは、平成16年のフェブラリーSであろう。まるで調教のように余裕綽々と走り、進化したダート馬の誕生を印象付けた。芝を走ってもG1クラスではあるが、ダートでこの馬の右に出る者はいなかった。

ジョシュア・レッドマンが、ハーバード大学を首席で卒業し、イエール大学での法律修士課程を経て、弁護士の資格を持っていることは有名な話である。「学業エリートをフレコミにして売れたサックス奏者か」「大人しく弁護士やってりゃいいのに」等、一側面だけからの批評(批判)など、彼は軽々と超えていく。勉強も出来るし、弁護士にもなれるが、サックスはそれ以上に巧い。その道にのみ秀でていることが、必ずしも天才の条件にはならないのだ。ジョシュア・レッドマンはサックスで<世界>を見て、サックスで<世界>を理解する、サックスの天才である。



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