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夢ではなかった

最内枠を引いたソダシがスピードを生かしてそのままハナに立ち、譲ったインティ、行き切れなかったカジノフォンテンという並びで最初のコーナーを回った。初ダートのソダシにとっては砂をモロに被りたくないという意識が先頭に立たせたのだろうし、枠順が逆ならばインティが逃げていたはず。あらゆる要素が重なってソダシが誘導馬を務めることになり、前半マイルが49秒3、後半が48秒3というスローペースに落ち着き、前に行った馬たちにとって有利な展開となった。

勝ったテーオーケインズは、今回はスタートも普通に出て、走りたかったポジションを苦もなく取ることができた。休み明けであった前走を叩いて、体調もアップしていたこともあり、道中の手応えも抜群、あとは直線に入って抜け出すだけという競馬であった。驚かされたのは抜け出してからで、松山弘平騎手がステッキを一発入れると、後続を突き放す一方で6馬身差の圧勝、完勝、楽勝であった。歴戦のダートの猛者たちの中に入ると、筋骨隆々のゴツいタイプではないが、ダートで推進力を発揮する馬である。来年はブリーダーズカップに挑戦して、そのスピードを披露してもらいたい。

「週刊Gallop」誌にて、先週のジャパンカップと比較する形でチャンピオンズカップ出走馬の血統の多様性を書いた。勝ち馬の父を並べてみると、シニスターミニスター、キングカメハメハ、アイルハヴアナザー、ケイムホーム、ゴールドアリュールと多様である。生産牧場(者)に目を移してみると、ヤナガワ牧場、ノーザンファーム、岡田スタッド、山下恭茂、ヤナガワ牧場と、多様性が問われるレースにおけるヤナガワ牧場の強さも見えてくるだろう。今からおよそ4年前、ヤナガワ牧場代表の梁川氏にインタビューさせてもらったときの最後の言葉が忘れられない。

うちの牧場からもたまたまキタサンブラックとコパノリッキーが出て、有名人の馬主さんということで目立ったかもしれませんが、モーリスやホッコータルマエ、レッツゴードンキ、ゴールドシップなど、日高の生産牧場から出て走っている馬はたくさんいます。僕も夢だったと思って、もう一度、最初からやり直すつもりです。
一口馬主DB「梁川正普氏(ヤナガワ牧場代表)インタビュー【後編】より

こうして再びテーオーケインズのような名馬が出たのだから、キタサンブラックやコパノリッキーは夢ではなかったのである。年間数十頭しか生産しないヤナガワ牧場から、数年に一度、こうして一流馬が誕生するのは偶然ではないのだ。

松山弘平騎手は、前走と同じ轍は踏まないよう、スタートだけは気をつけて出した。道中のポジショニングも完璧であったが、最後の直線に向いた時、もう少しだけ外に出すのを待つことができれば、サンライズホープの邪魔をせずに完璧であった。サンライズホープは手応えがなくなっていたし、横を確認して外に出しているので許容範囲ではあるが、テーオーケインズの手応えを考えると、もう少し余裕をもって追い出しても良かった。

2着のチュウワウィザードはさすがドバイワールドカップ2着馬だけに地力がある。後ろからの競馬になり、展開が向かなかったにもかかわらず、テイオーケインズ以外の馬たちは全て差し切ってみせた。休み明けの前走を叩いて、調子が上向いてきたことも確かだが、まだ衰えはないことを示してくれた。

アナザートゥルースは正攻法の立ち回りで3着に粘ってみせた。2年前に中山競馬場で見たときは、ずいぶんと変わった性格の馬だと思っていたが、年齢を重ねるにつれて少しずつ競走馬としてまともになってきた。兄サウンドトゥルーもそうであったように、気性的にも晩成のタイプなのだろう。

4着に入ったインティも、最終コーナーの手応えはあわやと思わせるものであった。中間の馬体の張りを見ても、全盛期と遜色なかったし、結果的にも2着馬とほとんど差はない。復活という言葉は相応しくないが、良かった頃の走りを取り戻しつつある。

掲示板を確保したサンライズノヴァは、不向きな展開を差し込んでの5着だけに立派。この馬もヤナガワ牧場の生産馬であり、長きにわたってダートの一線級で活躍する能力の高さと健康さは持って生まれたものである。ここ最近は短い距離を使って馬に前進気勢を取り戻させる試みをしていたが、やはり1800m前後で末脚を生かす競馬がこの馬に最も合ったパターンである。

1番人気を裏切ったソダシは、今回に限っては明らかに人気先行であった。血統的にはダートを苦にしないし、パワータイプの馬体や走法であるが、芝とダートでは問われる走り方もレースのリズムもまるで違う。しかも今回は体調がピークアウトしている中での異なるジャンルへの挑戦だっただけに余計に厳しかった。

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