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逃げ切りの方程式

12.5 - 11.1 - 11.5 - 12.1 - 12.8 - 12.6 - 12.8 - 14.3 - 13.1 - 12.6 - 12.4 - 11.7 - 11.5 - 11.4 - 12.2(60.0-65.4-59.2)

13.3 - 11.5 - 11.7 - 11.7 - 11.4 - 12.1 - 13.1 - 13.5 - 12.7 - 12.9 - 12.3 - 11.9 - 11.6 - 11.5 - 12.0(59.6-64.3-59.3)

どちらがセイウンスカイの逃げ切った1998年の菊花賞で、どちらが今年の菊花賞か、パッと見て分かるだろうか。1ハロンごとのラップを見ると、8ハロン目で14.3が刻まれているのが唯一の手掛かりになりそうなぐらいで、前半1000m-中盤1000m-後半1000mに3分割するとほぼ同じに見えてくる。

前半1000mを比較的速いペースで進み、中盤は極限までペースを落とし、ラスト1000mで再びペースを上げる。前半でペースが速いと感じた中団から後方に位置するジョッキーたちは、前に行った馬たちはバテると考え、中盤でグッとペースが落ちても動かない(動けない)。中盤が極端に緩んだことで、前に行った馬たちも脚がたまり、後半で一気にペースを上げても意外とバテないどころか、そのまま突き放してしまう。そう、まさに横山典弘騎手が確立した長距離の逃げ切りの方程式であり、息子の横山武史騎手がそっくりタイトルホルダーを当てはめて逃げ切ってみせたのだ。

タイトルホルダーの姉は2019年の菊花賞で牝馬ながらに5着と健闘したメロディーレーンである。父ドゥラメンテにとって初のG1タイトルとなるが、冷静に考えると、母メーヴェの繁殖牝馬としての凄さが伝わってくる。メロディーレーンは340㎏台の馬体重で牡馬の一線級と混じって好走した馬であり、タイトルホルダーも460kg台とそれほど大きな馬格を有しているわけではないにもかかわらず、良質の筋肉に恵まれており、とにかくスタミナが豊富でありバテない。今後、マークされてしまうと、今回のようなラップ構成を刻むのが難しくなってくるだろうが、それでも長距離ならば先手を奪って、この馬の型にはめることができるはずである。

2着に入ったオーソクレースは、休み明けをひと叩きされて、走れる状態になっていた。春のクラシックをスキップしたことがここにつながった。それでも、まだこれから良くなる馬であり、まだ緩さが残る中での2着はこの馬の素質の高さの証明である。自分から進んでいかない後ろ向きな気性も、今回の距離としては合っていたが、本質的には中距離を得意とするパワータイプであり、本格化された頃は宝塚記念を狙ってもらいたい。

ディヴァインラヴは牝馬とは思えない馬格と正攻法のレースで3着を確保してみせた。オーソクレースとステラヴェローチェと叩き合ったのだから、相当な地力の高さである。とにかくエピファネイア産駒は距離が延びると良さが出るし、馬券的にも距離延長で狙うべき種牡馬の1頭である。福永祐一騎手は昨年こそ3冠のプレッシャーに苦しめられたが、今年は気楽に乗って、ディヴァインラヴの力を十全に発揮させてみせた。ここ数年の福永祐一騎手の手綱さばきは、どのジョッキーもが理想にすべき、良い意味で教科書にすべき騎乗が多い。

ステラヴェローチェにとっては少し上がりの速い競馬になってしまった。外枠からの発送となり、そのまま後方を進んで脚をためたが、勝ち馬のペースにはまってしまった。京都芝3000mコースであれば、勝負どころからの下り坂を利用して、外から一気に先行集団との差を詰めることができるが、阪神芝3000mコースでは小回りになるため捲り切れずに、外々を回されてしまい脚を失ってしまった。決して力負けではなく、馬場とコースが向けば、G1を勝てる器の馬である。有馬記念に出走してくれば楽しみ。

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