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最も力強さを感じたアブクマポーロ

ダート馬と芝馬では体型が違う。骨格から筋肉の付き方に至るまで、砂の上を走るのに適した馬体と、ターフの上を走るのに適したそれとは異なるのだ。ダート馬は前肢のかき込みが強くなければならない以上、前躯(胸前から脇まで)の筋肉が発達していることが求められる。ダートでは芝に比べてパワーが問われるため、馬格があって(馬体が大きくて)、マッチョな馬が向いていることは確かなのだが、特に前躯の筋力の強さが重要なのである。

私の知る限りにおいて、最も前躯の力が強そうだと感じたのはアブクマポーロという馬であった。東京大賞典や川崎記念、帝王賞などの地方のダートG1をほとんど総なめにして、中央にも殴りこみをかけたダートの鬼である。特に7歳になってからは凄みを増して、向かうところ敵なしの6連勝で圧倒的なパワーを見せ付けた。海外遠征も視野に入ってきた8歳の川崎記念の返し馬が圧巻であった。私は現地(川崎競馬場)でアブクマポーロの肉体を目のあたりにしたのだが、恐ろしさすら感じさせる馬体であった。もしダンベルを持ち上げさせたら、どれだけ重くとも持ち上げてしまいそうだなと思ったものだ。そして、実際のレースにおいて、最後の直線に向いて、並ぶまもなく他馬を抜き去る様は、まさにパワーの違いを見せ付けたという表現がぴったりとくるだろう。あのときの衝撃は今でも忘れられない。

アブクマポーロのような、いかにも筋骨隆々な馬体であれば分かりやすいが、筋肉の強さは見た目だけでは分からないこともある。たとえば、サンデーサイレンス直仔の中でも、ゴールドアリュールは自身もダートを得意とし、さらに産駒からもスマートファルコンやエスポワールシチー、シルクフォーチュンなどのダートの鬼を出している。彼らに特徴的なのは、決していかにもダート馬というマッチョな馬体ではないということだ。ゴールドアリュール自身もそうであった。パッと見ると、芝でも走られるのではないかと思わせるほど、スマートな馬体である。それでも彼らはダートでこそ恐ろしいほどの強さを発揮する。

それは前躯の筋肉が異常に強いからである。見た目以上に、筋肉の質が良く、パワーがあるのである。人間でいうところの上半身の筋肉が以上に発達しているということだ。格闘技をやっている人ならなんとなく分かるはずだが、外見からは分からなくても、組んでみると恐ろしく筋力が強いという人がいる。ゴールドアリュールはまさにそのタイプであり、上半身の強さ、つまり前躯の筋肉の質や発達の良さが産駒にも直接に遺伝しているのだろう。見た目だけでは分からない筋肉の強さがあるのである。

対して、筋肉の柔軟性という点においては、芝を走る馬は筋肉が柔軟であることが求められるが、ダートでは芝ほどに柔軟でなくともよい。まれに筋肉の柔軟性と強さを併せ持っている馬もいるが、ほとんどの馬たちはどちらかに偏っている(もしくはどちらもない)ことが多い。ダートを走る馬は筋肉の柔軟性よりも、筋肉の強さが求められるのである。

それ以外の馬体的な特徴を挙げてゆくと、ダート馬の蹄は小さく、立っているほうが良いという説がある。なぜかというと、ダートコースでは着地するときに馬の脚が砂の中に沈むので、脚を抜くときに蹄が小さく立っているほうが砂から受ける抵抗が少ないというわけだ。いかにもと思わせられるのだが、実際には蹄が大きくてもダートで走っている馬はたくさんいる。同じことが、ダート馬は繋ぎが短い方が良いとされている説にも当てはまる。それほど大きな影響があるとは思えず、ダートを走るための絶対条件ではない。

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