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ドイツ系統繁殖の勝利

押し出されるような形で武豊騎手のブルームが先頭に立ち、英ダービー馬であるアダイヤ―と日本のクロノジェネシスが続く。この隊列だけ見ても、さすが凱旋門賞と言ったところ。道中は凱旋門賞にしては流れた方ではないだろうか。最後の直線では、中団で脚をためた馬たちが内と外に分かれて伸びた。今年も重馬場で行われたように、不思議と最近の凱旋門賞は雨に降られることが多く、パワーはもちろんのこと、無尽蔵なスタミナと最後まであきらめない精神的な強さを求められるレースになっている。

勝ったトルカータータッソはドイツの生産馬。血統表を見てもらえば分かるが、父方の3代母Alyaと母方の4代母Allegrettaは父母が同じ同血であり、つまりトルカータータッソはAlyaとAllegrettaの3×4の牝馬クロスということになる。さらにその血を辿ってゆくと、ビルカーン、アルケミスト、ヘロルドとドイツ父系の祖たちに行き着くように、トルカータータッソは現代に受け継がれるドイツ系統繁殖による生産馬なのである。パドックで見たときは非常に美しい馬だと感じたし、レースに行っても苦しくなってからさらに伸びる姿勢はさすが精神性を重んじるドイツ馬である。

惜しくも2着に敗れたタルナワもあと一歩のところ。珍しくゲート入りを拒んでいたように、ピークの状態に仕上げられて、さすがに気持ちが苦しかったか。それでもレースに行くと最後まで伸びる姿勢はさすがである。直線内が伸びる馬場を利したスミヨン騎手の思い切りの良さも光った。3着のハリケーンレーンもパドックで良く映った1頭であった。この馬が1番人気になるとは思っていなかったが、人気に応えた素晴らしい走りであった。

日本のクロノジェネシスは真っ向勝負に行ったが、最後の最後で力尽きてしまった。それでも直線半ばまでファイトしていた姿はフランスの競馬ファンの目にも焼き付いたはず。今回はギリギリまで日本で調教して、向こうに持って行く手法が選択されたが、クロノジェネシスにとっては吉と出たように見えた。パドックでも落ち着いていたし、向こうの環境にもすぐに適応していた。いきなり欧州競馬に行って、今日のような特殊な馬場に対応するのは、どう考えても難しい。半年か1年間は向こうに滞在し、レース経験を重ねる以外の方法で臨むのであれば、まったく違う競技、まったく異なる土俵でも勝てるぐらいの実力馬を連れていくしかない。それは10年20年に一度のディープインパクトやオルフェーヴル級の逸材であり、彼らでさえ勝てなかったのであれば、今のような短期決戦型では何年経っても凱旋門賞を勝てないということを意味するのではないか。

ディープボンドは前に行くことすら叶わず、自分の得意な形で競馬ができなかった。前走の疲れが出てしまったのだろうか、それとも今回のような馬場が全く合わなかったのか。いずれにしても、最後は歩いてしまっており、勝負にならなかったが、前哨戦のフォア賞を勝ったことの価値は失われない。キズナ産駒としては長距離に適性のある珍しいタイプである。とはいえ、筋肉量の多い馬体だけに、さすがに今回のような厳しいレース(馬場)になってしまうと苦しい。日本に戻ってきてから、今日の経験が生きることを願う。

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