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流れというもの

競馬のレースにも人生にも流れというものがあって、それに上手く乗れた者が勝者となり、そうでないものが敗者となる。もちろん、流れに乗っただけでは勝てないので、勝ったということは強さを兼備していたということではあるが、流れに乗れずに敗れた者たちの中には強さを秘めている馬がいたということも忘れてはならない。今年の朝日杯フューチュリティステークスは、ドウデュースが流れ乗って勝った強い馬であり、2~5着馬は流れに乗れずに敗れてしまった強い馬たちということになる。

カジュフェイスがハナに立ち、前半マイルが46秒2、後半マイルが47秒3という引き締まった流れでレースを引っ張った。前半がやや速いと感じたのか、それとも阪神芝1600mコースの最後の長い直線を考慮してか、好スタートを切ったダノンスコーピオンやセリフォスの鞍上は引っ張り気味に前半を走らせていたのに対し、勝ったドウデュースはスタートから一度もブレーキを踏むことなく最後の直線を向くことができた。勝つときはこういうもの、と武豊騎手は思っているはずであり、まさに全てが完璧に運んだ美しい勝利で念願の朝日杯フューチュリティステークス制覇を成し遂げた。

ドウデュースはハーツクライ産駒にしては胴部が詰まっている体形だけに、距離短縮はむしろプラスになった可能性があり、逆に言うと、来年はクラシック戦線に臨むとすれば皐月賞の2000あたりが上限ではないだろうか。ハーツクライ産駒らしく落ち着きがあって末脚も堅実であるが、ハーツクライ産駒にしては緩さが少なく、コロンとして映る。5月7日の遅生まれにもかかわらず朝日杯フューチュリティステークスを制したように、ハーツクライ産駒の枠組みにとらわれてはならない馬である。NHKマイルカップを最終目標にしても良いかもしれない。

セリフォスは自分の競馬をして力を出し切っているが、勝ち馬の末脚が一枚上であった。欲をいえば、あそこまで引っ張らず、もう一段前の馬群の外のポジションで、この馬の大きなフットワークを生かす形で走らせてあげると良かったはず。このあたりがテン乗りの難しいところである。ダイワメジャー産駒らしからぬ手肢の長い馬体で、母系の良さが引き出されている。仕上がりが早く、若駒の頃は馬体が硬くならずに健康に走ることができるところはダイワメジャー産駒らしい。よって距離が延びても2000mまでは十分に守備範囲である。

ダノンスコーピオンは絶好のスタートを決めたにもかかわらず、抑えたことで思ったよりもポジションを悪くしてしまい、最後も前が壁になって追い出しが遅れてしまった。最後は伸びているものの、この馬の力を出し切ったとは言いがたく、実に悔やまれるレースであった。セリフォスの前を取ろうと攻めて乗っていればポジションは逆になったはずであり、勝っていたかどうかは分からないが、もっと際どい勝ち負けになっていたはず。これもテン乗りの難しさではあるが、松山弘平騎手らしからぬ消極的な騎乗であった。ロードカナロア産駒らしくコロンとした体型であり、この馬は来年まっすぐにマイル路線へと駒を進めてもらいたい。

4着、5着の馬は道中の折り合いに不安があった馬だけに、後方から決め打ちをしただけに、届かないという結果は甘んじて受け入れなければならないだろう。スイッチが入るとガツンと持って行かれてしまいそうな馬たちだけに、ペースが流れたことは吉と出たはず。それでも届かなかったのは、上位3頭の馬たちの方が完成度は高かったということ。アルナシームは素晴らしいバネと瞬発力を秘めているので、レースさえ覚えてくれば、結果もついてくるようになるし、ジオグリフはひと息入れて、精神的に大人になればもう少しポジションを取りに行けて自分の競馬ができるようになるはず。どちらも将来が楽しみな馬たちである。

「ROUNDERS」は、「競馬は文化であり、スポーツである」をモットーに、世代を超えて読み継がれていくような、普遍的な内容やストーリーを扱った、読み物を中心とした新しい競馬雑誌です。