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あなたにとっての名勝負とは?

名勝負とは何だろうか?

かつて、田原成貴という騎手が、「平成8年の阪神大賞典でのナリタブライアンとマヤノトップガンのマッチレースは、言われるほど名勝負ではない」と言っていたことを、ふと思い出した。田原氏は、あの阪神大賞典は、「マヤノトップガンがただカウントを取りにゆくようなストレートを投げ、それをブライアンが打ち返しただけのレースである」と主張する。お互いが100%の力を出し合った上で、鎬を削ったレベルの高いレースではないというのだ。

それに対して、今度は武豊騎手が、平成9年のマヤノトップガンがサクラローレルやマーベラスサンデーをまとめて差しきった天皇賞春を、「マヤノトップガンはハマッただけ」と言っているのも面白い。横山典弘サクラローレルと武豊マーベラスサンデーが互いに意識をして早めに仕掛けた中、後方で待機して漁夫の利を得たのが田原成貴マヤノトップガンであったということである。

田原氏の主張も、武豊騎手の意見も、お互いに間違ってはいないだろうし、そういう見方も当然あると思う。そして、騎手である以上、自分の負けたレースを名勝負とは認めたくないということでもあろう。つまり、1つのレースを取っても、観る人の視点や立場が異なれば、名勝負ともなり、凡レースともなるということである。

それでも、名勝負とは、「それぞれの背景をもつ役者が揃ったレースで、その役者たちがあらん限りの力を出し切って死闘を繰り広げたことにより、観客に感動を呼び起こすこと」であると私は思う。

勝負である以上、勝ち負けが存在するわけだが、名勝負に勝ち負けはほとんど関係ない。阪神大賞典のマヤノトップガンは負けはしたが、ナリタブライアンに最後まで食らいついたことにより、壮絶なデットヒートを演出した。一方の天皇賞春では、サクラローレルとマーベラスサンデーが火花の散るような意地の張り合いをしたことにより、マヤノトップガンの奇跡の豪脚を演出した。

そして、名勝負に何よりも大切なことは、どれだけ観客の心を動かしたかどうかということである。たとえばボクシングでも、鮮やかに勝った試合よりも、たとえ負けたとしても、何度倒されても立ち上がった試合の方が観客の心を動かし、名勝負とされることが多い。そういう意味では、平成8年の阪神大賞典も平成9年の天皇賞春も、どちらのレースも名勝負であると私は思う。

あれから20年以上の年月が経ち、日本馬のレベルは海外に匹敵するほど格段に上がった。しかし、その反面、私たちの心を動かす名勝負が繰り広げられることが少なくなった気がしていた。そんな中、昨年のジャパンカップでアーモンドアイとコントレイル、そしてデアリングタクトの3強がプライドを賭けて繰り広げたレースは、まさに名勝負であった。久しぶりに競馬って最高だと思った。

あなたにとっての名勝負はどのレースですか?


☆私が選ぶ名勝負ベスト3☆
①平成9年天皇賞春 
マヤノトップガン×サクラローレル×マーベラスサンデー
早く動いた順番にゴール前で逆転されたという、このレースの勝負所からの駆け引きと真剣勝負は鳥肌ものです。


②平成5年天皇賞春 
ライスシャワー×メジロマックイーン
限界を超えて走るライスシャワーに、鞍上の的場均騎手が畏怖の念を覚えたというレース。あのマックイーンがねじ伏せられたのは衝撃的でした。

③平成6年マイルCS 
ノースフライト×サクラバクシンオー
最高のマイラーと最強のスプリンターがマイル戦で争うと、このような勝敗の形になるというレース。どちらの馬も惚れ惚れするほど速かったし強かった。


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