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設計労務単価から読み解く土木建設業界のリアル

調査結果を深掘りします!

と前号で追記するといいましたが、結局一冊のボリュームになってしまいました。

早速ですが、令和2年3月適用 設計労務単価のポイントについておさらいをしましょう。

① 上昇率は全国平均単価で+2.5(%) 

② 金額では初の20,000(円)の大台超え 20,214(円) 

③ ただし、①の対前年上昇率2.5は、集計方法が変更されて以来 最小

これらを踏まえて、以下の2枚の図表を見てみましょう。

1枚目は発表資料そのままです。平成9年度から令和2年度までの設計労務単価の全職種平均値が棒グラフで示されています。

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2枚目は、ある地方整備局が過去に発表したもので、主要7職種の設計労務単価の時系列折れ線グラフです。平成元年から平成22年までの期間ですが、上のグラフに表されていない平成9年以前の労務単価の推移も見ていただきたいので引用しました。

解りやすいように平成9年度にオレンジ色の縦ラインを引いています。棒グラフを探せばよかったのですが、結果は変わりませんので、一番上の特殊作業員の折れ線を、棒グラフにつなげるイメージで見てください。また、この年の調査から交通誘導警備員が追加されていることも、比較において重要なポイントです。

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平成9年4月で2つのグラフを繋げ合わせると、平成元年からの変化が概ねイメージできます。重複した期間のグラフの動きは一致していますね。平成元年から上昇を続けていた労務単価が、平成9年4月以降、特に平成11年から大幅に下落しています。

「原因は建設投資の減少である」、と報告書では説明されています。建設投資が減少して賃金が下がると言いきるのは説得力が弱いと感じるのですが、内閣府の経済財政白書や、国土交通省発の資料(下記参照)を読んでも、特に日本経済を大きく揺るがすような出来事が起きていないので、国内の不景気感や労働需給を雰囲気として建設業者の賃金下落を招いたと考えることにしましょう。

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平成11年末 内閣府 経済財政白書 抜粋

第10節 景気を下支えする公共投資
景気を下支えする公共投資
民間需要の回復力が弱いなかで、景気は緩やかな改善が続く
公共投資…需要面から景気を下支えする大きな役割を果たす

公的固定資本形成…98年10-12期以降前期比で増加
99年7-9月期:前期比ではマイナス(第1-10-1図)
但し、前年同期比では3四半期連続で10%を上回る伸び
年半ばから低調な動きとなった公共工事着工
99年1~4月にかけては前年を大きく上回る水準で推移
その後伸びが鈍化、低調な動き
しかし、事業の実施は着実に進む

「経済新生対策」の策定とその効果
公需から民需へのバトンタッチを円滑に行い、景気を本格的な回復軌道に乗せるととともに、21世紀の新たな発展基盤を築くため、11月11日に「経済新生対策」を決定
社会資本整備関連の事業規模…6.8兆円程度
社会資本整備による今後1年間のGDPへの効果→実質1.6%程度(太字:トムロ)

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建設投資額のピークは平成4年であるが、平成10年⇒平成11年が特別に減少しているとまでは言えない。建設業就業者数も同様の傾向。また、建設許可業者数はむしろ平成11年度がピークである(トムロ)

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その後、平成25年から上昇に転じた労務単価ですが、ピークである平成9年の 19,121 (円) を上回りました。

併せて注目すべきは、上昇に転じた平成25年からの8年間で、対前年上昇率が2.5で最も低かった、つまり上昇率が鈍化したということです。後でまたこの件が出てきますので、覚えておいてください。

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ちなみに、同日に公表された機械設備製作工、機械設備据付工の賃金は、必要経費を含まず対前年比+6.3(%)でした。こちらは真逆で、近年ほど対前年比率が指数関数的に上がっています

どの単価も凄いことになっていますね。

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さて本題に戻ります。続いて、もう一つ集計表を見ていただきます。

2/14付け 建設通信新聞からの引用で、2020年3月期までの売上上位ゼネコン26社のランキングです。名立たる会社ばかりです。26社の売上高の合計は、年間の公共工事費のほとんどを占める感すらあります。

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26社のうち24社、実に92(%)が前年同期比で増収。さらに約半数の15社が純利益ベースで増益です。少しかすれて見にくいですが、網掛け部は過去最高額となった会社の金額です。売上高で9社、純利益で6社が過去最高です。

驚きませんか?なぜこのような景気のいい結果なのでしょう?あなたは頷けますか?

ゼネコンの施工管理者の月総労働時間は?職人の年収は?各社の増益分はいったいどこに?設計労務単価がリーマンショック前を超えたにもかかわらず、前年比率が最低となったのはなぜでしょうか?

トムロの深読みはこうです。

平成21年、リーマンショックの影響や政権交代下で公共工事は縮小や中止を余儀なくされ、受注競争が増した。そこに輪をかけて、指名競争入札などの制度にも制限がかかりました。

生き残りをかけた企業は過度のダンピングに走らざるを得ず、予定価格に達しない入札や、不得意分野や小口工事にはそもそも入札に参加しないなど、行政ともに疲弊する事態を生みました。派生して品確法の観点からも対策を迫られました。

同時に顕在化した人口減による担い手不足など、将来の国土維持などに大きな不安を内包する状況の中で、行政側、施工業者側双方で事業継続するための策を編み出して行くこととなったのです。

行政側の策は、平成25年度から設計労務単価に社会保険料を含むという集計方法の大幅変更を行うことで、前年比15(%)もの上昇を導きます。これだけでも相当な荒療治ですが、その後も毎年3(%)を超える異常ともいえる上昇率は、実態調査に基づき公共工事を円滑に遂行維持するためにも必要なことだったと推察されます。

一方、多くの企業は売上の多くを内部留保に勘定することで、実質不況下で不測の事態に備える体質となりました。現場監督の声を聞くと、酷い残業と休日出勤で悲鳴に近いものとなっています。

私は、平成25年以降の設計労務単価の上昇率が、担い手不足や高齢化だけでは説明できないと思っています。実質賃金は数値ほど増えてはいないと感じるのです。

理由の一つは多重下請け構造です。もう一つは極めて私見ですが、春闘でもほんの一部の会社以外は賃上げが行われないことを背景に、デフレどころかスダグフレーションに陥っていると見ています。政府、日銀は認めていませんが、これでは消費マインドが高まるはずもありません。

我が国の企業は、諸外国は比べて株主配当が極めて低いことが長年言われています。材料費、運送費などのコストを上乗せはしても、頑なに賃上げや配当をしないため内部留保が膨らみ続けた結果、先ほど示した売上高・利益になっている、とトムロは分析しています。

株主配当も大切ですが、それ以上に従業員の賃金に利益の分配がなされなければ、必要経費として履かされた下駄の上に乗る分が年々減っていきますので、設計労務単価の上昇率の鈍化は当然の結果なのです。もしかすると来年はマイナスとなるかもしれません。

さらに賃金および労働環境を悪化させている事実が、図らずも国土交通省の次の資料から読み取れます。

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建設技能労働者が31日当たりに取得できた休日は7.3(日)です。この場合、平均値はあまり意味を持ちませんので、中央値で見ることは正しいと思います。ただ、この内容で働き方改革の推進を論ずるなど詭弁であり、単純に労働基準法を守って施工することが求められるだけのことです。

順法内ですから、建設業には月給制より日給制であるほうが都合の良いかたや、個人事業主も多くいます。休日日数が10日以上のデータなどはほぼ日給月給でしょう。決して少なくない人数です。ほとんど働いていない方がいるのもなかなか趣がありますね。彼らこそ、元祖働き方改革者ではないでしょうか?

このように様々な働き方で、今までと同じか、それ以上の年収となるよう、就業規則の改善や啓蒙活動、補助金制度などの普及への取り組みが行政に求められていると感じます。

有給休暇取得率も同様です。有給休暇は謂わば賃金です。ここでも重層構造であることが、高次の下請け企業に負担がしわ寄せられているという結果が現れています。若干の憤りを感じるのですが、資料4での「~な傾向」や「~な恐れがある」といった表記は、極めて他責的であると言わざるを得ません。行政府として、やり抜くという覚悟を示してほしいものです。


あたり前ですが、設計労務単価や諸経費率が上がることは業界にとっては大変良いことです。
行政側も様々な法律に縛られながらも、新しい試みを打ち出し建設業界の変革を模索し懸命に努力していることは承知しています。途絶えていた指名競争入札も、今年から条件付きではありますが復活しています。社会基盤の新設・維持は税金でしか賄えません。同じ税金で年金を受給していても、電気や水道が止まれば生死にかかわります。
土木建設業は自動車産業のように多くの産業の集合体です。公共工事によって様々な業種にもお金が回るのです。お金は1カ所にとどまっていては澱みます。ダイナミックに循環させなければいけないのです。

さて、調査結果は出ました。トムロも折に触れ、お会いする職人さんに次のような質問をするのですが、ここで発注機関および、受託業者のあなたに問います。

あなたの給料、手取り額、時間単価は調査結果どおりに年々上がっていますか?社会保障費は払っていますか?建設業への義務化に向けて週休2日はとれていますか?安定した働き方ができるよう月給化していますか?有給休暇は取れていますか?日給者の場合、手当による補填はありますか?公共工事が民間工事より敬遠されるのはなぜでしょうか?発注者は現場に来ますか?事故予防策を指南してくれますか?後継者を育成する時間や心の余裕はありますか?と。

50年後100年後の日本を傾かせる訳にはいきません。一つ一つ問題を解決していく強い志が求められているのです。

期待していた調査結果の1つが今回示されませんでした。昨年から受け入れが始まった、特定技能外国人のかたの賃金です。建設業での受け入れは(2月時点で僅か9人だそうです) 訂正:2019/12末時点で107人。「日本人並み」という情報は確認できましたが、ここで公表しないのでしょうか?別の公表機会があるのでしょうか?注視していきたいと思います。

長くなりましたが、勝手な言い分で結論とします。

◆国はコンプライアンスや技術向上要件、社会保険加入要件を厳格化した分、下請けに適正に賃金・経費が行きわたるよう、元請けの監視を強化しなければいけません。

◆職人が現状を変えるには

・ゼネコンの株を買い、ステークホルダーになりましょう。

・市議会議員から国土交通大臣になりましょう。

この2択しか抜本的な方法はありません。

文章だからこそ極論を書きました。ふざけているわけではありません。が、批判がありましたらコメントをつけて下さい。

ありがとうございます