てんどん記感想(ネタバレあり)

ミカさんをひっくり返すと、カミさん。…神(カミ)さまだ!と湯船の中で「ふと思った」。
12/25、草月ホール、男性ブランコ単独公演「てんどん記」の配信を視聴した夜のことだ。
彼らはいくつかのコントを重ねてひとつの世界観を浮き立たせ、見る者に笑いと謎解きの楽しみを置いていく。

予告のビジュアルから「てんどん」が天動説を示すのを想像させ、実際に「家族記」で明らかになった今回の舞台は、いつも曇り空が広がる壁に囲まれた世界。
「わるいこわるいこしてたらてんどん様に海老天でシバかれる」と畏れ、困っている人をみたら助けるのが当たり前と動く「精神清潔」な登場人物たち。「兄者」と呼びかけるヒトシ。鯱のトラミを愛するあまり、鯱になってしまった男。
どこか宮沢賢治の童話に出てくるような純朴さと、不可思議さをたたえている。

そう、いつも男性ブランコのコントからは、現実を描いてるのに、現実世界とはかけ離れた不思議な空気が漂っている。

そして、誰もがてんどん様を畏れると同時に、「ミカさん」を待っている。「曇った関心」の男も、「ふと思った」の二人も。
果たして「ミカさん」とは何者だろう?舞い踊るお母さんの読んだ童話のミーちゃんと同一人物なのか?

付け加えるが、登場人物すべてが壁のある世界を当たり前の事としてはいない。
「そのほうがおもしろいから」と、世界の壁の向こうに世界があることに気づく「家族記」の学者がその代表だろう。配置されるキャラクターがどれも個性的で、役割を持っている。

役割といえば、「曇った関心」の易者は今回の重要なキーマンだ。

ここからはあくまで自分の妄想なのだが、易者は、人間界のこちら側と、壁の向こうのあちら側を行き来し、人間が自らあちら側に「ふと」気づくように仕掛たのではないか。
「曇った関心」でミカさんを待つ男を利用して、てんどん様という、架空の偶像に仮装させて。
「ふと思った」で「さっきあっちでね…」とてんどん様が言いかけたのがその証拠だ。
そもそも易者の占う値段が安いのも、筮竹を「占い細棒」と口をついて出るのも、元々の易者ではない理由たり得る。
占いという預言する行為は、あちら側の意図を自然な形で伝えるにふさわしい。
最後に、易者が戻ってきた場所で、やっと登場した「ミカさん」が、首にミミズのようなストールを巻き、天丼を食べている。
混乱する人間界を「そのほうがおもろいやろ?」と静かに笑いながら。今度はまぁるく作ろうと思うんだよ、と。
童話の中のミミズのミーちゃんはミカさんで、ミカの反対は、神。
映し出されるアニメーション。巨大なミミズが取り巻き、いつも曇り空の、壁に囲まれた天動説の世界は、塔の扉が開いた瞬間、晴れた。まるでミカさんの笑顔のように、晴れやかに。

#てんどん記  
#男性ブランコ  

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