深呼吸するために
近所の神社に詣でてきた。出来ることをやって、休めるところは休んで、の一環。買い物や食事、人と会うのも好き。そういう発散方法もある。だけど、今はひとりになりたい。そういう時期なのだと思う。
電車を乗り換え、二駅先。潮の匂いがする境内。大通り沿いなのに、鳥居をくぐると急に静かになった。手と口を清め、神前に向かう。二礼 二拍手 一礼、目を閉じて神様とお話を始めた時、後ろから呻き声とせわしない足音が迫ってきた。
なるべく邪魔をされたくなかったのに…。尖った気持ちで目を開く。視界の隅に、脳性まひの青年と、手をつないだお父様が映った。二人は神前を横切り、賽銭箱の脇をくぐり、お社を一回りしてまた出てきた。一部始終眺めてしまったから解る。つまり集中は途切れていた。苦い気持ちと、苦い気持ちを持ってしまった自責の念で再び目を瞑る。
とにかく神様にお願いはしたし、少しはお話もできたからよしとしよう。しみったれた気持ちで振り返ると、そのお父様が正にうしろにいて、話しかけてきた。
「あのね、あのね、あちらに新しく改築された素晴らしいお社がありますよ、是非行ってご覧なさい」呻き声を上げながら手を引っ張る息子を押さえながら笑ってくれた。
私はハッとして、神様に読まれているな、と恥ずかしくなった。そして、それでも縁をつないでくださるおつもりに感謝した。「はい、ぜひ」
新しく改築されたお社は、建材の香りも真新しい、静かな空間だった。今度はゆっくりと、しかし先ほどの反省を込めて詣でた。そして、境内にある他の小さなお社を丁寧に一礼してまわった。
欲まみれを自覚してあくせく暮らし、浅い呼吸で疲れてしまい、深呼吸したいがために神社に詣でたはずなのに、お前はここまで来ても己が欲を振りかざすのか、と神様に一発かまされたのだろう。だが、仕方のない奴め、教えてやるから掴んでごらん、と言われているようだった。
とにかくやれることをおやり。ゆっくりと。間違ってもいい。ただし、周りの人の想いがあってこそであることを忘れるなよ。
そんな風に思えた。
御神籤をひいた。図らずも大吉だった。
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