ひとりじゃないよと伝えたかった
おせっかいをやってしまった。
でも後悔はない。
マンションの共有廊下から聞こえる子どもの声。
「お母さん、お母さんー!」「開けて!」
耳を澄ますと、何軒か隣で子どもが閉じられたドアに向かって泣き叫んでいる。
おそらく2歳か3歳くらい。
ドアの向こうからは怒っているような女性の声が聞こえる。
胸が締め付けられる。
私にも覚えがあるから。
理由が何だったかは思い出せないが、私も子どもを追い出したことがある。
瞬間的には、追い出された恐怖から子どもは言う事を聞いてくれた。
でも、突き放した(追い出した)ことは、確実に子どもの心を傷つけた。
親としての信用も失った。
何年も経って、小学生になった子どもが不登校気味になったとき、
「お母さんはあなたの味方」と言っても信用してもらえなかった。
それまでの自分が、子どもの気持ちに寄り添っていなかったことに気付かされた。
面倒だから、時間が無いから、周りの迷惑だから。
いろんな理由でその場しのぎの対応をしていた。
子どもが何に困っているか理解しようともしていなかった。
その後子どもが学校に再び登校できるようになるには、
私自身の考え方の転換と長い時間が必要だった。
だから、自分の後悔を他の人に繰り返してほしくないと思った。
とても他人事とは思えなかった。
様子を見ようと玄関の外に出てみた。
私の気配がしたからか、泣き叫んでいた子どもは家の中に呼び戻された。
そのドアの前まで行ってみると、室内から怒っている女性の声が聞こえる。
(室内から)「何度も言ってる!!」・・・
引き続き子どもの泣き声。
勇気を出してインターホンを鳴らしてみる。
何ができるか、何を言うかなんて考えていなかったけど、
この親子を二人きりにしたくない。そう思った。
「ピンポーン」
...
「ピンポーン」
...
室内は静かになった。
3回目で反応がなかったら諦めようと思った。
「ピンポーン」
「はい」
「あの、えっと、同じ階の〇号室の××と言います。
少しお話したいと思って」
「いま忙しいです」
「ちょっとだけお顔みて話たいので、少しだけ出てきてもらうことできませんか」
ドアが開く。
自己紹介と挨拶、子どもの泣き声がしたから訪ねたことを伝えると、
「迷惑かけてすみません」と言われてしまった。
「そうじゃないです。」と即座に否定。
私にも同じことをした経験があるから、放っておけなかったと説明。
子どもはとても傷つくし決して忘れない。
私はそのことをとても後悔している。
あなたが悪いわけではない。
辛いときは、いつでもお茶を飲みに来て。
ひとりじゃないよ。我慢しないで。
そんなことを話した。
なぜか私も相手の女性も泣いていた。
よくこんなおせっかいを出来たものだと思う。
都会の高層マンションで近所付き合いも全くないのに。
でも後悔はない。
余計なお世話だと思われていても、変人だと思われても、自己満足でも良い。
お母さんも子どもも悪くない。
ひとりじゃないよ。あなたは悪くないよ。
そう伝えたかったから。